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“やりたい放題”の米国製薬業界を告発

2006年03月03日


 書名と副題から、おおよそ内容の見当はつく。しかしこの本にはそれを上回る迫力がある。なかでも驚くのは、著者が告発する米国の巨大製薬企業(ビッグ・ファーマ)のやりたい放題のすさまじい利益追求の実態だ。



 ともかく売り上げがすごい。2002年に米国人が処方薬に支払った金額は2000億ドル、約23兆円。これには病院、診療所などで投与される大量の薬代は含まれていない。それでも、これは全世界の処方薬売り上げの半分に相当する。



 こうなったのは20年前、レーガン政権が誕生し、強力なビジネス推進政策をとった年からだ。この年に製薬業は小さい善良な業界から巨大産業に変身した。その後の20年間で売り上げは3倍にふくれ上がり、年率12%の勢いで伸び続けている。



税金による研究成果を独占的に活用



 なぜ米国の薬代は嵩(かさ)むのか。先進国中唯一、薬価規制がないこともあって薬価はメーカーの思うままに吊り上げられるのに加え、薬の使用量がどんどん増えたことによる。製薬会社は「薬の研究開発にはとてつもない費用がかかるから」と、薬価が高い理由を挙げるが、米国では実際に新薬の研究開発を行っている製薬会社はそんなにはない。



 レーガン政策のおかげで、製薬会社は大学や、バイオ企業から買った特許で排他的なライセンスを与えられるようになり、何も自ら研究を行う必要はなくなったからだ。大学やベンチャービジネスの研究は米国国立衛生研究所(NIH)の助成金、つまり税金を使って行われる。製薬会社は税金による研究成果を独占的に活用して、利益を上げているのだ。



 「新薬の研究開発費が嵩む」という大義名分には、もうひとつの裏がある。1998年からの5年間に米国では415個の新薬が承認されたが、そのうち新規分子化合物で、市販されている薬より優れていると認められたのは年平均12個しかなく、残りは既存の薬のバリエーションだった。製薬会社は大金をかけて新薬を作っているのではなく、既存の薬の分子構造をちょっと変えて新薬の申請をし、その結果、20年間特許を延長してもうけているのだ。



膨大な利益を使って自分たちの王国を強化



 こんなことをしていれば、製薬会社の利益が膨らむのは当然だ。昔から収益性の高い産業第1位を続けてきたが、2002年には、フォーチュン500に入っている製薬会社10社の利益合計が他の490社の利益合計を上回る、という驚くべき結果になった。



 製薬業界はこの利益を使って、思うように自分たちの王国を強化してきた。政治家への巨額の献金と多くのロビイストや弁護士の力を利用して、税制上の優遇措置やライセンスの延長という恩恵を受け、安いジェネリック薬(後発医薬品)を締め出した。困った市民が安いカナダに薬を買い出しに行くようになったら、それを違法とする法律まで作らせた。医師や学会に対しては教育や研究支援の名目で金をばらまき、御用学者の論文を利用して適用範囲を広げ、薬の使用量を増やさせた。



 その結果、いまや米国では、薬に頼らざるをえない高齢者を中心に市民の怒りが高まっている。彼らの声を代弁するがごとく、「薬を作り販売するというのはもっと社会的責任のある仕事ではなかったか」と、著者はこの本を書いた。そして、この著者は、「ランセット」「ネイチャー」などと並んで医学界で最も権威あるメディア「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」誌の前編集長だというから驚きだ。



 タイム誌が米国で「最も影響力のある25人」に選んだほどの著名人が、製薬業界のごう慢さだけでなく、医学界、政治家、行政組織の腐敗ぶりを実名や受け渡された金額まであげて糾弾しているのがすごい。訴訟社会の米国で、この本が問題にならないとはとても考えられない。ただ、その裏付けとして引用されているデータや事実のもとになっているのは、市民団体や地方自治体の薬価引き下げ運動など、自分たちの生活の権利を守ろうとする米国社会のダイナミズムだ。



 すでに製薬業界が猛反発していると伝えられているが、この本のおかげでビッグ・ファーマが今までのような傍若無人な振る舞いができなくなることは間違いあるまい。



(松田 博市)



書名:ビッグ・ファーマ ―製薬会社の真実―
著者:マーシャ・エンジェル
共監訳:栗原 千絵子、斉尾 武郎
出版:篠原出版新社
税込価格:¥2415(本体:¥2300)
サイズ:A5判/335ページ
ISBN:4-88412-262-3
発行年月:2005年11月



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