成長ホルモンは老化を防げるのか?
若い頃は若くみられることに抵抗があるが、ある程度の年齢になると(これは人それぞれだが)若く見られたくなる。年をとってくると次第に身体機能が低下し、自分の衰えを知ることになる。「若返りたい」という願望は、そのようなときにわき起こってくるのだろう。
身体を若返らせる――。これを米国では、「アンチエイジング(antiaging)」と呼び、すでに産業化している。朝日新聞の、「不老願望」という米国での最新のエステ事情を紹介した記事によれば、米国では1万人がアンチエイジングのために成長ホルモンの注射を受けているという(1)。
米国ではアンチエイジングのため、加齢により減少してしまった様々なホルモンが投与される。なかでも成長ホルモンは、一流医学雑誌に論文が発表されて以来、アンチエイジングの中心的役割を担っている。この論文によれば、高齢者に成長ホルモンを投与すると、筋肉量が増え、体脂肪量が減るという(2)。この論文はアンチエイジング産業の中で独り歩きし、広告宣伝に利用されてしまっている。
もっともその後、当該の医学雑誌は、「成長ホルモンは加齢を防げるのか?」という論文を掲載し、このような風潮にくぎを刺している。この中で著者は、成長ホルモンの投与は確かに筋肉量を増やすが、その機能まで高めているという根拠はないと主張し、むしろ成長ホルモンによるがんの発症を危惧している(3)。
その根拠として、血液中のIGF-I(成長ホルモンにより増えるホルモン、IGF-Iが高いことは成長ホルモンが高いことを反映する)の濃度が高いほど前立腺癌の発症率が高い、という研究を紹介した。ほかにも、成長ホルモンが投与された人では、大腸がんやリンパ腫などの発症率が上昇し、がんによる死亡率も高くなるとの報告もある(4)。そればかりではなく、成長ホルモン投与は、糖尿病の発症率も上昇させる(5)。
日本でもアンチエイジング(日本では“抗加齢医学”と呼ばれる)が話題となってきている。インターネットを利用すれば、スプレー式成長ホルモン(?)や成長ホルモンを増加させるというサプリメントを入手できる。なかには、疲労回復をうたう商品もある。しかし、いずれの商品も、本当に成長ホルモンを増加させるのか、十分なデータはない。それどころか、上記のような成長ホルモンの危険性を考えれば、成長ホルモン摂取は全く意味のないものだ。
加齢に伴い、私たちの体の中では、ホルモンをはじめとした様々な物質の量が減っていく。もちろん、これらの物質が足らないために身体機能が低下しているのかもしれないが、逆に身体機能の低下に応じて減ってきている可能性もある。
もし、成長ホルモンが低下したために老化が進行したのであれば、成長ホルモンを補てんすることにより若返るかもしれない。しかし、老化という現象に順応した結果、成長ホルモンが低下しているのであれば、成長ホルモンを投与することはかえって害となる。老化は私たちが考えているほど単純なものではないのだ。
〔参考文献〕
1) 朝日新聞2001年6月10日日曜版「不老願望 エステ最前線へ」。
2) N Engl J Med 1990;323:1-6.
3) N Engl J Med 2003;348:779-780.
4) Lancet 2002;360:273-277.
5) JAMA 2002;288:2282-2292.
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