宇宙開発戦略本部(本部長:麻生太郎内閣総理大臣)の専門家会合である宇宙開発戦略専門調査会は、3月6日に第5回会合を開催。その場で、日本も有人月探査を実施することを目指す文書が宇宙開発戦略本部事務局から提出された。

 この件は3月5日の段階でリーク報道がメディアに出て、3月6日、7日にかけてマスメディア各社が報道を行っている。マスコミ各社の論調は、基本的に日本も有人月探査を行うことを好意的に伝えている。

 しかし、今回の政府構想は、とても両手を挙げて賛成できるものではない。最大の問題は、「人類は本当に月に行くべきなのか」「本当に月は人類にとって行く価値があるのか」「行く価値があるかどうかを、どうやって見極めるのか」という根源的な議論が欠けていることである。

 今回、宇宙開発戦略本部が提出した資料は、「なぜ月に行くのか」という本質的議論を欠いたまま、2020年頃に第1段階としてロボット技術による探査を、2025〜30年頃に人とロボットの連携による本格的な探査を行う、というロードマップを先行させてしまっている。

 有人月探査を実施するか否かを判断するためは、無人機の先行探査による知見の蓄積が必要である。また、地上・月面間の有人往復飛行と同じエネルギーを使えば、地球近傍小惑星の有人探査も、原理的には可能である。

 どこに有人探査を行えば、人類にとって一番有益なのかは、幅広く太陽系各地に無人探査を実施した上で慎重に判断しなければならない。

 当面行うべきは、やみくもに有人月探査に参入すると宣言することではない。無人探査機による月、小惑星、火星などの幅広い先行探査である。

 また、有人技術に関しては、日本は未経験の「人間を安全に宇宙に送り、放射線や無重力環境による障害を発生させることなく生活させ、地球に戻す」技術の蓄積を先行させるべきだろう。

 月探査への参加表明はそれからでも遅くはないはずである。

 また、文書の文面を読み込んでいくと、日本政府はアメリカが国際協力で進めようとしている有人月探査計画への参加を狙っていることが見えてくる。

 しかし、アメリカの計画はあまりに不確定要素が多い。日本は国際宇宙ステーション(ISS)参加の経験を踏まえて、慎重に対処しなければならない。

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