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H-IIBとHTVの成功が意味するもの(1/5ページ)

より根本から考え抜いた戦略の構築を

2009.09.18

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(松浦晋也=ノンフィクション・ライター)

種子島宇宙センターから打ち上げられるH-IIBロケット試験1号機(Photo by JAXA)。

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月11日午前2時1分46秒、種子島宇宙センターから新型のH-IIBロケット試験1号機を打ち上げた。打ち上げは成功し、搭載した宇宙ステーション補給機「HTV」試験機(HTV-1)を無事に予定した軌道に投入した。HTV-1は、軌道上で技術的な試験を行った後、国際宇宙ステーション(ISS)にランデブーし、9月18日午前4時47分にISSのロボットアームで捕獲され同日午前7時30分に無事ISSとドッキングした(後述するとおりHTVはCBMを使用するため、正確には“ドッキング”という言葉を使わず、“結合[バーシング]”という)。

ISSのロボットアームで捕獲されるHTV-1(NASA TVより)。

 日本の宇宙開発にとってH-IIBとHTVの成功は、1980年代初頭以来の2つの目標達成を意味する。「自主技術によるロケット開発体制の完成」と「ISSにおける日本の立場の確保」だ。

 しかし、過去の経緯を見るならば、それは狙って達成したものではなく、幸運にも結果として得られたものだ。H-IIBもHTVも企画段階から開発に至るまで、様々なブレと思惑違いが存在し、一歩間違えば日本の宇宙開発の将来を閉ざす可能性があった。

 この成果を生かすためには、今後の注意深い戦略的目標の設定と、ねばり強い技術開発と投資が必須となる。H-IIB/HTVが成功し、地上では政権交代が実現した今こそ、まず哲学から考えて宇宙開発の未来を構築するチャンスではないだろうか。

H-IIBは最適最高の設計ではなく、妥協の産物

 H-IIBは、「H-II」ロケット(1982年から検討開始、1994年初号機打ち上げ)に始まる、大型国産ロケットの到達点である。H-IIで開発された技術はH-IIAでリファインされ、「手持ちの技術を使って、より大型のロケットを低コストで開発する」という応用問題に対する解答としてH-IIBが完成した。

 H-IIBの主要コンポーネントは、H-IIAで開発されたものに一部改良を加えたものだ。4基の固体ロケットブースター、第1段で2基使用するLE-7Aエンジン、直径5mの大型フェアリングなど。

 唯一の大きな変更点は、第1段の直径を4mから5.2mにして推進剤搭載量を1.7倍にし、同時に使用するエンジン数を1基から2基に増やしたことだ。これは「そこだけ」と言い切れるほど小さな変更ではないが、それでもエンジンや機体をゼロから開発するよりもずっと開発要素は減り、開発に伴う経費も少なくて済む。

 この変更によって、H-IIBは、固体ロケットブースターを2本装備する標準版のH-IIAと比較して、ほぼ2倍の打ち上げ能力を実現した。ISSへは16.5tあるHTVを打ち上げることができる。

 この規模は、ISSに約20tの無人輸送船「ATV」を打ち上げる欧州の「アリアン5」や、アメリカが官需衛星打ち上げに使用している「アトラスV」ロケットの最大バージョン「551型(固体ロケットブースターを5本装備して、静止トランスファー軌道に8.7tを打ち上げる)」よりやや小さい。世界的に見て、H-IIBは、一線級ロケットの中で「最大規模よりやや小さい」というレベルにある。

種子島宇宙センターで報道陣二項解されたH-IIBロケット(松浦晋也撮影)

 しかし、H-IIBの設計は、最初から慎重に熟慮を重ねた末に決まったものではなかった。H-IIAの打ち上げ能力向上は、当初液体酸素・液体水素を使用する液体ブースター(LRB)を装着することで行う予定だった。しかしLRBは、技術とコストの両面で問題が発生したために開発が中止となった。H-IIAの能力向上は、固体ロケットブースターの数を2本から4本に増やして行うことになったが、HTVの重量が増加したことで、それだけでは打ち上げ能力が不足することになった。その結果、より一層打ち上げ能力を向上したH-IIBの設計が急遽浮上し、2003年からH-IIBの開発が始まった。

 H-IIBは「手持ちの技術を組み合わせ、開発要素を最小限に絞りつつ、16.5tのHTVを打ち上げられるようにする」ことのみに集中して開発されたロケットなのである。

 だからH-IIBは、ロケット工学の面から見ると、あまり「きれいな設計」ではない。大型化された第1段に比べて、H-IIAのままの第2段は小さすぎる。2段の直径を5.2mにして推進剤の量を増やせば、打ち上げ能力はもっと上がるだろう。

 また、エンジンを2機装着した第1段は、典型的な「ダメな双発機」の設計である。双発の飛行機は、エンジンが1機故障しても飛行し続けられるように設計する。エンジンが1基故障したら飛び続けられなくなる双発機は「ダメな双発機」だ。H-IIBの第1段は、エンジンが1基ダウンすれば打ち上げが失敗する。その一方でエンジンを2基積むことで故障する確率は上昇している。

 そういったことを理解し、すべて飲み込んで、「とにかく、国際協力のISS計画で、日本の義務となっているHTVの補給を実施する」ことのために、H-IIBは開発されたのである。

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