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矢部武の「孤独死」から「自立死」へ Vol.30

高齢者のセックスと健康効果

2013. 10. 22  ジャーナリスト 矢部 武

当コラムでこれまで述べたように、米国の高齢者は自由かつオープンに性生活を楽しんでいるように思える。一方、日本では高齢者の性を否定的に見る風潮があるが、超高齢社会を迎える中で、人々の意識も変わらなければならない。高齢者のセックスは心と体の健康維持に役立つとの調査結果が出ているのである。

セックスをよくする人、しない人

米国には高齢者が健康的で楽しい生活を送れるように応援するウェブサイトがたくさんある。その1つ「突然シニアに(Suddenly Senior)」には、高齢者の日常生活、健康、セックスの喜びなどに関する情報が満載されている。この中で「セックスをあまりしない人は認知症になりやすい」との記述があったが、果たして本当なのだろうか。

私は興味がわいてきたので、サイト運営者のジョン・カイザー氏に電話取材すると、彼は丁寧に説明してくれた。
「それは科学的調査に基づくものではなく、多くの高齢者への聞き取り調査をもとにしたジョークです。高齢者の中には60歳を過ぎた途端にセックスをやめてしまう人がいる一方で、90歳になっても楽しんでいる人がいます。そしてセックスをよくする人は記憶力が抜群に良くなるといい、そうでない人は今何を話したのかさえ忘れてしまったりする。だから、ジョークとして書いたのです」。

しかし、後述するが、セックスは高齢者の健康に良いとの指摘が多く出ていることを考えると、それには多少の真実も含まれているかもしれない。カイザー氏はサイトで記事を書くために老人ホームやシニアセンターなどに出かけて行き、多くの高齢者にインタビューしている。セックスの話などは最初戸惑う人もいるが、誰かが話し始めると、他の人もつられて話すようになるという。

同氏がこれらのインタビューを通していつも感じるのは、セックスを楽しんでいる高齢者の多くは健康的で幸せそうに見えることだという。特に90歳を過ぎてから3度目の結婚をし、幸せな生活を送っている96歳の女性と話した時は、「いくつになっても人生をあきらめてはいけない」と強く感じたという。

この女性は2番目の夫を亡くした後、しばらく喪に服して1人で過ごした。でも、このままずっと1人でいたくないと思い、新しい出会いを求めて外へ出ることにした。地域NPOが主催するビンゴ大会やシニアセンターの社交イベントなどに参加し、いろいろな人と話をした。そして気の合いそうな何人かとデートし、「この人とずっと一緒にいたい」という同年代の男性を見つけ、再婚した。

彼女は96歳になった今も毎朝2〜3kmの散歩を欠かさない。そして夫と映画や食事、買い物などに行く時は彼女が車を運転している。
「お互いに人生を分かち合い、セックスを楽しむパートナーがいるからこそ、彼女は健康で幸せな生活を送れているのではないか」と、カイザー氏は指摘する。

カイザー氏は高齢の両親を病院に連れて行くとき、待合室で診察を待っている他の高齢者の様子をよく観察している。そこで気づいたのは、パートナーと一緒に来た人は診察が終わった後どこへ行こうか、先週末に何をしたかなどを楽しそうに話し、幸せそうに見える。だが、1人で診察を待っている人は雑誌を読んだりしていても、どことなく渋い顔をしている人が多いという。

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コラムニストプロフィール

矢部武 ジャーナリスト

1954年、埼玉県生まれ。米アームストロング大学大学院修士課程修了。1974年に渡米。「ロサンゼルスタイムス」紙 東京支局記者などを経て、フリーランスに。現在は、日米を行き来しながら、高齢者、雇用、健康、社会問題などをテーマに、取材・執筆活動を続けている。著書に『アメリカ病』『携帯電磁波の人体影響』『少年犯罪と闘うアメリカ』など多数。