ここ数年、オフィスに対する経営者の意識が劇的に変化している。コストの1つと考えられてきたオフィスを、積極的に経営のテーマとして取り組もうという認識に変わってきているのだ。ただの「箱」ではなく、そこで働く人々が知識や経験を共有し、さらなる知をたくわえビジネスにつなげていく創造の場としての新しいオフィスのあり方とはどういうものか。『儲かるオフィス〜社員が幸せに働ける「場」の創り方』を上梓した、KIRO代表で多摩大学大学院教授の紺野登氏と、情報技術を生かした企業変革の立案や変革実行の支援を行うシグマクシスの代表取締役CEO、倉重英樹氏に対談してもらった。倉重氏は10年以上も前から、社員がモチベーションを維持しながら自発的に仕事に取り組めるオフィスのあり方に強くこだわってきた経営者の1人である。
対談の前編はなぜ新しいオフィスが必要になってきたかの背景と、「知」と「場(=ワークプレイス)」を結びつけるために倉重氏が実践してきたことを、シグマクシスのオフィス内を紹介してもらいながら聞く。
(写真:的野弘路)

オフィスの重要性が広く認識されてきた
紺野 今日、オフィス改革は、次の時代の仕事のあり方と密接に結びついた経営事項となっています。背景として、モノをつくれば売れた時代は終わった。商品や技術を使って、価値のある経験やコトを消費者にどう提供するかが問われる時代にすでに私たちはいる。それを考える、人間の「知」こそが利益の源泉です。「知」が共有され、結ばれる「場」から、はじめて付加価値商品・サービスにつながるアイデアが生まれるからですね。
従来、オフィスとは純粋な「コスト」であって、「知を創造する場」と考えられてはきませんでした。いっぽう、倉重さんはオフィスを知の創造の場ととらえ、はやい段階から先進的な取り組みをされてきました。その経緯と、その間に感じたことを教えてください。
倉重 1994年から数えて、5つものオフィスの設計にかかわりました。そんな経営者はめずらしいのではないでしょうか。オフィスを新しくするたびに「進化させなくては」という使命感を持ってやってきましたが、見学者の反応も時代とともに変わってきています。
まず1994年、私が勤務していたPwCコンサルティングが恵比寿ガーデンプレイスに移転すると同時に、当時では珍しい一人1台PCで、ペーパーレスとデジタル化を推進しました。このオフィスをたずねてこられた方たちには「ここは火星のようだ」と言われていました(笑)。1997年ころに、このオフィスにモバイル環境を強化したときには、「うちのオフィスでも実践してみたい」と時々言われるようになり、2002年にオープンしたIBMビジネスコンサルティングサービスの丸の内ビルディングオフィスでは、役員が見学にこられるようになった。2005年、日本テレコムに籍を置いた私が東京汐留ビルディングに新オフィスをつくったころには、CEO自らがお越しになるケースも増えました。経営層のオフィスに対する重要性への認識が深まってきたと思います。
「コスト管理」から「価値創造」へ転換
世界的な状況で考えると、89年にベルリンの壁が崩落、東西の分断が解消されたことで労働力のデフレが起こりました。仕事する人を連れてくる、出せる仕事は外に出す、後者はいわゆるアウトソースですが、2つの大きな仕事の流れができたわけです。そこに激しいコスト競争が生まれた。そんな中、企業経営は20年間コスト管理を優先させてきた。でも今、企業はビジネスを「価値創造」のメカニズムに載せていくという、大きな転換点を迎えています。ここでは「コラボレーション」と「情報技術の活用」の2点が、仕事のあり方の前提として求められていると思います。コラボレーションの核となるのは人です。人はコストか、アセット(資産)か。当然後者ですよね。アセットであるからには評価して活用すべきなのです。情報技術に関しては「使いこなす」こと。これがイノベーションだと思っています。経営者のオフィスに対する考え方の変化は、こういう背景もあるのではないかと思います。