私は不器用だからとても無理

 他人の何でもないような一言が人生を決定づけることがある。

 「日本語検定」審議委員としてご一緒している平野啓子さんの場合だ。

 平野さんは「総合芸術としての語りの世界」で頭角を現し、「語り部」として文化庁芸術大賞を受賞。現在、日本ばかりか世界を舞台に、優美な和服で、そしてドレス姿で、「語り」の新しい境地を切り開いている。

 元々は普通のOLだった彼女がなぜ「語り部」という「天職」を得るに至ったのか?

 平野さんは早稲田大学を卒業して東京都文化振興会(現在の東京都歴史文化財団)に就職。社会人としての第一歩をスタートさせた。

 「いまどき」というより、「古風で純朴」な平野さんにとって「落ち着いた職場」に進めたのは大変ラッキーなことだった。

 根が不器用なほど真面目?な平野さん。仕事上求められるであろう江戸の歴史や文化については猛勉強で何とか身に付けた。ところが仕事を終えたあと職場の先輩達とご一緒する飲み会の席での話題について行けないのがもどかしかった。

 飲み会で仕事である「歴史や文化」が話題になることはほとんどない。確かに、オフタイムで仕事の話をするのは野暮だと自分でも思う。とはいえ、先輩達のように、互いの趣味を肴に好奇心のアンテナを広げ、高め合い楽しむ「大人の会話」にはなかなかついて行けなかった。

「忙しさは私以上なのに、どうしてこんなにいろいろな趣味を楽しめるのだろう・・私は不器用だから、とても無理・・」

 と思っていたら、いきなり振られた!