過去を遡れば、「包囲戦」と呼ばれる戦は歴史に数多く残っています。比較的、新しいもので言えば第二次世界大戦中、ドイツとソビエト連邦が火花を散らした「レニングラード包囲戦」や「ブダペスト包囲戦」、もっと遡れば、アメリカ独立戦争中のイギリス対スペイン・フランスの「ジブラルタル包囲戦」があります。軍命に背き、山頂に陣を張って包囲されて大敗、「泣いて馬謖を斬る」の故事成語を生んだ三国志の「街亭の戦い」もまた包囲戦の1つと言えるでしょう。

 ぐるりと敵を囲み、物資の補給路を断ち、あとは体力の衰退を待つ。これが包囲戦の一般的な戦い方です。2001年に「iPod」、2007年に「iPhone」、2010年に「iPad」と革新的な製品で市場を常に切り開き、世界を熱狂させてきた米アップルはまさに今、包囲戦のまっただ中にいます。最新機種「iPhone 5」の販売失速の噂が流れ、2月27日に開かれた株主総会では同社のティム・クックCEO(最高経営責任者)が「長期的な視点で期待してほしい」と釈明に追われました。「Android(アンドロイド)」のOS(基本ソフト)をメーカーにフリーで配布し、一大勢力を築き上げている米グーグルを筆頭に、「Firefox OS」や「Tizen」といった第三勢力の台頭など、アップルを包囲する勢力は日に日に力を増してきています。

 ハードウエアからソフトウエアまで一貫して自社で提供するアップルのビジネスモデルは、圧倒的な収益を同社にもたらす一方で、数多くの“見えない敵”もまた生み出してきました。あるコンテンツ開発会社は弊誌取材に対してこう答えました。「アップルは逆らうどころか、“対話”すらできない」。こうした不満は水面下ではこれまでも聞かれていましたが、それでもアップルの消費者に対する圧倒的な求心力は疑いようのない事実でした。こうした不満が表立って出てくるのは、アップルの成長に陰りが見え始めてきたからなのかもしれません。

 アップル対その他勢力の戦いは、1990年代後半のマイクロソフトとリナックスの戦いに似ています。リナックスはソースコードを無償で公開し、誰でも改良を加えたり、再配布できたりする「オープンソースソフト」でした。自社のソースコードを公開しないマイクロソフトは表面上、リナックスを敵とは見なしていませんでしたが、ある内部資料が流出してしまいます。1998年10月末、ハロウィンの時期に流出したため「ハロウィン文書」と名付けられましたが、オープンソースソフト、リナックスに対する脅威を詳細に分析、マイクロソフトとして取るべき対策を連ねたものでした。後にマイクロソフトはこの存在を公式に認めています。「Windows(ウインドウズ)」という圧倒的なシェアを持っていたマイクロソフトでも、いかに脅威となる新勢力をつぶさに研究していたかが分かる出来事でした。

 アップルは今、包囲戦をどのように突破しようと考えているのでしょうか。歴史に残る包囲戦をつぶさに見ていくと、決して包囲した側が勝利を収めている訳ではないことに気づきます。腕時計型端末やテレビなど様々な新製品投入の噂が流れるアップルは今、革新性だけを求められている訳でもありません。廉価版iPhoneの噂が流れるように、新興国市場を中心に価格を抑えた新製品投入も求められています。

 日経ビジネス3月18日号特集「アップルを包囲せよ ~『ソフト』『通信』『部品』、業界地図が変わる~」ではこうしたアップルの苦悩、そして包囲戦を繰り広げている対抗勢力の動きに迫りました。ぜひご一読いただけると幸いです。

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