今回お話を伺った作業療法士の藤原茂さんは、脳卒中などで身体の機能が損なわれた人のリハビリを手がける専門家である。山口県にある藤原さんの施設は、細かい工夫の積み上げで空間が出来ている。そこでは自分がチャレンジしているテーマを他の人に見えるように書き出したり、リハビリのメニューも自分で選んでホワイトボードに張っていくといった“可視可”が1つのポイントになっているのだと感じた。
藤原さんが目指しているのは「機能の回復」よりも「生活を回復すること」。そしてその人の「人生を回復すること」である。失われた機能を回復するリハビリに力を注ぐのも大事だが、失われた現実の上で生活を再建することが大切だという。「無くなったもの」は、もちろんあったほうが良いが、そこにばかりとらわれるといつまでも開放されない。
それなしでも生活を再建することによって、今まで猛スピードで走っていたのが、ゆっくり歩いたり立ち止まるようになることで、かえって見えていなかったものが見えるようになる。病気になって「健常である」意味が見えてくる。障害があっても心が健常であるとはどういうことなのか。それは些細な物事にも感動できる気持ちがあることだと藤原さんは言う。健常というのは必ずしも機能が全部揃っていなければならないわけではない。残された機能でなんとかすることによって人生を楽しむ。それができるならば、どんな人でも健常でありうる。
リハビリにとって大切なのは、感情が大きく動くことだと藤原さんは言う。感激の“素”として、「食べること」と「人のぬくもりの近くに置くこと」の2つを重視している。食べる行為は生き物として最も強い情動の1つであり、それが生活を再建するための入り口になるというのは、経験に裏付けられた事実なのだろう。
脳の中では情動系から前頭葉をはじめとしていろいろなところへ投射が行っているため、情動系の活動を上げることが最も大切であり、それがやる気や情熱を植えつけることにつながる。このことは以前から認識していたのだが、藤原さんの仕事から、やる気や情熱を植えつける方法論が見えてきたと思う。




