ワークシェアリングは中小企業の体力を奪う
依然として先行きが見えない経済状況。さらに悪化の度を増す雇用情勢。リーマン・ショック以降、日本を覆ういかんともしがたい停滞感…。いまの政治に一番求められているのは、こういう閉塞した状況を打破することに他なりません。
いや、確かに政府は様々な景気対策を打ってはいる。それ自体は評価すべきことなのですが、わたしの見るところ対策はいずれも「見当違い」の感を免れない。
たとえばこのたびの平成大不況の折り「ワークシェアリング」が話題になりました。皆さんもご承知のように、これは勤労者同士で仕事を分けあって雇用を維持しようとするもので、政府はさかんにこの手法の導入を奨励しました。
もちろん、ワークシェアリングの趣旨そのものは悪いものではありません。しかしそれが全国の中小企業の現実・現場に即しているかというと、「いなかった」といわざるを得ない。
わたしは日本全国、様々な会社を見学したり経営指導に回ったりしています。多くの経営者や幹部、現場の社員にも直接会ってヒアリングもしました。その経験に照らして、ワークシェアリングはむしろ中小企業を疲弊させるものでしかない、と実感しています。なぜか。ワークシェアリングの本義たる「仕事を分けあう」は、換言すれば「社員が成長する機会をも分けあう」ことに他ならない。つまりスキルが社内に蓄積していかないからです。
また、これまで100の力で仕事をしていた社員が、ワークシェアリングによって60、70の力で仕事をするようになるのも問題だと感じました。一たびそれだけ力を落してしまうと、なかなか100には戻れないものだからです。これでは企業は弱体化する一方です。いくら雇用を守っても、それで倒産してしまっては本末転倒ではありませんか。
こういうことは、官僚や政治家よりも中小企業経営者のほうが正確に見抜いていたのでしょう。わたしが見て回った範囲ではワークシェアリングに「本気で」取り組んでいる企業は1社も見ませんでした。そういえば、政府の要求するレベルでワークシェアリングを実現した企業はついに存在しなかったとも聞いています。「笛吹けど踊らず」とはこのことでしょう。