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21世紀医療フォーラム 良い医者、良い医療を創るプロジェクト
トップページ医療を変える質のよい医療を提供するためには施設の集約化が必須

『連載 医療現場に聞く』第1回

質のよい医療を提供するためには施設の集約化が必須

北関東循環器病院院長 南 和友氏インタビュー(2)

2010.04.16 聞き手・構成:21世紀医療フォーラム取材班 狩生聖子 文責:日経BPnet編集プロデューサー 阪田英也

北関東循環器病院院長
南 和友 氏

心臓血管外科医であり、ドイツで30年以上、数多くの心臓手術、心臓移植を手がけてきた南和友氏。「日本の心臓外科医の平均的水準は、世界的なレベルからかなり立ち遅れている」と警告する。インタビュー第1回に続き、医療の背景にある問題、専門教育や施設の集約化の必要性などについて具体的に聞いた。
(聞き手・構成:21世紀医療フォーラム取材班 狩生聖子 文責:日経BPnet編集プロデューサー 阪田英也)

――次に、医師の専門教育の問題についてお聞きしたいと思います。南先生は、“日本では外科のトレーニング法に問題がある”と指摘されていますね。

南 外科のトレーニングは、1にも2にもメスを握ることです。そのため、できるだけ多くの手術に入れるようにする必要があります。ところが日本では病院の数が多く、施設あたりの症例数が少ないので、手術室に入っても若い医師はなかなかメスを握らせてもらえません。見学ばかりということも多いのです。

日本とドイツの専門医制度を比較してみると違いがはっきりとわかります。ドイツでは心臓外科専門医になるまでに500例の手術を行わなければなりません。しかし、日本では10分の1の50例です。500例と50例の差は大きいです。また、専門医になった後も症例の少ない施設にいればメスを握る機会が減ってしまいます。もちろん、日本にも常に執刀を行う、レベルの高い技術を持った医師もいます。しかし、施設間で医療格差が生まれてしまうという事実は変わりません。

専門医と聞いて受診したのに、ある患者は良い医療が受けられ、ある患者はそうではなかった、ということもあります。前にお話ししたように、施設の分散によって患者の争奪合戦になってしまう材料となります。

――これを解決するために集約化が必要だということですね。

南 ドイツでは「質のよい医療は量をこなしてはじめて生まれる」という思想があります。国の方針として病院の数を制限し、年間の心臓手術症例数の最低ラインを600例、平均で1000例を基準にすることで、“質のよい医療”を国民に提供するように定められています。症例数が少ないと技術がキープできませんし、若い人への指導ができないからです。また、手術のための設備も手術が少なければ無駄になってしまいます。

ですからドイツでは、仮にこうした基準を満たさない病院ができた場合、国民の9割が加入する一般義務健康保険を扱う保険会社は、被保険者がその施設で治療を受けたとしても、治療費の支払いに応じなくても構わないことになっています。

日本では、東京だけで心臓手術を行う施設が100以上あります。全国レベルでは500以上。これはドイツと比べて格段に多い数字です。この結果、年間の手術数が200に満たない施設が8割以上を占めています。単純計算をすると、年間の症例数が心臓外科医1人あたり20例、これを週に換算すると、2週間に1回程度の手術数ということになります。この程度では技術を磨くことはおろか、腕が落ちないようにするのも困難です。ドイツでは研修1~2年目の医師でさえ、年間5~600例の手術に入るのが普通です。

こうした背景があるからでしょう。私がいたドイツの病院には、日本から留学して来る医師が常にいました。その理由のほとんどが、「心臓外科に入って10年近くもたつのにいまだに自分1人で手術ができるようにならない」というものです。

よい医療の提供や限られた医療費を効率的に使うためにも、今後、日本において施設の集約化が必要になっていくと思われます。もちろん、簡単にはいきません。というのも心臓外科でみると現在、日本の大学病院には年間の症例数が50例程度、というところもいくつかあります。集約化の話をすると当然、そうした大学関係者に反対をされるのです。しかし、眼をつむっていてはいけない問題です。

プロフィール

南 和友(みなみ かずとも)氏

1946年大阪和泉市生まれ。74年京都府立医科大学卒業。
76年ドイツ交換留学生としてデュッセルドルフ大学胸部・血管・心臓外科に留学。77年から同大学病院で助手、講師を歴任。84年よりバード・ユーン・ハウゼン心臓病センター設立にあたり、主任心臓外科医をつとめる。89年よりボッフム大学臨床教授を兼任。これまでに同センターで1300例におよぶ心臓、肺移植を行う。04年日本人の心臓外科医として初のドイツ永代教授(ボッフム大学)に任命。05年より日本大学医学部心臓血管外科教授、2010年4月より現職。

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