ヘルスケアをワイヤレス化する価値を、地道に広げていきたい

山田 純氏 クアルコムジャパン 代表取締役会長兼社長

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2011/09/01 03:00
小谷 卓也=デジタルヘルスOnline

 今後のデジタルヘルス市場の創出に向けて、カギを握る技術の一つが無線通信である。医療・健康サービスの主軸が大病院から診療所、家庭へと移っていく中で、これらの間で情報を連携させたり、個人が所有する機器とサービスをつなげたりすることが、ますます重要になるからだ。

 無線通信に関する技術開発企業であるクアルコムジャパン(米Qualcomm社の日本法人)は、2010年8月に北海道壮瞥町で3Gネットワークを用いた在宅健康管理プロジェクトを始めるなど、ヘルスケアに向けた無線通信技術の活用に精力的な姿勢を見せている。同社が考えるデジタルヘルスについて、代表取締役会長兼社長の山田氏に話を聞いた。

(聞き手は持田 智也=デジタルヘルスOnline編集長、小谷 卓也)


――現在のデジタルヘルス市場を、どのように見ていますか。

山田純氏
山田 純(やまだ・じゅん)氏

1978年、東京大学工学部電子工学科を卒業後、松下通信工業に入社。自動車・携帯電話機器やデジタル移動通信システムの開発設計、米国での移動通信システム開発プロジェクトのリーダーなどを経て、1995年、アクセスライン・テクノロジーズの技術部長として、NTTおよびNTTドコモとの合弁会社ワンナンバーサービスの設立に参画。1998年、クアルコムジャパンの設立に当たり同社に入社。専務(執行役員)を経て、2005年3月に代表取締役社長、2008年6月に代表取締役会長に就任。2009年3月から現職。
(写真:栗原 克己)

 個人が自分の健康維持や体力向上のために、携帯電話機などのITツールを活用する動きは、着実に盛り上がってきていると感じます。実際、健康維持・体力向上などに向けて通信事業者が提供している幾つかのサービスの認知度も、高まってきているのではないでしょうか。

 一方で、我々は北海道壮瞥町において、利用者の血圧などのバイタル・データを3Gネットワークを通じてサーバーに伝送し、医療機関などにアドバイスしてもらうといった、いわゆるモニタリングの取り組みを進めています。このような、より(医療に近い)本格的な領域に対して定常的にITツールを利用しようとする動きは、まだあまり盛り上がっていないと感じます。我々は、そこを何とか盛り上げ、ムーブメントを作っていきたいと考えています。

 我々が国内でこうしたプロジェクトを展開するキッカケになったのは、いわゆるメタボリックシンドローム対策が話題になったことにあります。それに適したサービスを立ち上げようと思ったわけです。ところが、メタボリックシンドローム対策というのは、ふたを開けてみれば、それほど(予防医療・健康管理に対する)国内市場の火付け役にはなりませんでした。それでも今後、地道に取り組んでいくとで、いつかどこかで価値が認められる日が来ると思っています。

――こうしたサービスが盛り上がらない理由は、どこにあると見ていますか。

 サービスに対する対価が、どこから出てくるのかが見えていないことにあるでしょう。現時点では、遠隔の健康モニタリングのような行為は保険点数として認められていないために、利用者が個人で自らお金を払うという形にしなければ、ビジネスモデルが成立しません。

 ただし、それは(サービス普及の)阻害要因ではあるものの、国の施策(保険点数化)を待っているばかりではなく、我々としてもいろいろな取り組みを通じて、一般ユーザーのニーズにあったもの、価値を理解してもらえるものを構築していく必要があります。そして、規制緩和(保険点数化)が実施された際に本格的に立ち上げていけるよう、準備していきたいと思います。

 同時に、保険点数化が実施されるように、地域のコミュニティなどから「このサービスは有意義である」という声を多く挙げてもらい、厚生労働省なり議員連盟なりにその声を届けることが大事です。そのためにも、我々は地道な取り組みを通じて、サービスの意義を多くの地域コミュニティなどに理解してもらおうと思っています。

――実際に北海道壮瞥町での取り組みから、遠隔モニタリングに対してどのような意義を感じていますか。

山田 純氏
(写真:栗原 克己)

 実際の取り組みを通して、大きく二つの価値が見えてきました。一つは、(血圧などの)データの信憑性が高くなることです。従来のように、個人で測定した数値を病院に持っていくやり方では、患者の都合によっては数値を操作することもあるようです。しかし、ボタン一つでデータを送信する仕組みにすることで、利用者がデータそのものに触ることなく医療機関にデータを提示できます。ですから、(遠隔モニタリングは)単にこれまで手作業で病院に提示していたものを自動化、ワイヤレス化するということだけではなく、データの意味、つまり信頼性を変えるという効果があるわけです。

