災害対策を意識した日本版医療クラウド構想を提案――JAMINAセミナー2012

理事長など幹部が医療・福祉におけるクラウドのあり方を提唱

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2012/04/27 16:18
増田 克善=医療ITライター
JAMINA理事長 田中博氏
JAMINA理事長 田中博氏
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JAMINA理事 入澤厚氏
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JAMINA副理事長 水島洋氏
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JAMINA副理事長 辰巳治之氏
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 日本医療情報ネットワーク協会(JAMINA)が4月17日に開催した第9回JAMINAセミナー2012では、JAMINAが提案する日本版医療クラウド構想が発表された。田中博理事長をはじめ、副理事長、理事の各氏が、日本版医療クラウドの概要を説明するとともに、医療・福祉におけるクラウド活用のあり方について講演した。

 JAMINA理事長の田中博氏(東京医科歯科大学難治疾患研究所 生命情報学 教授)は、県域階層的な地域医療IT体制の構築においてクラウドサービスを活かす方策と、その構築の際の課題について述べた。田中氏は、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた被災3県の医療機関、医療供給体制の復興に関わり、総合的な地域医療情報連携システムの構築を目指して活動している。その作業において地域医療IT体制は、町村レベル、医療圏レベル、県域レベルなど、圏域階層的な地域医療情報連携の構造を作る必要がある、と強調した。

「医療ITシステムは、(1)日常生活圏をベースとした包括的ケアを実現する中核病院、小規模病院、診療所が患者の情報を相互参照できるシステム、(2)二次医療圏レベルの地域医療情報連携のためのシステム、さらに(3)県域レベルで疾患別連携パスを運用し、保健医療に関わる各組織や階層をまたがる情報の蓄積・共有を実現するためのシステム、がある。それぞれの階層で蓄積・共有される情報のレベル(粒度)が異なることを、考慮しなければならない」(田中氏)。

 こうした階層的地域医療IT体制でクラウドシステムを活用した仕組みをデザインしてみると、日常生活圏でのライフログを蓄積するようなクラウドサービス、二次医療圏における地域連携パス運用のようなクラウドサービス、さらに田中氏らが提唱する日本版EHRにリスク情報を加えたようなEHRのためのクラウドサービスなど、いろいろなレベルのクラウドサービスが錯綜することになる。

これらの実現には複数のベンダーがコンソーシアムを形成してシステムを作り上げることになるが、「ここで問題となるのが、ベンダーが自社のクラウドサービスを利用したいと主張すること。地域医療連携を考えた場合、情報共有と情報連携を1事業者に任せると、円滑な運用は困難だろう。その一方で、利用者に複数のクラウドサービスを利用していることを意識させない仕組みも必要だ」(田中氏)。

 そのために、ベンダー各社のクラウドサービスを活用する統一的なフロントシステムとして、「Nation-wideな医療福祉クラウド」が必要だと強調した。そこでは認証機能やセキュリティ機能とともに、EHR/PHR(のデータ)などの基盤部分を提供して制御し、アプリケーションはプライベートクラウドへ振り分ける――こうした仕組みが、JAMINAが提案する日本版医療クラウドだという。

 田中氏による日本版医療クラウド構想の提案を受け、JAMINA理事の入澤厚氏(エヌアイエスプラス社長)が、その全体像と提供するクラウドサービスについて説明した。同氏は、「東日本大震災を教訓として、国民のための災害に強いネットワークを作ることが目的の1つにあがっている。複数のクラウド利用を意識させずに、国民が必要とするサービスを提供する仕組みを考えている」とし、次のような9つのポイントを挙げた。

(1)国民がインターネットに接続する環境がある、(2)インターネットとは別に医療専用のネットワークがある、(3)医療専用ネットワークとインターネット間にはファイアウォールが設置され医療専用ネットワークを保護する、(4)医療機関はインターネットでなく医療専用ネットワークに接続する、(5)クラウドサービスも医療専用ネットワーク内に構築される、(6)複数のクラウドが連携するインタークラウドとし、各社のクラウドサービスが共通のアクセスの仕組みを提供する日本版医療クラウドに接続される、(7)クラウドサービスのアプリケーション、クラウドの基盤機能とは独立して提供される、(8)災害時に守るべきものが何か明確になっている(医療専用ネットワークとして守るべきものを明確にしておく)、(9)医療ネットワークへの国民からのアクセス方法を提供することで安心したサービスが可能になる。

