(NPO連想出版 新書マップ編集部 川井 龍介)

実に愉快、爽快、そして蘊蓄に富んでいる。日本語をめぐってほとんど知らないことばかりが本書には並ぶ。「いいかげんで、曖昧なこと」を意味する「うやむや」という言葉があるが、山形のとある所には「有耶無耶の関」なる地がある。まだまだある。「あこぎ」という変わった言葉は、実は「阿漕」と書き、三重県の阿漕ヶ浦という地名が語源。また、「だらだら」あるいは「のろのろ」といった、否定的なニュアンスでつかわれる言葉「チンタラ」は、鹿児島の焼酎の蒸留法に語源があり、じっくり物事が進む様から転じたものだというのだ。
日頃よく使われる日本語のなかに、よく考えるとなんでそういうのか分かっていない言葉はたくさんある。これらの語源、ルーツを探るため日本中を旅している、語源ハンターが本書の著者である。そんなものは大きな辞典を見れば分かるだろうといわれれば確かにそうだ。著者の出発点も「大言海」「日本国語大辞典」「広辞苑」などにある解説だ。しかし、ここからが普通の蘊蓄本とは違う。本ばかり読みこなして頭のなかであれこれ推論をするような学者とはちがって、実際にその言葉が発祥したと思われるゆかりの地があれば、著者は現地に赴きフィールドワークにかかるのである。
飛行機、新幹線はもちろんのこと、ローカル線に乗り換え、路線バスに揺られる。佐渡島へは高速水中翼船で荒波を越え、「うだつがあがらない」の徳島取材では「うだつタクシー」(こういうものがあるのだ!)に乗ったり、「急がば回れ」の語源探しでは、滋賀の草津で近道をしようとして歩き、痛い目に遭うことも。本書のタイトルにある「地団駄を踏む」の語源を探るためには「寝台特急サンライズ出雲号」で東京をあとにする。そして実際、「地団駄」のもとである「天秤ふいご」なるものを踏んでみる。現地で識者や市井の人々から情報を集めるだけでなく、まさに身体で会得するあたりが痛快だ。
一方で、著者はこうした言葉が生まれる背景にある日本各地の歴史を、分かりやすくユーモアまじりに読者に説き、おまけに現地の名物をさらりと紹介するという、実にサービス精神に富んだ筆力を持つ。地方の人とのふれあいや自身の家族への思いものぞかせるところは温かい。昨今、頭のなかだけでこねくり回したような説を独りよがりな文章でつづるインスタントな「新書」が目立つなか、身体(足)と頭と心をつかって仕上げた本書からは、まさに教養新書の一つの醍醐味(この語源も本書に登場!)を感じる。
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慶應大学卒。新聞記者などを経て独立。ノンフィクションを中心に著書多数。代表作に「『十九の春』を探して」(講談社)、「122対0の青春」(講談社文庫)。近著に「終の住処を探して」(旬報社)。サンデー毎日で音楽コラム「Music Cafe」を連載中。












