細川馨
ビジネスコーチ(株) 代表取締役

 前回は、多くのリーダーが抱える「自分のやり方を押しつける」ことを例に、エグゼクティブ・コーチングの手順についてお話ししました。今回も、実例を挙げてその改善方法を解説しながら、エグゼクティブ・コーチングの効用についてお話ししていきたいと思います。

◆事件簿ファイル3――情報共有できていない商品開発部長C氏

 あるメーカーの商品開発部長C氏は、部下たちとのコミュニケーションを大切にすることをいつも心がけていて、部下の意見や話にもよく耳を傾けるように努力していました。会議でも「お客様を第一に考え、満足してもらえる商品を開発する」というミッションを繰り返し部下に伝え、売上目標10億円に向かって努力するように言っていました。

 あるときC氏は、浮かない表情をしていた部下Zさんのところに行き、尋ねました。「Zさん、何か悩んでいることがあるの?」

 Zさんは言いました。「売上目標10億円と言いますが、これを達成するために自分が何を実践すべきなのか、全然思い浮かばないのです。」

 C氏は答えました。「みんなにはそれぞれのやり方で取り組んでもらっている。Zさんは自分なりにどんなことができるか、真剣に考えてみたかな? まずは自分の課題を見つけて、できることを実践してみたらいいと思うよ。」

 C氏はZさんと話ができ、適切にアドバイスができたと満足して席に戻っていきました。しかし、Zさんは納得できないまま、考え込んでしまいました。

 商品開発部長C氏はZさんに対して、大きなミスをしました。なんだかおわかりになるでしょうか?

○情報を共有していない

 C氏は部下とのコミュニケーションを大事にし、神妙な面持ちのZさんに話しかけ、彼女の話を聞き出して誠実に答えた、と自分では満足していましたが、彼女と本当の意味での情報共有が全くできていなかったのです。

 Zさんに声をかけたところまではよかったのですが、Zさんは「売上目標10億円を達成するために何をすればいいのか」という点について、具体的なアドバイスがほしかったのです。C氏はそれに対する答えを何も提供できませんでした。

 数値目標を掲げたとき、その数値だけを部下に伝え、がんばろうということだけに終始してしまうエグゼクティブの方がよくいます。本人からすれば数値目標を伝え、しっかり取り組んでほしいということを伝えたのだから、十分だろうと思うかもしれません。しかし、それを達成するために、どのような行動をとるべきなのかをチーム内で話し合い、進むべき方向を共有し合わなければ、真の情報共有ができたとは言えないのです。