 また、提供するクラウドサービスとしては、国民の医療情報に対する災害対策を意識し、アプリケーションサービスと基盤サービスを分けて考える必要があると説明。「基盤サービスとは、例えば共通番号制度法案で出されているような国民一人ひとりの管理番号を使った認証、あるいは地域連携プラットフォームなどで、国がインフラを提供してもいいと考える。一方、アプリケーションサービスは、基盤サービス(CPU環境、バックアップの仕組み)を意識せず、アプリケーションベンダーがAPIを使って開発できる環境が重要となる」(入澤氏)と述べた。

 実現に向けた工程として、まず国民・医療機関・アプリケーションベンダーに利用イメージを提供する各ポータルサイトを、2012年9月をめどに作成・公開、次にリファレンスモデルを構築して実証事件を行い、その後に各アプリケーションベンダーに日本版医療クラウドに接続するためのAPIを提供していくという。

 JAMINA副理事長の水島洋氏(国立保健医療科学院研究情報支援研究センター上席主任研究員)は、「クラウドを活用した災害時における情報共有システム」と題して講演。同氏が厚労省の依頼を受け、災害時公衆衛生従事者緊急派遣等事業におけるクラウドを活用して構築した「健康支援先遣隊の登録・派遣および被災者の健康管理情報の共有化システム」を紹介した。

 同氏は、震災時におけるクラウドの活用における要件として以下の3点を強調した。(1)多くの利用者による情報共有が可能でリアルタイムでの情報更新が行われること、(2)災害時には規模を拡大できるが平常時は費用を抑えて運用できるシステムであること、(3)プライベートとパブリッククラウドの併用による効率化と安定化が図られ、通信途絶に対応するためオフライン端末とクラウドの併用できるシステムであること。

 厚労省の依頼に基づいて構築したシステムでは、医療へのCRM(Customer Relationship Management)システムの活用を試みたという。「CRMは、企業のコールセンターなどで活用されている顧客情報を時系列に一元管理する仕組み。企業にとって顧客情報は機密保持しなければならない情報であり、電子カルテにも適用できるセキュリティを確保していると考えた」(水島氏)と、活用の理由を指摘した。また、CRMは汎用的なミドルウエアによってシステムが構築されており、カスタマイズが非常に迅速にできるメリットがあると指摘。実際に岩手や宮城の被災地で、CRM上に情報共有のシステムを短期間で構築できたという。

 具体的な機能としては、保健医療科学院で研修を行っている先遣隊(健康支援隊)による調査情報入力、被災地・避難場所の入力、被災者(避難者)の入力、先遣隊および支援チームの管理機能や派遣・斡旋機能、高齢者の健康状態や衛生状態など詳細な情報を管理できる健康情報管理機能を持つ。自治体や実際に被災者に接する人はこうした個人情報にアクセスできるが、県や国の行政担当者は集計した結果だけを把握できるようアクセス制限を設けている。さらに、地図情報とのマッシュアップ機能などにより、GIS情報を活用して避難場所などの状況の把握が容易にできるようにしているという。

 「構築したシステムは一般的なソフトウエアを利用しているため、ベンダー固有のクラウドサービに依存せず、クラウド間連携も可能。また、セキュリティに関しては今後、JAMINAが提案する医療クラウドの利用によって担保できるようになってくると考えている」(水島氏)と展望した。

 JAMINA副理事長の辰巳治之氏(札幌医科大学大学院 医学研究科生体情報形態学 教授)は、「戦略的防衛医療構想のための医療クラウド」と題して講演。同氏が以前から提唱している、あらゆるメディアを駆使して人間の五感、第六感に訴え、人の心を動かす情報「情報薬」と、それを活用した戦略的防衛医療構想について説明し、「よい医療を提供するためにITをどう使うか――ITは、情報薬の開発のために使いたい。その一端が医療クラウドだと考える」と語った。

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発行日:2012年11月21日
ページ数:232ページ
編集:日経エレクトロニクス、デジタルヘルスOnline
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