(NPO連想出版 新書マップ編集部 川井 龍介)

「とりあえずビールちょうだい!」。居酒屋でよくきかれる言葉だ。しかし、この本を読めば、「とりあえず」などというのが、ちょっとビールに対して失礼だという気がしてくる。なにしろ、この世にビールというものが登場してなんと5000年になるのだ。「とりあえず」という枕詞はまずかからないワインよりもずっと歴史が古い。
地中海の東方、古代オリエントで誕生して、ヨーロッパにわたって製造技術が進化し、ドイツでは厳格な基準のもとに味が磨かれ、チェコでは切れのいいピルスナーを生む。イギリスではパブ文化を支えて、その後アメリカではライトな感覚のビールが一大産業となる。
日本は日本で、幕末にビールが初めて紹介され、明治時代に入って近代化とともにビール会社が誕生し日本のビール文化が生まれ拡大する。そしていまでは発泡酒や第3のビールといったビールの“兄弟”が市場をにぎわすまでになった。欧米以外を見回しても、中国には青島(チンタオ)、タイにはシンハー、ジャマイカにはレッドストライプがあるように世界のいたるところで国や地域を代表するビールが飲まれ、このほかにも各地の小さなブルワリーで日々地ビールが醸造される。
こうしたビールの世界を、その誕生から今日までをおもにその生産の舞台となったヨーロッパの歴史を背景に、製法についての科学的な解説をまじえ実に丁寧に分かりやすくたどったのが本書である。紀元前2000年頃にシュメール人がビールを長いストローのようなもので飲んでいる印章彫刻の絵や幕府の侍がビールを飲んでいる写真など、「へぇー」と思わず言ってしまう楽しい図版も随所に挿入されている。
1934年生まれの著者は、キリンビールの開発科学研究所長、工場長をつとめた経験のある農学博士。「ビール博士」といっていい著者の筆致は、客観的で淡々としているのだが、ビールに対する愛情がところどころで見え隠れする。ビールは、時代と人々の要請に従って変化していくことを解説しながらも「発泡酒と第3のビールは、ビールを安く提供したいという動機から生まれ、結果として『ビールは麦芽からつくる』というビール誕生の以来5000年の歴史を逸脱してしまった」という著者の言葉には、ビール本来の姿への愛着がうかがえる。





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