早稲田大学ラグビー蹴球部を大学日本一に2度導いた経験を持ち、現在日本ラグビーフットボール協会のコーチングディレクターを務める中竹竜二氏に取材する機会がありました。中竹氏は、個々のメンバーが主体的・自律的に動く組織作りを目指す「フォロワーシップ」理論の研究・実践者として有名です。

 リーダーが強烈な指導力でチームを管理するのではなく、個々のメンバーが能動的に動く自律型の組織。フォロワーシップ理論が目指すのは「メンバー全員がリーダーと同じ気持ちの組織」です。個々のメンバーは、上からの指示を待つのではなく、果たすべき役割を自分で考え、主体的に動きます。最終的な決断を下すのはリーダーですが、全員がリーダーと同等の主体性、当事者意識を持っている。究極的に言えば、誰もがリーダーになれる組織といえます。

 いわゆるリーダーシップという言葉からは、強力な指導力でグイグイ組織を引っ張る指導者を想像しがちですが、中竹氏はそんなイメージに一石を投じます。「誰もがカリスマになれるわけではない。自分も含め、普通の人が強いチームを作るためにどうしたらいいか。考え抜いた末に到達した理論」。早稲田のラグビー部時代は「日本一オーラのない監督」と呼ばれた中竹氏はしかし、この理論を机上で終わらせませんでした。フォロワーシップを早稲田大学ラグビー部に完全に浸透させ、見事大学選手権2連覇という結果を残します。

 自ら考え、行動するメンバーをいかに育てるか。これは、チームを任された多くの企業人の抱える課題でもあります。中竹氏はその人材育成の本質を、「常に部下を見続けること」にあると言います。個々の部員がどんな性格で、長所・短所は何なのか。何を考え、どんな壁に突き当たっているのか。性格まで仔細に理解し、折に触れて振り返ってあげることで、信頼関係を構築していきます。具体的な指示は出さなくても、さりげない声かけやアドバイスが、部員にとっては士気向上につながると言います。

 もちろん、大学スポーツの育成方法を単純に企業に応用できるとは言えませんが、「人は誰かに注目されることで意識が高まる」という指摘は、人間のやりがいを喚起する本質を言い当てている気がしてなりません。誰でも自分の仕事を見て評価してくれれば嬉しいもの。企業の人材育成においても重要なポイントであると感じます。

 長々とこのような話に触れたのは、本日から配信している4月15日号特集『それをやったら「ブラック企業」』に内在する問題の一端を解消するヒントが、中竹氏の指摘にあるのではないかと考えたからです。

 巷間、話題を振りまく「ブラック企業」。劣悪な労働環境を放置し、利益追求だけに固執する企業と一般には定義されていますが、最近では、健全な企業であってもシビアな労働条件や育成方針に不満を持つ者からの“告発”によって「ブラック」の濡れ衣を着せられるケースが増えています。

 ネガティブな噂の発信源に共通するのは、若い世代からの告発が多いということ。このため特集班は、ブラック企業にならないためには、単に若手社員の労働環境を見直すだけではなく、採用や日頃の商売の場における若い世代との接し方全般を見直し、入社後の育成法も変える必要があると指摘します。

 厳しく指導すれば、ネットの掲示板でブラックと書かれる一方、彼らに媚びれば、組織が緩んでしまう。つまるところ、ブラックの本質は、若い世代と上の世代のコミュニケーション不足が生んだ弊害なのかも知れません。だからこそ、中竹氏の言う「見ていること」は信頼関係を構築する有効な手段となり得る気がしています。

 グローバル競争にさらされ、効率やスピードに忙殺され、部下の行動を逐一見ていられないマネージャーも多いでしょう。しかし、そうした潤いのない職場環境こそが、実は最もブラック企業と呼ばれるリスクをはらんでいます。

 余談ですが、特集の最後には、ファーストリテイリングの柳井正社長兼会長が登場します。柳井社長の語る「ブラック企業」、是非ご覧下さい。

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