BizCOLLEGE PREMIUM:次世代を担うビジネスパーソンのための新しい仕事術

教える時、人はもっとも効率良く学習する

2012年10月1日

BizCOLLEGE PREMIUM特別セミナー「イノベーターと学ぶ“新しい仕事術”」第二日目、アクティブラーニング 代表取締役車長の羽根 拓也氏によるセッション「『イノベーティブな進化力』自己成長を導く進化の技法」が行われた。長年「教える」ことにたずさわってきた羽根氏が、「学ぶ技術」のポイントを語った(作成:BizCOLLEGE PREMIUM)

■能動的な時に人は伸びる

 予備校講師として生徒を教えている時に羽根氏が気付いたのが、「時間をかけて学習しても伸びる生徒と伸びない生徒がいる」ということだった。その差は生徒の「能動性」にある。能動的な状態の時、人の頭は情報を吸収し、記憶する。

「学校で勉強を教わるのに、頭にどうやって情報が吸収されるかかを教わることはありません。それは、教習所で車の運転方法を習っていないのに運転城と言われるようなもので、おかしいことですよね」(羽根氏)学ぶ技術として能動性を発揮する方法を研究したいと考え、米国の大学の日本語講師として渡米した。「大学の学費は高いが、講師であれば全ての授業を無料で聴講できるから」というのが理由だった。

 ハーバード大学で教えるようになり、優秀指導者の評価を受けた。そこで教えていたのは語学の講座だったが、内容は自己マネジメントだった。ハーバードの学生からは「先生のやり方はビジネスパーソンに合っている」という評価を受けた。帰国して起業し、子供から企業までをターゲットにした教育プログラムを提供した。これがアクティブラーニングである。

■受動と能動を意識していた日本の伝統教育

 ここからは、羽根氏からの「質問」と、隣り合った2人でペアで行う「対話」を織り交ぜて、ワークショップ形式での進行となった。

 最初に取り上げたのは、非連続型成長の重要さだ。連続型成長とは、今まであったものの延長で何かを考えることであり、対して非連続型成長とは全くちがうことを持ち込むことだ。たとえばパソコンを改良するのに、どうやって軽く、小さく、速くしようかと考えるのが連続型成長であるのに対し、「キーボードは本当に必要か?」といって登場したiPadが非連続型成長である。世界が変化して今までのやりかたが通用しなくなってきており、商品の作り方も非連続型成長になっている。

 ダイナミックに変化する世界の中で生き抜くためには、今までのやり方が通用しない、非連続型の考え方が重要になっており、教育のやり方も変わりつつある。従来の日本の従来の教育は知識・技術の提供型教育だったが、今、探求型教育にシフトしようとしている。思考法に置き換えると、受動的学習は教師から解答を教わる正解コピー型学習であるのに対し、能動的学習は、自分から学ぼうとする正解探求型学習であるといえる。

「最近、日本の先生方は日本の従来型の教育を否定しますが、探求型教育を行ってきたアメリカでは逆のことを言って公文式をやらせている学校もあります。受動と能動はセットであるべきなのです」(羽根氏)人間の学習はインプットとアウトプットの二段階で成り立っており、インプットしたあとアウトプットすることで身につくとした。

 受動と能動の教育を意識していたのが、日本の伝統芸能の教育である。「千利休の“守破離”という言葉は、守はすなわち基礎、先達の英知を取り込むこと。破は応用取り入れた基礎を自分なりにアレンジすること。そして離は独立、取り入れたものから離れること。受動と能動がセットにされています」(羽根氏)

■アウトプットと「開脳」

 ここで羽根氏は話題を変え、「ここまでに話してきたことがどのくらい記憶に残っているかを実験してみましょう」と呼びかけた。既に提示したスライドの一部を隠して、どのように記憶が残っているかを隣の人と確認し、間違ったところを確認する。「一度記憶をアウトプットしてみると、正解を見るとき、正しかったところより間違ったところに着目する。それが重要です」(羽根氏)アウトプットした後の方が学習能力は高くなる。

 次に、「受動的学習と能動的学習」のスライドを提示した後ふせ、隣の人に説明するというワークショップを行った。「ただ聞いているだけではおそらく1ヵ月後には記憶には残っていないと思いますが、今アウトプットしたことはかなりの確率で残っていると思います。学んだ直後にアウトプットすることが大事なのです」(羽根氏)

