(奥野 宣之)

新書とはどういう本のことでしょうか?
教養書、入門書、ビジネス書、などなどいろいろ出てくると思いますが、私は「ライトな啓蒙書」としての役割も大きいと考えています。
「蒙(もう)を啓(ひら)く書物」と書いて「啓蒙書」。と言っても決して大層なものではなく「あまり知られていないことを教えてくれる本」と理解しておけばいいでしょう。「ライトな」と言ったのは、新書では単行本に比べて、限られた紙数で、分かりやすく書くことに力を注いでいるからです。
今回の『世界をつくった八大聖人』は、模範的な「ライト啓蒙書」です。なんせたった1冊で、八人の「人類の教師」の人生とその思想を振り返り、現代に活かす考え方までまとめてしまうわけですから。宗教書に当たる前のガイドとしても活用できます。
さて、このタイトルを見て一番気になるのは、八人の顔ぶれでしょう。孔子・釈迦・キリスト・ムハンマド・老子……、誰でも思いつく聖人を挙げれば、これくらいかもしれません。これで5人。
著者が選んだあとの3人は、というと、ユダヤ教指導者のモーセ、ギリシアの哲学者ソクラテス、そして聖徳太子です。「他の人は世界史上の重要人物だけれど、聖徳太子は?」と思う人も多いかもしれません。
このような疑問に対して著者は、次のように説明します。
《聖徳太子は、まさに宗教における偉大な編集者であった。儒教によって社会制度の調停を図り、仏教によって人心の内的平安を実現する。すなわち心の部分を仏教が、社会の部分を儒教が、そして自然と人間の循環調停を神道が担う。三つの宗教がそれぞれ平和分担するという「和」の宗教国家構想を説いたのである》
つまり聖徳太子は、日本社会に合わせて外来の思想をいいとこ取りし、日本人の宗教を作った人と考えられるのです。今風に言えば「ハイブリッド思想家」ですね。著者は、初詣は神道、葬儀は仏教、結婚式はキリスト教、といった現在まで続く日本人の宗教観につながるひな形を作った重要人物と、肯定的に評価しています。
なるほど、と思ったら、ここからがすごい。8人の教えを知識として紹介するだけでは終わりません。
著者は、聖徳太子などの先輩ハイブリッド思想家に倣って、これから理想の社会を作っていくためのヒントを聖人から見いだそうします。その内容はさておき、古典や教典の権威に呑まれず、果敢に自分の理解を組み立てていく筆者の姿勢は、宗教学者とは違う迫力に満ちています。
著者の一条氏は、冠婚葬祭会社の経営者。日本人の宗教観に直接触れる仕事です。仕事での経験が本書のようなユニークな発想につながったのだとしたら、おもしろいことだと思います。
1981年大阪府生まれ。同志社大学文学部を卒業後、新聞記者・ライターとして活躍。仕事や私生活での資料やメモの整理を独自に研究した結果をまとめた『情報は1冊のノートにまとめなさい』でデビュー。同書は31万部、読書を題材にした続編の『読書は1冊のノートにまとめなさい』が14万部、累計45万部のベストセラーとなる。情報の整理と活用、アウトプット技術などをテーマに「面白くて役に立つ本」をモットーとした著作活動を続けている。(発行部数は2009年6月現在のもの)近著『だから、新書を読みなさい』(サンマーク出版)が好評発売中。