 もう一つの価値は、利用者にとって、「誰かが見てくれている」という見守りの気持ちにつながることです。1週間に1回、病院にデータを持っていくよりは、精神的にもはるかに良い効果があると思います。

 このように、従来のやり方では成し得なかった価値を生むことが分かってきたので、同じ取り組みを他の場所にも広げていこうと考えています。北海道壮瞥町と同様の取り組みを、今年は南伊豆(静岡県)の病院と組んで進めているところです。

――北海道や南伊豆の取り組みでは、血圧の管理が主なターゲットのようですが、今後、他に広げていきたい項目はありますか。

 高血圧と同時に、糖尿病も大きな問題となっていますので、血糖値の管理はあってしかるべきだと考えています。しかし、現時点ではまだ、血糖値管理のソリューションがこなれていません。つまり、指に針を刺して血液を採取しなければならないわけです。今後、非接触で血糖値を測定できるようなセンサや技術が登場してくることを期待しています。

――遠隔モニタリングのようなサービスにおいて、無線通信の役割をどう見ていますか。

 考え方としては、米Amazon.com社の電子書籍端末「Kindle」と同じです。つまり、端末を入手した時点、サービスに加入した時点で、無線通信はその後に隠れて存在するようにしておく必要があります。サービスを利用するために、わざわざ通信事業者と契約しなければならないのでは、一般ユーザーにとっても医療従事者にとっても厄介です。それは避けなければなりません。

 もっとも、現在では国内の通信事業者が回線の卸売りであったり、特別な契約体系によってバルクで通信回線を貸し出したりということはやっています。ですから、Kindleのような仕組みは、技術的な問題というよりはビジネスモデルの問題で、やろうと思えばできる環境にはあります。

 我々のような技術開発会社としては、無線通信契約を各通信事業者間でシームレスに切り替えられるようにすることに技術開発の余地があると見ています。例えば、NTTドコモとau(KDDI)の通信方式のマルチモードにするとか、SIMカードに記憶してある通信事業者ごとのパラメータをファームウエアのダウンロードのようなもので書き換えられるようにするとか、そういった検討をしていきたいと思います。

――国内の各通信事業者間の連携については、閉鎖的な側面があります。例えば、クアルコムがすべての通信事業者のMVNOを作り、独自のサービスで医療・ヘルスケアに集中したビジネスを展開するといった話があれば、もっと夢は広がりそうですが。

山田 純氏
(写真:栗原 克己)

 そうした取り組みに乗りだすかどうかは、まだ何とも言えません。ただし、そのようなことも視野に入れて、より使いやすくしていく余地はあると考えています。とにかく大事なことは、無線通信を一般ユーザーや医療機関(などのサービス利用者)に見えないようにすることであり、価格的にも(サービス利用者にとって)最も有利な通信回線を自動的に使えるようにすることです。

――ヘルスケア・サービスを展開していく上で、「高齢化」というキーワードをどう考えていますか。

 高齢化は、間違いなく大きなキッカケになるキーワードです。実は、我々の社内のベンチャー・コンテストで、難聴の方に対するデバイスやサービスを見直していこうというプロジェクトが採用されました。高齢になると目や耳、足などが不自由になります。目に対してはメガネ、耳に対しては補聴器というデバイスが存在しますが、それほどイノベーションが起きていないという見方もできます。

 そこにスポットを当てることで、面白いイノベーションが起こせるのではないかと見ています。例えば、補聴器と携帯機器を連携させるとか、メガネをAR(augmented reality)と組み合わせるとか、いろいろなアイデアが考えられます。面白いサービスが展開できるのは間違いないでしょう。社内で検討を進めているところです。

【別冊】
デジタルヘルス5 〜拡大する市場 日本から世界へ〜


大好評「デジタルヘルス」シリーズの5弾となる今回は、「拡大する市場 日本から世界へ」と題し、デジタルヘルスが世界市場に広がっていく潮流や、エレクトロニクスやICTによって医療・健康・介護に革命をもたらそうとする動きなどを把握できる1冊としました。巻末には2012年11月以降のデジタルヘルスOnline関連記事一覧も収録しています。詳細は、こちらをご覧ください。

発行日:2013年5月28日
ページ数:232ページ
編集:デジタルヘルスOnline、日経エレクトロニクス、日経コンピュータ、日経ヘルスケア
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