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時評コラム

大前研一の「産業突然死」時代の人生論

日本がアルゼンチンになる日の予感がする

金融機関は「産業の血液循環剤」として機能すべきだ

 当面は大型の予算を組み、赤字国債を買い取る仕事をゆうちょ銀行に持たせ、見掛け上は辻褄が合う。しかし、対GDPで累積公的債務が200%にもなるのを目前にして、誰かが国債は本当に大丈夫か?と叫んだ途端に暴落する、という危機が刻一刻と迫っている。長期国債の利回りがジリジリ上がっているのは、その何よりの証拠だし、また他の先進国を見回しても日本のレベルまで国債を乱発しているところはない。普通の国ではいくら国債を出しても、買い手がいないからである。

 最悪なのは、日本の失われた15年、すなわち金融危機に際して公的資金を入れるなり、金融庁主導の合併吸収を繰り返してきた日本の金融機関が様変わりしていることである。つまり、国債の問題がゆうちょ銀行だけのことではない点だ。日本の銀行は「産業の血液循環剤」という銀行本来の機能を失い、いつの間にか、ゆうちょ銀行と同様に国債を買うための機関になってしまった。

 かつての都市銀行は、法人融資と個人融資に力を入れていたのだが、今はどうだ。ほとんどがそういう努力を放棄し、個人に対しては消費者金融を通じて高い金利で貸し出すのが主で、法人に対しては系列には甘く、中小企業にはほとんど貸し出さない。一方、金融庁の審査が甘くなるファンドを通じて法人へ貸し出す、などの異常なやり方が普通になってしまった。

 この間、預金に対しては0.1〜0.4%などという超低金利であったので、銀行はリスクの高い貸し出しをしなくてもひたすら国債を買えば、利ざやが1%以上稼げる。金利を3%払わなくてはいけない、となれば4%で借りてくれるところを必死に探さなくてはいけない。しかし、国債を買っていれば十分さやが抜ける、という現状では無理して貸し出すよりも、安易に国債を買った方が何かと都合がいいわけだ。

 かくして銀行はその三大業務(決済、預金、貸し出し)の中で、決済には(ATMや送金などで見られるように)高いフィーを取り、貸し出しを渋りながら、預金の多くで単純に国債を買うだけの怠慢な経営になってしまったのである。国の資本が注入された銀行は国ににらまれることを極端に恐れている。したがって巨大都市銀行は、国にとって都合の良いゆうちょ銀行と同じ機能に陥ってしまっているのだ。

 しかし、金融機関が「産業の血液循環剤」としてしっかり機能してくれないと、経済は停滞したままになる。そうなれば日本の将来は暗い。斎藤氏就任のニュースを一企業の社長交代劇だと単純に片付けるわけにはいかない。このまま進めば、ゆうちょ銀行も他の銀行も、すべては国策に沿って国債買い取り機構となり、「西部戦線異状なし」状態で何の不都合もなく財政赤字を消化する装置が出来上がる。そして国債の格付けが低下し、どこかで矛盾が露呈して、この良くできた仕掛けが破綻することになる。日本がアルゼンチンになる日である。

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大前研一の「「産業突然死」時代の人生論」は、09年4月7日まで「SAFETY JAPAN」サイトにて公開して参りましたが、09年4月15日より、掲載媒体が「nikkeiBPnet」に変更になりました。今後ともよろしくお願いいたします。また、大前氏の過去の記事は、今後ともSAFETY JAPANにて購読できますので、よろしくご愛読ください。


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大前 研一(おおまえ・けんいち)
1943年、福岡県に生まれる。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号を、マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社。以来ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を務める。
 2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラム(ビジネスブレークスルー大学院大学)が開講、学長に就任。経営コンサルタントとしても各国で活躍しながら、日本の疲弊した政治システムの改革と真の生活者主権の国家実現のために、新しい提案・コンセプトを提供し続けている。
 近著に『さらばアメリカ』(小学館)、『知の衰退からいかに脱出するか』 (光文社)、『ロシア・ショック』(講談社)がある。

大前研一のホームページ:http://www.kohmae.com
ビジネスブレークスルー:http://www.bbt757.com
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