L'angolo dell'intenditore 趣味の博物誌 第31回〜クラシック・カー・エンスージャスト
クラシック・カーのレストレーション(Part 2)
前回に続き、イタリアのクラシック・カーの復元(レストア)を専門とする工房をDino Dalle Carbonare氏のレポートでお届けします。(石塚朝生=翻訳)
Autofficina Omega

多くの「宝石」が格納されているAutofficina Omegaの内部
レストレーションの2回目は、Veneto地方Vicenzaの北のZaneにあるAutofficina Omegaという特別なレストレーション工房を訪ねる。
この工房には“宝石”ともいえる過去の名車たちが数多く置かれているのだが、外観からはそんな事実を測り知ることはできないほど目立たない存在だ。メイン・エントランスへ近づいても、意図的に設置されたバリアーによって、クラシック・カーが置かれている区画と普通の車が置かれている区画が隔てられており、一見すると通常のガレージのような雰囲気である。
しかしながら、クラシック・カー・エンスージャストが、このバリアーの向こうをちらっと盗み見れば、息をのむほどの車に多数お目にかかることがでいるのだ。このバリアーの向こうにある風景がもたらすインパクトは、正に筆舌に尽くしがたいものがある。
私は、平静を取り戻すために、すぐに目をそらしたが、自分の目が欺いていないかを確かめるために、1分程度、クラシック・カーを見続けざるを得なかった。自分の脳が認識したものを理解しようとしていたら、この工房、Autofficina Omega、のオーナーのCorrado Patella氏が出迎えてくれた。

1956年 Ferrari 166 Mille Miglia(シャシー番号034) (c)Dino Dalle Carbonare
カメラと取材ノートを手にした私は、Patella氏の案内でバリアーの向こうへと歩いていった。そこには、Superleggera(超軽量)のバッジを付けたTouringnoボディーをまとった1956年のFerrari 166 Mille Miglia(シャシー番号034)が鎮座していた。
Patella氏は、ボンネットを開け、栄光に輝く3連キャブレーターを持つ2リッターV12エンジンを見せてくれた。この車は定期点検のために持ち込まれていた。製造されてから52年を経過しているこのエンジンは正に名人芸と言えるものだ。

ボンネットにあるSuperleggera(超軽量)のバッジ (c)Dino Dalle Carbonare

1956年 Ferrari 166 Mille Migliaのエンジン。3連キャブレーターを持つ2リッターV12 (c)Dino Dalle Carbonare

1956年 Ferrari 166 Mille Migliaのコックピット (c)Dino Dalle Carbonare
リフトでは、1955年のFerrari 250GT Berlinettaが、ドラム・ブレーキのオーバーホールを受けていた。ドラム・シューの一部を削り落とす特殊なツールが使われていた。サイズは相当大きいが、道路上のブレーキ性能は相当悪かったであろうと想像せざるを得ない。この時代のクラシック・カーのブレーキは、まるで存在しないのも同然といった程度の性能だった。

1955年 Ferrari 250GT Berlinetta (c)Dino Dalle Carbonare

1955年 Ferrari 250GT Berlinetta ドラム・ブレーキのオーバーホールを受けていた (c)Dino Dalle Carbonare
そのすぐ後ろに、フロントのボディーだけがある裸のシャシーを見つけた。それは、30年代の典型的なAlfa Romeoであった。その車はGiulia 2500 6Cであり、Scuderia Corse Ferrariが所有していたシャシー番号256のものであった。
この車には完全なリビルドが進行中で、アルミのボディーの一部が完成していた。この車は、エンジンを含んだメカニカル部品のリビルドのためにOmegaに持ち込まれていた。1938年製のこの2.3リッター直列6気筒は最近リビルドされたなかりで、鉄製のブロックとアルミ製のヘッドとサンプを持つ。Omegaは、このエンジンに、現代のオイル・フィルターを取り付けていた。当時の車では、オイルのフィルタリングはまったく行われていなかったのだ。

Scuderia Corse Ferrariが所有していたシャシー番号256の1938年Giulia 2500 6C (c)Dino Dalle Carbonare

