今回、漫画家の井上雄彦さんにお話を伺って、「SLAM DUNK」にしても「バガボンド」にしても、クオリティが高くてしかも人気も得ているという現象の秘密がどこにあるのかが理解できた。
作品作りのなかで井上さんがもっとも苦労されるのは、「ネーム」と呼ばれるコマ割りやセリフなどを含めた全体構成を考える時だという。作品の成否を決めるのは絵のうまさでもなく、ストーリーの良さやキャラクターの立ちかたでもない。もっと総合的なものである。マンガの場合、それがネームであり、ネームができると1つの作品が出来たということだ。それと同じようなことは、ほかのいろいろな仕事でもあるのではないだろうか。
ネームを作る時に「自分の内面を奥を掘り下げていって、“根っこ”にぶつかると、それは必ずいろんな人に通じる普遍的なものである」と、井上さんは言う。だからこそ、井上さんの本は1億冊以上売れているのだが、大切なことは、その根っこに行き着くためには、格好をつけていたり、意気がっていたり、中途半端なところに留まっていたのは駄目で、裸にならなければならないという。これはすべてのクリエーターや表現者が肝に銘じなければならないことだと共感した。
「バガボンド」は、戦国時代を背景に描いていながら、実は現代を描いているのだと井上さんは言う。登場する宮本武蔵にしろ、佐々木小次郎にしろ、あれは現代の若者である。多くの人の心を動かすものを生み出すにはどうすれば良いのかを考えるうえで、そこには現代の感覚が投影されていなければならない。その創造性論はとても本質的なことだと思った。
吉川英治の原作があるとはいえ、「バガボンド」は感覚が違う。時代の風俗やトレンドという意味で、「バガボンド」は登場したとき以来、ずっと時代の気分の先端に位置している。その感覚があるからこそ、若者たちも読む。作品における「感覚とは何か」というのは、脳科学的にはまだ研究が十分に進んでいないのだが、例えばマンガの場合、コマ割りであり絵である。井上さんの場合、それが自分の内部に確かに存在していて、それ追いかけながら作品を作っているのだと強く感じた。
また、商業主義の中で仕事をしている以上、どうしても締め切りや世の中のしがらみなどで、内容がいろいろと規定されてしまうのは仕方のないことだが、そういうなかにあっても作者として「正直であること」が大事だと井上さんはおっしゃっていた。




