NASAが注力する次期有人宇宙船「CEV」、問題は打ち上げロケットの確保
(松浦晋也=ノンフィクション・ライター)
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米国の新宇宙政策の中核となるのが、スペースシャトルに代わる有人宇宙輸送システムの「CEV(Crew Exploration Vehicle)」だ。NASAは6月22日に、CEV開発チームとして米ボーイング社とノースロップ・グラマン社の合同チームと、ロッキード・マーチン社の2つを選定したことを明らかにした。
CEVは当初2008年に複数のメーカーチームによる技術試験機を打ち上げて、一チームを選定し、2014年から有人打ち上げを開始する予定だった。しかし今年4月にグリフィン新長官が就任して以降、NASAはCEV開発を前倒しする意向を示している。メーカー選定を2006年に、有人運行開始を2010年にしようというのだ。
CEVは人員輸送に特化したシャトルよりもはるかに小型の人員輸送専用の宇宙船で、打ち上げには使い捨ての従来型ロケットを必要とする。ところが現在、米国は有人打ち上げに使えるだけの高い信頼性を確保したロケットを保有していない。このためNASAは。有人で実績のあるスペースシャトルの主エンジンや固体ロケットブースターを流用して、短期間でロケットを開発することを検討している。
一方で国防総省は同省の肝いりで開発したボーイング社の「デルタ4」ロケットと、ロッキード・マーチン社の「アトラスV」ロケットをCEV打ち上げに使うことを主張している。CEV開発の前倒しのためには本体の開発に加えて、打ち上げ用ロケットをどうするから大きな問題として浮上しつつある。
CEV開発に向けて2チームを選出
2004年1月に発表された新宇宙政策は、米国にとって「参加各国の思惑がからまって自分の意志だけでは振り回せなくなった国際協力計画」から早期に離脱し、「米国の自由裁量で効率的に実施できる計画」へ復帰しようという意味がある。
CEVは、そのために真っ先に開発しなければならないシステムだ。もしもCEVを当初予定よりも前倒しで開発を行うならば、そのための資金を捻出する必要がある。グリフィン長官が、ISS規模縮小を名言した背景には、金食い虫となった国際宇宙ステーション(ISS)とスペースシャトルを可能な限り縮小し、浮いた資金をCEVに投資しようとしているため――そう見て間違いはないだろう。

ロッキード・マーチンによるCEV設計案 (credit Lockheed Martin)
NASAは、2005年3月にCEVに関する提案要求書(RFP)を発行した。それによるとCEVは4〜6人の宇宙飛行士が搭乗可能で、打ち上げから帰還までのミッション全体で可能な限り安全であることが要求されている。NASAに提出されたCEV設計案は、ロッキード・マーチン社が、胴体そのものが再突入時に揚力を発生するリフティング・ボディ型だった。
ボーイング/ノースロップ・グラマンは設計案を公表していないが、これまでにボーイング社が公開したコンセプトスケッチでは、アポロ宇宙船と同じ三角錐形状のカプセル型を採用している。共にロケット先端に取り付けて打ち上げ、地球帰還時にはパラシュートを使用する。
両設計案とも、コンセプト段階で公表されたスケッチでは、打ち上げには「デルタ4」「アトラスV」を使うことになっていた。両ロケットは国防総省が中心となって1990年代に推進した「EELV(Evolved Expendable Launch Vehicle)」に基づいて開発された新世代のロケットだ。それまでのロケットと比べて打ち上げコストを30〜50%低減すると同時に、95%程度であった設計上の安全性を98%以上に引き上げている。
しかし、NASAは、両ロケットの安全性に満足しなかった。スペースシャトルは113回の飛行で2回の致命的事故を起こしており、実績としては「デルタ4」「アトラスV」と変わるところはない。しかし設計上は、事故確率は1/500程度とされている。
そこで浮上したのが、スペースシャトルの主要部品を利用した新ロケット構想「SDLV(Shuttle-Derived Launch Vehicles)」である。
3案を検討、実際の開発に向けて残る課題
SDLVは、3種類の形状が検討されている。日本のH-IIAロケットが高度数百kmで地球を回る地球低軌道に10トンを打ち上げるということを念頭に置くと、どれもH-IIAより遙かに大きなロケットであることが分かる。
