• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版
21世紀医療フォーラム 良い医者、良い医療を創るプロジェクト
トップページ医療を変える「京都大学臨床研究中核病院構想シンポジウム」開催

「京都大学臨床研究中核病院構想シンポジウム」開催

第19回

2014.02.18 取材・構成:21世紀医療フォーラム取材班 赤堀たか子
文責:日経BP社 21世紀医療フォーラム事務局長 阪田英也

去る2013年2月9日(土)、宝ケ池の国立京都国際会館において、「京都大学臨床研究中核病院構想シンポジウム」が開催された。臨床研究中核病院としては初の試みであり、この事業を広く市民、患者団体、関連病院、業界などに普及・啓発することを目的としている。

開催報告の19回目は、臨床研究教育トラックで行われた京都大学医学研究科医療疫学教授 福島県立医科大学副学長の福原俊一氏の講演をリポートする。
(構成:21世紀医療フォーラム取材班 赤堀たか子 文責:日経BP社 21世紀医療フォーラム事務局長 阪田英也)

プログラムはこちら(PDF画像が開きます)

臨床研究デザイン7つのステップ

福島県立医科大学副学長 福原俊一 氏
福島県立医科大学副学長
福原俊一 氏

臨床研究の世界No.1は米国で、そのプレゼンスはここ20~30年変わっていない。一方、日本は、2002年をピークに下降しており、現在、23~25位くらいにある。我が国の基礎研究が世界で五指に入ることを考えると、臨床研究は危機的な状況にあると言える。

実は、米国でも20年ごとに危機が叫ばれており、1960年代から、「臨床する人が研究するのは不可能に近いのではないか」とも言われていた。しかし、米国は危機を叫ぶだけでなく、問題解決のための大型投資も行っており、それが現在のポジションに結び付いている。私は、日本も本格的に臨床研究に投資をする時期にあると考えている。安倍首相は、創薬こそが日本の成長戦略の1つだと述べているが、創薬の成果を上げるためにも臨床研究の底上げが必要だ。医療を支えている人が臨床研究のサイエンスを学び、その重要性を認識してこそ、創薬もスピードアップする。

臨床研究には、さまざまな誤解がある。例えば、臨床研究というと臨床試験と考えがちだが、臨床試験だけが全てではない。臨床試験は、限られた理想的な環境下での有効性や安全性を検証するものだが、さまざまな患者がいる実際の医療現場で本当に有効なのかを研究することも臨床研究だ。

また、臨床研究というと介入研究(RCT)がほとんどで、観察研究は少ない。それは、観察研究はエビデンスレベルが弱いとされているためだが、必ずしもそうではない。さらにRCTは、交絡以外のバイアスを調整する最良の方法であるという認識もあるが、実は、RCTは交絡を調整する最良の方法で、それ以外のバイアスには全く無力である。加えて、統計的有意差が全てと思いがちだが、最も重要になるのは統計的有意差ではなく、効果の大きさだ。

日本の臨床研究の課題を考えるために、まず、日本の学界抄録に見られる問題点を挙げてみたい。まず、1つ目は背景が長いこと。2つ目は1つの研究に2つ以上の目的を入れてしまっている点だ。3つめは研究の結果から結論がいえない研究が多いこと。目的と手段が合致しておらず、研究者が信じていることに結果を委ねてしまうため科学的でない研究が多い。そして、最大の問題は研究の方法が緩いことだ。日本では、臨床研究の方法を系統的に教育していないため、正しい研究方法に則っていない研究が多く、その結果、日本人の論文は国際的な医学雑誌にも掲載されにくい。

臨床研究は、医療者が「なぜ、こうしたことが起きるのか」といった医療現場で抱く疑問から始まる。この疑問を最終ゴールである研究の基本設計図につなげるプロセスが重要になるが、日本ではこれまで、このプロセスを系統的に教育してこなかったため、このプロセスが見えない。つまりここがブラックボックスであり、これを素通りしてすぐにデータを集めて解析してしまうため、科学的な研究にならない。

そこで私は、2000年に京都大学内に社会健康医学専攻(SPH)を設置し、2005年からSPH内で臨床研究者を養成するためのコース(MCRコース)を始めた。その結果、2005~2012年までの8年間で83名の医療者が修了し、名のある英文原著論文165編が大学院生から生まれた。ちなみに修了生は、その後20%が大学教員になり、教授も1名誕生した。3分の1は博士課程に進み、3分の1は自分の病院に戻り、臨床研究を続けている。

このコースでは、臨床研究のデザインを7つのステップで教えており、本日のワークショップでは、その1つ目について解説する。ノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進氏は、基礎研究のデザインにおいて重要なのは、「まず疑問を持ち、その内容を詰めて何がどう問題なのか疑問点をはっきりクエスチョンの形に形式化すること」と述べたが、臨床研究のデザインにおいてもこれは全く同じだ。

臨床研究デザインの最初のステップは、誰に(Patients)、何をすると(Intervention)あるいは、何によって(Exposure)、何と比較して(Comparison)、どうなるか(Outcomes)という観点からリサーチ・クエスチョン(RQ)を構造化することだ。これを、それぞれの頭文字をとってPICO、あるいはPECOと呼ぶ。RQの7~8割は、このPICO(PECO)の枠組みに収まる。

例えば、「裕福な家庭の場合、子どもの学力が高いか」という漠然とした疑問をPECOに当てはめたケースを考えてみよう。

■Aさんの解答
P…裕福な家庭
E…両親の職業
C…裕福でない家庭
O…大学の進学割合

■Bさんの解答
P…中央区の小学6年生
E…世帯年収1000万円以上
C…世帯年収1000万円未満
O…全国学力テストの偏差値

Aさんの場合、裕福か裕福でないかを分ける基準を両親の職業にしているが、これでは根拠が曖昧だ。一方、Bさんは調査の対象が明確で、比較の基準も具体的で測定できる。臨床研究を行う人の多くは、Aさんのような間違いを犯しており、最初の設計をしっかり行わずにデータ収集をしてしまうため、科学的でない研究になってしまう。

究極のRQは、研究結果が患者や住民のアウトカムを変えたり、医療者の診療行動を変えたり、あるいは、制度や政策を変えたりするものだ。

1つ良い例を紹介しよう。13年間にわたり透析現場にいる患者と医療者の行動を、2万人をサンプルして行った臨床研究があり、ここから250件ほどの国際論文が出され、日本からも多くの論文が出された。これらを見た世界の透析施設は日本の透析医療の真似を始めた。というのも、この研究により、日本の透析医療のアウトカムが世界1であることと、その理由が科学的に証明されたためだ。

このように、観察研究でも良くデザインされた研究であれば、世界の医療を変えることができる。そしてそうした研究の1歩は、研究デザインの手法を身につけるところから始まる。


(取材・構成:21世紀医療フォーラム取材班 赤堀たか子 
文責:日経BP社21世紀医療フォーラム事務局長 阪田英也)

医療を変える