原文タイトル:Cyborg Therapy
原文掲載サイト:www.forbes.com
著者名:Andy Stone
原文公開日時:2009年1月22日
急性患者をターゲットにするVital Therapiesの生物-機器ハイブリッド人工肝臓
9年前、看護学生だったAmy Petrovic Bestさんは、あと数時間で命が失われるという危険な状態に陥った。正体不明のウイルスに肝臓を侵され、わずか3日で大部分が破壊されてしまったのだ。移植のための臓器を見つけるには数日かかる。しかし、それだけの時間は残されていなかった。
Bestさんは運が良かった。シカゴ大学医療センターで、このような症状が見られる肝臓の機能を一時的に引き継ぐ機械の試験が始まっていたのだ。医師たちはBestさんをヘリコプターで100キロメートル以上離れた病院に急送し、移植専門のJ. Michael Millis医師がBestさんの頸静脈に装置をつないだ。この装置は腎臓透析や人工心肺といったさまざまな機器を組み合わせたもので、440グラムの生きているがん細胞を使ってBestさんの血液の毒素を取り除き、生命の維持に必要なタンパク質を合成するものだった。2日後、Bestさんは移植に耐えられる状態にまで回復し、さらに3日後、Millis医師が健康な肝臓を移植した。現在、Bestさんは29歳で、1人の女の子の母親となり、イリノイ州ジョリエットの病院で新生児の看護をしている。
体外で肝臓の役割を果たすこうした機械は、新世代の装置の試験が、少しずつではあるが進んでいる。目標は、数日から数週間にわたって肝臓の機能を引き継ぎ、その間に移植できる臓器を見つけたり、もとの肝臓の機能を回復させたりすることだ。米国では、400万人が肝臓の病気に苦しんでいる。そのうち、薬剤の過剰摂取や予期せぬウイルス感染、慢性肝疾患の悪化などが原因で急性の肝不全に陥っている3万人は、こうした装置で助けられる可能性がある。
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「急性肝不全の治療法は存在しない。できることは合併症への対処だけだ」と、NewYork-Presbyterian Hospitalで移植に携わるRobert Brown医師は説明する。「肝臓の機能を引き継げば、回復のチャンスが生まれるかもしれない」。現在、少なくとも2種類の装置で臨床試験が行われており、研究室でのテスト段階にある装置も複数ある。しかしこれまでのところ、大規模な臨床試験で救命効果が実証された装置はない。肝臓の機能を再現することは、腎臓透析よりはるかに複雑なのだ。肝臓は単なるフィルターではなく、3000種類のもタンパク質をはじめとする分子を合成する化学工場でもある。これまで、多くの企業がこの装置に挑戦し、敗れ去ってきた。2004年には、ブタの肝細胞を用いた装置の大規模な臨床試験が行われたが、失敗に終わっている。
Bestさんを救ったELADという装置は、ベイラー医科大学で1990年に開発された。2つの企業が初期の開発にかかわったが、計6500万ドルを投じた後、2社とも破綻した。現在はサンディエゴのVital Therapiesが開発に当たっている。ベンチャーキャピタルから4000万ドルの資金を調達し、2年後に米食品医薬品局(FDA)の認可を受けることを目指している。
ELAD(Eextracorporeal Liver Assist Device、体外肝臓補助装置)の中心部には、がん細胞が入った4つのカートリッジがある。この細胞は、20年前に10代の少年から摘出された肝臓の腫瘍をもとに培養したものだ。普通の肝細胞は体外に出されるとすぐに死ぬ。しかしこのがん細胞はVital Therapiesの研究所にあるバイオリアクターで増殖し、健康な細胞の働きを再現する。ドライアイスと一緒に容器に入れ、48時間以内に病院に届ければ使用できる。
患者の血液は頸静脈からカテーテルを通ってELADに送られる。ELADは血漿(細胞の構造を持たない液体成分)を分離し、カートリッジに送り込む。血漿の毒素が多孔質膜を通過してがん細胞に入り、そこで毒性の低い化学物質に変化する。細胞は血液凝固因子などのタンパク質も合成し、多孔質膜を経由して送り返す。これが1日24時間休まずに行われる。
初期の開発を担当した2社は、もともと健康で、予期せず肝不全に陥った患者という限定的な条件でELADの臨床試験を実施した。このような症例はどの病院でも年に数件しかないため、被験者の調達が困難だった。「彼らがしていたことは実行可能な計画ではなかった」とVital TherapiesのCEO、Terry E. Winters氏は指摘する。同氏は臨床試験の対象を、慢性肝疾患が急激に悪化した患者に転換した。
しかし肝心なのはそこから先だ。ELADで命を救えることを実証しなければならない。中国では、45人を対象にした臨床試験が好成績を残した。Vital Therapiesはこの夏、米国の臨床試験の最終段階にあたる大規模な試験を計画している。「これはハイブリッドな治療法だ。生物学的なものと医療機器的なものの両方がかかわる。これほど複雑なものは、ほかに考えられない」とWinters氏は述べている。
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