1)インライン・ミディアムリフター:固体ロケットブースター(SRB)を第1段に使用、アポロ計画に使用した「サターンV」ロケットの第2段、第3段に使われた「J-2S」エンジンを装備した第2段を使う案だ。地球低軌道にスペースシャトルと同程度の22トンを打ち上げる能力がある。
2)サイドマウント・ヘビーリフター:スペースシャトルと同しく、2本のSRBと外部タンクを使用し、オービターの代わりに使い捨ての機体を組み合わせた案。これは地球低軌道に77トンを打ち上げる。
3)インライン・ヘビーリフター:SRBを延長して推力を増強すると共に、外部タンク下部に4基のスペースシャトル主エンジンを装備、外部タンク上部にJ-2Sエンジン使用の第2段と直径9mの巨大なペイロードフェアリングを乗せたタイプ。大まかな形状は「巨大なH-IIロケット」という印象だ。地球低軌道への打ち上げ能力は109トンある。ちなみに「サターンV」ロケットの低軌道への打ち上げ能力は約130トンだった。
これらの案は、SRB、スペースシャトル主エンジン、J-2Sエンジンと、すべて有人打ち上げのために設計され、実績もある要素を組み合わせて、短期間に大型ペイロードを打ち上げ可能なロケットを開発することを目標にしている。NASAの安全基準に照らしても、有人打ち上げも可能な巨大ロケットを短期間に作り上げようというわけだ。
しかし、これら「SDLV」3案も問題がないわけではない。もしもCEVを、SRBを第1段に使用する案で打ち上げるならば、一度点火したならばトラブルが発生しても止めることが出来ない固体ブースターに全面的に依存して有人宇宙船を打ち上げることになる。
また、スペースシャトル主エンジンは何度も再利用することを前提に非常に凝った構造を採用しており高コストだ。そのシャトル主エンジンを、果たして使い捨てにできるほどの低コストで供給できるかどうかは不明である。
さらに、第2段に使用するJ-2Sエンジンは、アポロ計画で使用されたものであって、過去30年近く使用されていない。再生産するにしても、電装品などは同じ品番が生産中止になっていることが予想され、現在入手可能な部品で代用した場合の信頼性を確認するための試験が不可欠となる。
CEVにものしかかる過去30年のロケット開発迷走のツケ
実のところ、3つのSDLV案は、それぞれ過去に米国が保有ないし検討したロケットと、ほぼ同じ役割を期待されている。インライン・ミディアムリフターは、アポロ計画初期のアポロ宇宙船のテストや、米国初の宇宙ステーション「スカイラブ」への乗組員往復に使われた「サターン1B」ロケットとほぼ等しい規模だ。
サイドマウント・ヘビーリフターは、NASAが1986年の「チャレンジャー」爆発事故の後、ISS建造のために検討した貨物専用シャトル「シャトルC」とほぼ同じコンセプトである。シャトルCは実物大モックアップの制作まで進んだが、予算削減のために開発には至らなかった。
インライン・ヘビーリフターは、アポロ計画の月着陸に使われた「サターンV」ロケットと、規模の役割もほぼ同様である。
つまりSDLV構想は、かつて米国が保有ないし保有を目指していたロケットを、既存の要素部品を組み合わせて再生する試みに他ならない。
米国は1970年代、アポロ計画で成功を収めた「サターンIB/V」ロケットを放棄してスペースシャトルの開発へ進んだ。その後、シャトル後継機の計画は、1990年頃の「シャトル2」、1990年代半ばの「ベンチャースター」と続いたが、「シャトル2」は計画のみに終わり、「ベンチャースター」は1/2の実験機「X-33」の開発にすら失敗して消滅した。もしも「サターン1B/V」の生産を続けて手堅く改良と低コスト化を継続していれば、つぎはぎの感は否めないSDLVには出番はなかったろう。
SDLVは、過去30年の米国有人宇宙輸送システム開発の迷走を体現しているのである。
◆筆者:松浦 晋也=ノンフィクション・ライター。 1962年、東京都出身。 日経BP社記者として、1988年〜1992年に宇宙開発の取材に従事。主に航空宇宙分野で執筆活動を行っている。著書に 『われらの有人宇宙船』(裳華房)、『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』(日経BP社)など、。近著に、火星探査機『のぞみ』の開発と運用を追った『恐るべき旅路』(朝日ソノラマ)、スペースシャトルの設計が抱える問題点を指摘した『スペースシャトルの落日』(エクスナレッジ)がある。
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