• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版
日経マネーDIGITAL

CFA流『さんない』投資塾

第41回 株主還元のルーツを探る

2014年3月4日(火)

世界的な金融アナリストの資格であるCFA。日本でプロとして活躍中の現役バリバリCFAの有志が日経マネーの読者に向けて、毎月交代でコラムを執筆します。初心者や投機や短期投資のみが投資だと思っている方に、本当の投資、資産運用を知っていただきたいと思います。合言葉は、「急がない、やめない、無理しない」。毎月1回の更新です。
CFAって何?という方はこちらからどうぞ。→ ごあいさつ

びとうファイナンシャルサービス株式会社 代表取締役
尾藤 峰男, CFA



 米国市場が堅調な背景には、盛んな自社株買いがあります。2月に史上最高値を更新したS&P500指数を構成する米国企業において、2013年9月までの1年間の自社株買い額は、46兆円に上ったとのことです。ちなみに、市場規模がほぼ5分の1のわが国で、全上場企業の2013年1年間の自社株買い額は2.1兆円ですから、雲泥の差です。またエクソン・モービルやプロクター&ギャンブルは100年以上も毎年配当を続け、プロクター&ギャンブル、コカコーラ、ジョンソン&ジョンソンは半世紀以上も増配を続けています。30年前からこれらの株を持ち続けていれば、今では投資元本より多い配当を1年でもらえるというようなことも現実になっています。このように企業が盛んに株主還元を行うルーツを、歴史をさかのぼって探ってみましょう。

 ジャン・カルヴァン(1509-1564)は、「奉仕とは、神からの思し召しである各人の職業に真面目に勤しむことだ(職業召命説)。つまり、天職として神から授けられた仕事に励み成功することが、救いの証となる」と主張しました。カルヴァン以前は、神への奉仕が第一義とされ、労働は神からの罰(エデンの園から追放されて、働かなくてはならなくなった)であると考えられていたのです。このカルヴァンの主張は、とりわけ商工業に携わるものに仕事の意義を自覚させた点で、その後の近代市民社会の倫理的母胎になったと評価されています。各々の人間が神を信じ、神から天職として与えられた仕事を誠実にこなすことで、理想の社会が生まれる。そして、その行為により人々は罪からも救われると捉えるのです。

 さらに時代がくだり、18世紀には近代資本主義精神の萌芽とも言える思想が出てきます。ジョン・ウェスレー(英国の聖職者、メソジスト派創始者、1703-1791)は次のように言っています。

・宗教はどうしても勤労(industry)と節約(frugality)を生み出すことになるし、またこの二つは富をもたらすほかはない。
・われわれはすべてのキリスト者に、できる限り利得するとともに、できる限り節約することを勧めねばならない。しかしこれは結果として、富裕になることを意味する。できる限り利得するとともに、できる限り節約するものは、また恩恵を増し加えられて天国に宝を積むために、できる限り他に与えねばならぬ。

 またマックス・ヴェーバー(1864-1920)は「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」のなかで資本主義の「精神」を表す史料として、ベンジャミン・フランクリン(1706-1790)の以下の言葉を引用しています。

・時間は貨幣だということを忘れてはいけない。
・信用は貨幣だということを忘れてはいけない。
・貨幣は繁殖し子を生むものだということを忘れてはいけない。
・支払いのよい者は他人の財布にも力をもつことができる―そういう諺があることを忘れてはいけない。
・信用に影響を及ぼすことは、どんなに仔細な行いでも注意しなければならない。
・自分の手元にあるものがみな自分の財産だと考え、そんなやり方で生活しないよう気をつけなさい。

 そしてマックス・ヴェーバーは以下のような解説を加えています。

この史料は、資本主義の「精神」を古典的といってよいほど純粋に包含しており、同時に宗教的なものとの直接の関係をまったく失っているため、われわれの主題にとっては「予断が入らない」という長所を持っている。心情の本質的要素が、さきにピューリタンの「天職意識に由来する」職業的禁欲の内容として析出したものと同じである。

 このフランクリンの最後の言葉「自分の手もとにあるものがみな自分の財産だと考え、そんなやり方で生活しないよう気をつけなさい」が、今回のテーマの「株主還元」にかかわる部分といえます。そして、これを見ると株主還元と資本主義の精神は同根といえます。

 鉄鋼王のカーネギーや石油王のロックフェラーは、事業で築き上げた巨額の富を社会に惜しげもなく注ぎ込みました。なぜ神がロックフェラーを選んであれほど大きな恩寵を与えたのかについて、ロックフェラー自身はいつも「自分はスチュワードシップの教え――富めるものは神の単なる道具で、神の富を一時的に受託し、それを善良な目的に当てる管財人に過ぎないという考え方を堅く守っているからだ」と言っていたそうです。ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットが数兆円もの財産を慈善事業に寄付するというような行為も、元を辿れば連綿と受け継がれてきたこのような精神によるものといえます。

 以下の発言は、有数の米国企業の最高経営責任者(CEO)や最高財務責任者(CFO)が述べたものですが、根底にある考え方は「できる限り利得するとともに、できる限り節約し、できる限り他に与える」という精神を無意識のうちに内包しているといってもよいでしょう。そしてそれが翻って企業の強さを形作っていると考えると、納得できるものを感じます。

