として活躍中の現役バリバリCFAの有志が日経マネーの読者に向けて、毎月交代でコラムを執筆します。初心者や投機や短期投資のみが投資だと思っている方に、本当の投資、資産運用を知っていただきたいと思います。合言葉は、「急がない、やめない、無理しない」。毎月1回の更新です。
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アムンディ・ジャパン株式会社
債券運用部長 有江 慎一郎, CFA
雪が殆ど降らない地方に生まれ育った私が、小学生のころやっていたウィンタースポーツといえば、アイススケートでした。やっていたと言ってもスケートリンクは家の近所にある訳でもなく1シーズンに2〜3回滑る程度でしたから余り上達しませんでした。ちょっと上手くなってきたかな、と思って調子に乗って滑っていると、スケート靴の刃(ブレード)の先のギザギザ(トウピックと呼ぶらしい)が引っ掛かって前のめりに転んでしまう。悔しいからトウピックが引っ掛からないように足の動かし方を慎重にしながら、かつ頻繁に下を向いて滑っているとやはり引っ掛かってしまう。ということを何シーズンか繰り返しているうちにスケート熱も冷め、スケートリンクに寄り付かなくなっていました。
雪が殆ど降らない地方に生まれ育った上に生来の天邪鬼気質も手伝い、バブル期に国を挙げての大ブームとなっていたスキーにも全く興味がなかった私が、それでも家族の勧めに従ってスキーを始めたのはほんの10年ほど前のことです。いい年の大人になってしまってからスポーツを習得するのは大変です。体力的な問題もありますがそれ以上に厄介なのは、変に知恵があるから常に理屈から入ってしまい、頭で理解しないと動き出せなくなってくる傾向があることです。
ですから、ハの字でゆっくりまっすぐ滑り降りられるようになってきた私が直面した問題はターンでした。どうやってもあの長い板を使って弧を描くように滑るという動作の原理が頭で理解できず、どう足を動かしてどういう形で滑れば良いのか判らず困っていたところ、「とにかく行きたい方角に顔を向けること。できれば肩から上全体でそちらを見る積もりで。」という理屈ではない、理解し易いアドバイスをもらいました。
半信半疑でやってみると、その的確な理屈抜きのアドバイスのおかげで曲がれるようになり、今でも決して上手いとは言えませんが、人並みに楽しめる程度には滑ることができています。
数年前、小学生だった息子に自分が教わったのと同じ「とにかく行きたい方角に顔を向けること。できれば肩から上全体でそちらを見る積もりで。」というスキーの曲がり方の「極意」を教えているときに、ハッと気付きました。スケートでトゥピックを引っ掛けて転んでいたのも、スキーで前のめりに転んでいるのも、全ては自分が足下ばかり見ていたせいではないかと。顔を向けた方向に体が進もうとするのだから顔が下を向けば体は前ではなく下に向かおうとするのは当たり前かもしれない、といい年になって初めてそういう簡単なことに気づきました。
足下の凸凹が気になって一生懸命に下ばかり見ていると、どこに向かっているのかも判らなくなり体のバランスも失い易くなるし、下向きの力が働いて転び易いし、顔をあげて前を向いていないので前方の障害物もわからないし、何も良いことはなさそうです。
長期投資は山登りに似ている
投資も同じようなものです。長期投資と言いながら、買った瞬間から目先の市場の上げ下げばかりが気になって日々の値動きに気を取られていると、そもそもどの程度の投資期間でどの程度のリターンを期待してどの程度の下げを覚悟したうえでその銘柄を買ったのかを忘れてしまい、挙句の果てには「何故ここで?」というタイミングでその銘柄を売ってしまうことが良くあります。
そういう意味では、上手な投資は山登りにも似ているかもしれません。山に登るからと言ってそのルートは必ずしも一本調子の上り坂が続く訳ではありません。場所によっては一旦坂道を下っていくこともあります。でも下り道に入ったからと言って、その先に尾根伝いに登り道が見える、あるいは登り道があることが予想できる状態であれば、いちいち「この道でいいのか?」と悩む人はいません。それは目の前の道の向きだけを見ているからではなく、もう少し先のルートまで視野に入れているから心配する必要がないのです。もしも迷ったかなと思ったら、歩みを止めて自分のいる場所を地図や方位磁石などを使って確認すれば良いだけのことです。つまり、全体の行程のどこに自分がいるのかさえ理解してしまえば、目的地とは異なる方向に向かっていることがあっても人はすんなり受け入れることができます。
投資も短期的な相場の上げ下げにばかり気を奪われてしまうと、どういう判断をしたら良いのか判らなくなることがあります。そういう時は、買う前に考えていたことを思い出しましょう。自分は元々どういうリターンを期待する代わりにどの程度の市場の振れを覚悟してこの銘柄を買ったのか、その時の考え方に基づいて現状を見ると今の市場の動きは想定の範囲内だったのか否か、など冷静に振り返ってみましょう。こうしてみてみると、とんでもない下げだと思っていた相場が実はほとんど事前に想定していた範囲に収まっていたということも良くあります。
自分の投資方針を決めて、記しておく
このように常に冷静に自分の投資方針を確認できるよう。投資方針ステートメント(Investment Policy Statement、以下IPS)を定めておくのも良い方法です。IPSには、以下のような項目を記しておきます。
・投資の目的(何のための投資なのか:子供の将来の学資、老後の資金、など)
・ 期待収益率(どの位増えることを期待しているのか:あくまでも現実的な想定で)
・リスク許容量(具体的に許容できる損失額を決めておくのが良いでしょう)
これらを具体的に定めて、かつ、その具体的なIPSを持って専門家にアドバイスをもらってどういう投資を行うのか方針を決めましょう。そうすることで市場が下がっても慌てることなく、投資を継続することが可能になります。
その際1つ注意して頂きたいのは、証券会社や銀行の窓口で証券や投資信託を売っている人たちはアドバイスをもらうべき専門家としては余り適切でないことが多いということです。証券会社や銀行は顧客が売買をすれば手数料が収入として入るので、極端なことを言えば顧客の資産が増えようが減ろうが売っている人たちの収入には何の影響もありません。中には親身になって考えてくれる人もいるのでしょうが、それは珍しいことだと考えておくべきです。
またFP(フィナンシャル・プランナー)の方々の中にも具体的な資産運用の方法について余り詳しくご存知でない方がそれなりに多くいらっしゃるようです。多少費用を払っても独立系の投資アドバイザーに相談するのが最も賢明であると思います。IPSを作るところから、投資アドバイザーに相談しても良いでしょう。
足下ばかり見つめてないで、小さなことは余り気にせず、明るく前を向いて長期的に継続することを心掛けた投資を続けていれば、大怪我することはないと思います。
実際に運用に携わっている現役CFAが執筆するこのコラムでは、読者からの質問コーナーも設けます。投資について、どんな初歩的な質問でも結構ですのでどんどんお寄せ下さい(ただし、個別銘柄に関する相談や短期的な相場見通しについてはお答えできません)。
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