(前屋毅=ジャーナリスト)
デジタル放送を受信できるテレビには「B-CASカード」を挿入することが必要になっている。このカードを発行しているビーエス・コンディショナル・アクセス・システムズは、11月から小型化したカードの提供を開始した。なぜこの時期に「小型化」なのか。いや、そもそもデジタル放送に「B-CASカード」は必要なのか。
無料が前提の地上波デジタル放送にB-CASカードが必要な「不思議」
まずは「B-CASカード」について触れておこう。
地上デジタル対応のテレビを購入すると、銀行のキャッシュカードと同じ大きさのカードが同梱されている。これをテレビの指定部分に差し込まなければ、地上デジタル放送は受信できない。このカードが「B-CASカード」である。そもそもは2002年12月1日に日本でBSデジタル放送を開始したとき、その有料放送のために導入されたものだ。
有料放送の放送波には、料金を支払っていない視聴者は受信できないようにスクランブル(伝送路暗号)をかける。視聴者が料金を払えば、そのスクランブルを解除する。その仕組みが「CAS(conditional access system=限定受信方式)」だ。「B-CAS」の「B」とは「BS」のことである。B-CASカードには個別の認識暗号が登録されており、それを見分けて放送波を送る側が料金を払う手続きをしたテレビのスクランブル解除を行なうのだ。
BSデジタル放送の開始にあたりB-CASカードが導入されたのは、もともと地上アナログ放送を無料で提供していた民放の在京キー局各社が、BSデジタル放送を有料コンテンツとして放送しようとしていたからである。しかし実際に放送が始まってみると民放各社は有料化を見送った。有料で視聴者を集める見通しが立たなかったためだ。つまりこの時点において、スクランブル解除という意味ではB-CASカードは必要なくなったのだ。
もっともWOWOWとスターチャンネルは有料放送を実施しているが、それまでは別の仕組みでスクランブル放送を実施していて、B-CASカードがなければ有料放送ができなかったわけではない。なにより、そういう有料放送を必要としない視聴者まで、デジタル対応のテレビを購入時に強制的にB-CASカードを買わされるのは理不尽である。有料放送を望んだ時点で売る仕組みにしてもおかしくないはずだ。
それでもB-CASカードが導入されたのは、「著作権保護」という目的があるからだ。放送局が放送したコンテンツを録画して無断で売買すれば著作権の侵害となる。それを防ぐためにコピー回数を制限する仕組みを放送波に組み込み、その放送波で視聴可能にするには「B-CASカード」が必要となっている。もともと有料化を前提としていない地上デジタル放送の視聴にもB-CASカードが必要なのはそのためである。
ただし、この「B-CASカードによる著作権保護」については疑問の声も多い。総務省の情報通信審議会情報通信政策部会「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」が2009年7月に提出した答申には以下のような記述がある。
『「デジタル・コンテンツの流通の促進」及び「コンテンツ競争力強化のための法制度の在り方」について』も、「消費者の立場としては、選択肢の拡大や、市場における競争原理につながる著作権保護技術が必要なのであれば、それを守るためだけに絞ったルールが必要なのではないかと考える」。つまり総務省はスクランブル解除機能まである「B-CASカード」による保護の方法には懐疑的な見解なのだ。