・増配は、会社にとってもっともSacred(神聖な、不可侵な)ものである。
・我々マネージメントの最も重要な仕事は、株主にお返しすることだ。
・株主還元は、会社にとって最優先事項である。

 最後に、代表的な株主還元の例として、IBMの状況を紹介しておきましょう。



このコラムについて

世界的な金融アナリストの資格であるCFA。日本でプロとして活躍中の現役バリバリCFAの有志が日経マネーの読者に向けて、毎月交代でコラムを執筆します。初心者や投機や短期投資のみが投資だと思っている方に、本当の投資、資産運用を知っていただきたいと思います。

<ごあいさつ>

日本CFA協会元会長/ウェルス・マネジメント・フォーラム代表幹事 岡本和久
「投資のプロたちが皆さんに本当にお伝えしたいこと」


このコラムでは質問コーナーも設けます。どんな初歩的な質問でも結構ですのでどんどんお寄せ下さい。
(ただ、個別銘柄に関する相談や短期的な相場見通しについてはお答えできません)。

<このコラムへの質問はこちらからどうぞ>
問い合わせ内容を「CFAに質問」としてください。

日本CFA協会 ウェルス・マネジメント・フォーラム(WMF)
日本CFA協会 ウェルス・マネジメント・フォーラム

 世界中の投資・資産運用業界でスペシャリストの証として認知されている専門家資格CFA。WMFは、日本におけるCFA資格保有者や受験者に対し、専門知識の向上と相互交流の場を提供している非営利団体「日本CFA協会」内において、CFAの持つ知識を少しでも一般投資家の方の役に立てたいと考えるメンバーが集まり2008年秋に結成された会。現在その啓蒙活動の範囲を徐々に拡大中。


日経マネーメールマガジンの登録(無料)はこちら

日経マネーのムック&書籍紹介

  • 『長期投資でお金の悩みから自由になった人たち』

    6月21日発売(1500円+税)

    年金だけでは老後が心配――。直販投信への長期投資を続けていれば、そこからの収益でお金の不安から自由になれる。そんな「ファイナンシャル・インディペンデンス」を実現した20人の市井の人々の人生模様と、彼らの長期投資との付き合い方を示した一冊。さわかみホールディングスの澤上篤人代表が、長期投資のあり方について熱く語る。

  • 『老後不安を解消!! 確定拠出年金(DC)をはじめよう 2017制度改正完全対応版』

    6月5日発売(907円+税)

    老後資産づくりのノウハウがつまった一冊。2017年から誰でも使えるようになった「確定拠出年金(DC)」は “幸せ老後"を迎えるために欠かせない資産形成の道具です。その仕組みやメリット、活用術を分かりやすく解説します。さらに積み立て投資の利点や、投資に回すお金のつくり方などについて多方面からまとめています。

  • 『ふるさと納税のすべてが分かる本 2017年版』

    11月22日発売(815円+税)

    昨年好評だった「ふるさと納税」ムックの2017年版が発売になりました。この本では、まだふるさと納税をやったことがないという人にも分かりやすく、寄付の仕方や、減税の仕組み、確定申告の手続きなどを解説。最新の返礼品も260品ご紹介しています。実質2000円の負担で様々な返礼品が貰えるこの制度、利用しないのは損です!

  • 『不動産で億万長者!』

    10月31日発売(1000円+税)

    不動産を活用した資産形成の本。「都心部・地方」「新築・中古」「一棟・一室・戸建て」と分け、それぞれの投資法の長所と注意点を分析。どの最寄り駅の物件がいいのかを選ぶ参考として「200駅 三大都市圏中古マンション利回りマップ」「家賃が下がりにくい駅 80駅」と保存版データを掲載。さらに「海外不動産投資」「REIT・不動産クラウドファンディング」など。

  • 『退職までやっておくべきこと!サラリーマンの為の退活読本』

    9月2日発売(1000円+税)

    なんとなく定年が気になってきた世代のサラリーマンが抱く疑問に答える1冊。50代で早期退職したら年金や退職金はいくら減る? サラリーマンOBは受け取った退職金をどうやって使っている? おひとり様はどんな老後準備をしておけばいい? 定年後の移住はどんな感じ? 60歳以降も働くとしたらどんな仕事でいくら稼げる?などなど、ちょっと気になるサラリーマンの定年後の生活を豊富な事例を交えながら紹介。

  • 『間違いだらけの相続&贈与』

    8月3日発売(926円+税)

    日経ビジネスとの共同ムック。2015年から相続税の大増税が行われ、課税対象になる一般家庭も増えています。しかし、間違った相続税対策も多く、それでは却って損をしかねません。「腕利き税理士&弁護士が教える賢い相続」など、このムックで正しい対策を知り、今すぐ始めましょう。

  • 『国債が暴落しても長期投資家は平気だよ』

    4月21日発売(1500円+税)

    日本国債はバブルとも言われる高値続き(利回りは低下)で、いつ暴落してもおかしくないと言われています。万一そうなれば経済の大混乱は避けられませんが、株式に長期投資していれば乗り越えられる、と澤上篤人さんは説きます。第2部ではさわかみファンドCIOの草刈貴弘さんが、サバイバルに役立つ銘柄選びの方法を伝授します。