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梶原しげるの「プロのしゃべりのテクニック」

【45】上司の間違いを指摘する時のテクニック

Associe

 麻生総理の「漢字読み間違い」でブームに火がついたのか、『読めそうで読めない間違いやすい漢字』(出口宗和著)が、Amazon.co.jpのベストセラーの上位にランキングされている。出版社は総理に足を向けて寝られない心境だろう。

 「総理の誤読問題が話題ですが」と、ぶら下がりの記者にマイクを向けられた総理。「これ以上本屋をもうけさせてたまるか。漫画は別だけどさ、へへ」ぐらいな、麻生さん的やんちゃで乱暴なコメントを期待したが、「単なる勘違いです」と、さみしそうに背中を向けてその場を去った総理の「孤独」が気になった。

周囲の諫言はなかったのか?

 2008年秋のあの日。彼は官邸で、新聞を読んでいた。そこにはリーマン・ブラザーズ破綻の記事が。おごそかに周りのスタッフにこう語った…かもしれない(以下、梶原の想像)。

 「あのリーマンが、はじょう(破綻のよくある読み間違い)か。こりゃあ、みぞうゆう(未曾有)の事態だ。アメリカとの連絡をはんざつ(頻繁)にしておこう。経済的なかいが(怪我)は最低限に抑えたい」

 こういう時、麻生さんの周りの人が総理を本気で支えようとしたならば、嫌がられるのを覚悟で体を張ったアドバイスをしたはずだ。

 「生意気なことを言うようですが、リーマンははじょうしたのではなくはたんしたと読むのが一般的かと存じます」

 こんなふうにその場で一つひとつ訂正してあげれば、あんなことで恥をかき、支持率を急降下させることはなかったかもしれない。漢字の読み間違い一つ、諫言(かんげん)してもらえないという孤独を、総理は感じていたのではないだろうか。

 政界ばかりではない。経済界や芸能界、スポーツ界のそうそうたるスターや名士たちでも、その世界での実績とは関係なく、思わぬ勘違い言葉を口にする。私も何度かそういう場面に直面した。例えば、生放送でご一緒した高名な元野球選手。

 「なんてったってね、ねんぼうがやる気につながるのがプロですよ」

 年俸(ねんぽう)をねんぼうと言い間違える。一度だけなら、さりげなく言い換える。

 「そうですか。いくら稼ぐか、ねんぽうって、エネルギーになるんですね」

 それで気づいていただける場合もある。そうならない場合。本番中はその言葉が出ない方向に話題を転換する。その後も長いお付き合いになるのであれば、番組終了後、間違いであることをお伝えする。しかし「ねんぼうじゃなくて、ねんぽうですから頼みますよ!」とは、口が裂けても言えない。

 「お疲れ様でした―! いやー、おかげさまですごくいい放送になりました。私の頓珍漢(とんちんかん)なところを目いっぱいフォローしていただき本当に助かりました。お金がモチベーションていうお話は私なんか実に納得しました。そうそう、選手のねんぼうっておっしゃったところ私、生意気にも、ねんぽうと言い換えたんですが、変なもんで、放送用語ではねんぽうに統一するっていうやっかいな約束があるんですよ。恐縮ですが、お付き合いいただけますか? やー、それにしても、深いですねえ、選手心理って。次回もどうかよろしくお願いします。ありがとうございましたー!」

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