 アウトプットが記憶力を高めるのは、能動的な時に脳が活性化するからである。自分で運転する人は助手席で座っている人よりも道を覚えるという「ドライバーズ効果」がその例で、脳は自分が主体者であると判断すると活性化する。

 「教育のジレンマ」は、教師と学習者の関係そのものが学習者を受け身にしてしまい、「閉脳」させてしまうことにある。会社の上司と部下の関係や、親と子の関係にもあてはまる。だが、学んだ直後にアウトプットすることで開脳の状態にすることができる。

 ここで4つのキーワード「開脳」「ドライバーズ効果」「教育のジレンマ」「ソリューションはアウトプット」について、隣の人に説明するというワークショップが挿入された。「なぜ先ほどの能動的学習・受動的学習の時にはうまく説明できなかったのが今度はできたのか、その理由はアウトプットする前提だったから脳が開いたのです。アウトプットすることを意識しておけば集中力があがり、開脳します」(羽根氏)

 成長したければ出力の機会を増やさなくてはいけない。アウトプットさせることで理解・定着度が分かる。アウトプットしなくては、本人も指導者も理解しているかどうかが分からない。アウトプットさせることで教える時間が短くなるのが問題点だが、100回教えるよりも1回アウトプットさせる方が記憶に残る。アクティブラーニングの記憶を定着させるメソッド「Lite」は「Learning in teaching」の略で、すなわち学んだことを他者にアウトプットする、教えるという行為に高い学習効果があるということを意味している。

 アウトプットの方法は、会社で同僚に話す、家族や友達に話す、Facebookに投稿するなどがある。そのことについて知らない、生身の人間に話す方が効果が高い。あるいは、行動でアウトプットする方法もある。人に会いにいったり、アルバイトやボランティア倍と、ぼらんてぃあ、旅行などがあるが、ポイントは「受けた情報を段階的にアウトプットする」ということだ。

 段階的に、とは「単純アウトプット」「関連アウトプット」「創造アウトプット」の三段階である。「単純アウトプットは、学んだことをそのまま他者に話すこと。関連アウトプットは、学んだことに関連する体験をすること。創造アウトプットは、プロジェクトを通して問題解決することで、3番目が大切です」(羽根氏)。

■深掘り思考と知的交配

 次に羽根氏は、「自分の人生で大切なものを3つ、理由付きで答えてください」と会場に問いかけ、その後、同じ質問をハーバードの女子学生にしたビデオを見せた。

 日本人と欧米人の違いは、日本人は何かを考える時「過去の知識、経験」から引っ張り出したものをそのまま出すことが多い。一方で、欧米人は、過去の知識や経験をそのままアウトプットすることは「考えていない」ことであるとする。例えば「大事なもの」という質問に対して、どの国の人も「家族」と答えるが、ハーバードの学生は言葉をつないで家族の概念を定義することで、「自分の考え」を述べようとする。

「私達の思考はどうしても検索系になりがちですが、事例をすべてのケースにあてはめることはできません。創意工夫が必要になります。そのための“深掘り思考”については、アクティブラーニングのサイトで見て下さい」(羽根氏)

 深掘り思考の一つの例として、「東京が住むのに適した場所だという理由」を第一思考、第二思考、第三思考と展開していく方法を紹介した。東京が住むのに適しているのは「交通の便が良いから」(第一思考)、交通の便が良いことは何がいいかといえば「いろいろな場所に行けるから」、いろいろな場所にいけるとはどういうことかといえば「町の特色がなければ差別化できず衰退するので、町が進化していく」(第三思考)、と展開していく。このようなやり方は他にもある。

 また、自分自身で深掘り思考をしにくいときは、他の人と一緒にアイデアを出し合うことが効果的である。ここで羽根氏は「知的交配」というキーワードを紹介した。ある人が持っているアイデアを他の人のアイデアと交配して新しいものを生み出すことをさし、社員教育や商品開発の現場で多くの成功事例が出てきている。「日経BPというメディアとアクティブラーニングという教育が組んだこの場も知的交配の一つ。何か新しいものが生まれると思います」と羽根氏は話をしめくくった。