リマスターの効果は安価なCDラジカセでも分かる

 大島 リマスターの聴覚効果ですが、これは聴き比べていただければ瞭然だと思います。まず分かりやすいところでいえばボリュームレベルが上がっている。アンプのボリュームを同じにしても、新しいリマスター盤のほうが大きい、迫力ある音になっています。またこのたびのリマスターにともない、従来モノラルで発売されていた『PLEASE PLEASE ME』『WITH THE BEATLES』『A HARD DAY'S NIGHT』『BEATLES FOR SALE』の初期4枚のアルバムはステレオになりました。もちろんモノラル録音をステレオに変換するのは、原理的には不可能です。しかしビートルズは将来を見越して、デビューアルバムの時点からステレオ録音していたのです。だからLP時代には、上記4枚のアルバムのステレオ盤も発売されていたことがあるんですよ。

 また、リマスターによって音が際立って鮮やかになってもいます。従来のCDでは聴き取りにくかった演奏の微妙なニュアンスがはっきり聴こえるようになりました。さらに楽器の位置関係が明瞭になるなど、音の定位感も大きく向上しています。こうしたリマスターならではのメリットは、安価なCDラジカセなどで聴いてもはっきり分かるレベルだと自負しています。

 余談ですが、リマスターの効果が一番顕著に出ている曲として、私は個人的に『Michelle』をお勧めしたいですね。原曲は大変に美しいバラードですが、その美しさが一層際立ったと感じられるはずです。

――今回のリマスターにあたって、御社は作業にかかわってはいないのでしょうか。

 大島 残念ながらそれはありません。意見を言うこともありませんでした。ただ、今回のリマスターにあたり、通常盤とは別に「ザ・ビートルズ MONO BOX」という限定セットを全世界で発売しています。これは「MONO」という名前が示す通り、ビートルズのオリジナルアルバム13枚のうち11枚をモノラルにリミックスして販売しているものです。このBOXの生産を手がけたのが弊社です。実は日本で生産を手がけたビートルズのCDが全世界で発売になるのは過去に例がなく、ある意味では画期的なことなのです。

紙ジャケット仕様で完全に再現した「ザ・ビートルズ MONO BOX」は3万9800円。限定品のためすぐに入手困難となり、オークションサイトでは定価より高い価格で落札されることも珍しくないという。『ABBEY ROAD』『LET IT BE』の2枚のアルバムはこのセットには含まれていない。「この2枚のアルバムが出た当時はステレオが当たり前になっており、あえてモノラル化する意味がなかったためです」(大島さん)

 どうして日本が「MONO BOX」の生産を一手に引き受けることになったのか。一つには紙ジャケットの生産技術の高さが挙げられます。「MONO BOX」に収められているアルバムはいわゆる紙ジャケット仕様でして、60年代に英国で発売されたオリジナルアルバムのデザインや体裁を、写真の色味なども含めてそのまま再現している。そういう丁寧な仕事ができるのは、やはり日本以外にはないそうです。ちなみに「Kamijake(紙ジャケ)」という言葉は、欧米の音楽ファンにはそのままで通じるらしいですよ。

「MONO BOX」を発売した背景ですか? やはりビートルズが活動していた時代のオーディオはモノラルが主流であり、モノラルこそがビートルズの底本だったことが挙げられますね。それを21世紀のリマスター技術でリファインしたものをお届けしたい、という気持ちがあったのです。おかげさまでファンの方からは大変高い評価をいただいています。ぜひ皆さんもお買い求めください……と申し上げたいところですが、前述のようにこれは「限定セット」なので、もはや店頭在庫しか残っていないのが残念なところです。