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私の本棚:『死体はみんな生きている』

2005年04月07日


死後の肉体がたどるドラマチックな人生!?




 私たちは普段、死後の魂について考えることはあっても、死後の肉体のことを考えることはしない。そのため自分が必ずたどりつく未来の姿、つまり“死体”についてほとんど無知だ。だがこの本によると、死体は車の運転もするし、時には軍隊にも入る、瀕死の重病人を助けることさえある。




 死者は静かに弔うべきと思っている人は眉をひそめるかもしれないが、命のない肉体を漫然と休息させるかわりに、自分の研究や仕事の助っ人として駆り出している人たちは少なくない。最大の使用者はもちろん医師だ。紀元前300年ごろ、エジプトのプトレマイオス1世が医学研究のための死体解剖を許可して以来、医学の進歩の現場には必ず死体がいて、医師を助けてきた。心臓移植の技術も、レーニンの遺体防腐処理も、彼らがいなかったらうまくいったかどうかわからない。




 医学教育の原点とも言える解剖実習には、本人や家族が提供を申し出た献体が使われる。だが需要に対して、供給は圧倒的に少ない。米国では外科の研修医ですら、献体で手術の練習をする機会はほとんどないという。




 そこで数少ないものを有効利用するため、死体はパーツに分割される。頭部は脳神経科、眼科、耳鼻咽喉科、しわとり手術をしようとしている形成外科の医師などが使い、手足や臓器は別の大学で、新しい外科手術や治療の進歩のため貴重なデータを提供する。生前に本人が意志表示をしていれば、不治と宣告された他人の体内に移植されて、第2の人生を歩むこともある。




車に乗ったり、軍隊に入ったりする死体




 なにしろ死体は文句をいわない。もちろん死も恐れない。生きている人体では絶対できないテストに使われても平気だ。米国のある工科大学では、過去60年間、フォードの座席に座った死体をいろんなスピードで壁に衝突させたり、横転させて、交通事故による人体の損傷やエアバックの効果を調べてきた。




 別の大学では、死体はビルの屋上から落下させられて骨の折れ具合を調べられ、軍隊に入った死体は地雷の上を歩かされたり、新しい銃器が開発されるたびに腹に弾丸を打ち込まれている。たいていの死体にとって、こんなドラマチックな経験は生きていた間にはなかったに違いない。




 研究用だけでなく、ビジネスでも昔から死体の需要はあった。まず目をつけたのは薬品と食品業界だ。アラビアでは、古代から蜂蜜につけた人体が秘薬として珍重された。また、あまり効かなかったようだが、16〜17世紀のヨーロッパでは人間のミイラがあざの治療薬として売られていた。食品としては1991年にロイター通信が、人肉で作った「四川風肉団子」でもうけていた中国の兄弟の記事を世界に流したことがある。




スウェーデンでは死体の堆肥(たいひ)化の試みも




 そして今、究極の死体利用ともいえる人間堆肥(たいひ)化運動が、スウェーデンで進んでいる。環境保護主義者の女性生物学者がグスタフ国王やスウェーデン教会の支持を得て、死体を液体窒素で冷凍した後、粉々にする方法で国際特許を取った。




 堆肥化することで、火葬時に出る歯の詰め物の水銀による大気汚染が防げるし、土葬用墓地の不足という問題も解決する。しかも死者を火葬するガス代が1人あたり100ドルかかるのに対し、液体窒素なら30ドルですむ。彼女は2001年に会社を設立し、最初の堆肥になる死者も準備できている。この人間を草花の栄養にするという計画は意外に早く実現するかも知れないが、自分が堆肥になるという死後はあんまり想像したいものではない。




 この本は死についての本ではない、死体の本だ。死の問題ほど深刻ではないが、誰もが気楽に扱えるテーマではない。だが著者は、「四川風肉団子」の話を確かめるために中国の海南島の葬儀場まで出向き、当然のことだが事実無根だと怒鳴られて帰ったり、マイケル・ムーアのように、死体のあるところにならどこにでも押しかけて、死体のたどるさまざまな“生き方”を探る。




 このテーマにふさわしくない言い方かもしれないが、才気あふれる筆でこの本は実に面白い。ただ臭覚が鋭敏で想像力の豊かな向きは、第3章「死後の生―人間の腐敗と防腐処理」だけは飛ばして読んだほうが賢明かも知れない。



(松田 博市)



書名:死体はみんな生きている
著者:メアリー・ローチ
訳者:殿村 直子
出版:NHK出版
税込価格:¥2100(本体:¥2000)
サイズ:四六判/349ページ
ISBN:4-14-081012-2
発行年月:2005年1月






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