1938年 Giulia 2500 6Cのリビルドされたエンジン。鉄製のブロックとアルミ製のヘッドとサンプを持つ (c)Dino Dalle Carbonare
Patella氏は、次に、レーシング・バージョンのDino 206(シャシー番号018)、を見せてくれた。9400回転のレッドラインを超えて回してしまったエンジンの点検のために持ち込まれていた。
エンジン・スタンドに設置されたこのエンジンの外観を詳細に観察してみた。正にすばらしい芸術作品である。2000cc V6、3バルブ、機械式燃料噴射、ギロチン・タイプのスロットル・ボディーを持つこのエンジンは240HPを発生する。Patella氏は、このスロットル・ボディーが全開になるとすばらしい性能を発揮するが、中間の開き具合では、インレット・パイプに生成される渦によってレスポンスが悪化するということを説明してくれた。10,000回転以上回しても、ダメージが発生した兆候はなく、エンジンは再び組み立てられ始めていた。

レーシング・バージョンのDino 206(シャシー番号018) 左側の車 (c)Dino Dalle Carbonare

レーシング・バージョンのDino 206の後部 (c)Dino Dalle Carbonare

レーシング・バージョンのDino 206の2000cc V6 (c)Dino Dalle Carbonare

同上 (c)Dino Dalle Carbonare
Dino 206のエンジンの隣には、2台のV12 Ferrariエンジンがあった。50年代のTestarossa(赤い頭の意味。赤いカム・カバーを持つのでこの名称が付けられた)のもので、1台はボア73mm、もう1台はボア77mmで274のエンジンである。

50年代のFerrari Testarossa用 V12エンジン。違う車用のエンジンなのでヘッドカバーは赤くない (c)Dino Dalle Carbonare

同上 (c)Dino Dalle Carbonare

同上 (c)Dino Dalle Carbonare
Omegaのエンジン・リビルド技術は、評価が高く、ここで整備したエンジンは、Le Mansヒストリック・レースに出場しても問題を起こしたことはない、とPatella氏は説明する。
他の車を見る前に、特別の仕事を行うマシン・ショップに移動した。
Patella氏によると、Ferrariは各モデルのオリジナルの設計図とエンジンの詳細図面をOmegaに提供しており、2社のコラボレーションは100%うまく機能している。これは、Ferrariでは生産終了したモデルのスペア・パーツを長期間保管しないからだ。例えば1980年のTestarossaのスペア・パーツはすでにFerrariからは供給されない状況になっている。そのため必要な部品は自ら作るしかないのである。Ferrai以外のメーカーでも同様である。
この写真は、完成したばかりのFerrari 308のギアボックスのエンド・カバーである。

完成したばかりのFerrari 308のギアボックスのエンド・カバー (c)Dino Dalle Carbonare

308のブレーキ・ディスクの奥にエンド・カバーがはずされたギアボックスが見える。ここに上記の部品が設置される (c)Dino Dalle Carbonare
Alfa Romeo TZ給気システムや50年代のFormula Junior 1100ccのヘッドが間もなく完成する状態であった。

50年代のFormula Junior 1100ccのヘッド (c)Dino Dalle Carbonare
Ferrari DaytonaのV12エンジンのタイミング・ベルトのカバーもほぼ完成していた。カム・チェインが壊れたために、カバーを破損したため、新たに鋳造されたのだ。大多数のエンジンのクランクシャフトも製造している。
OmegaがProdrive向けに開発した特別のシリンダー・ヘッド・シールは、FIA GTチャンピオンシップに出場したFerrari 550 GTに使われた。Autofficina Omegaのような専門技量と知識がなければ、クラシック・カーのオーナーはスペア・パーツの供給元を得ることはできない。

Ferrari DaytonaのV12エンジンのタイミング・ベルトのカバー。手前が新しく鋳造したもの。奥が破損したもの (c)Dino Dalle Carbonare
翌日、再び訪問し、非常に人目を引く明るいターコイズ・ブルーに塗られたGrand Prix Talbotを発見した。このT26Cは1948年から1951年(48年のMonaco GPでデビュー)に製造された。完全にリストアされ過去の栄光を取り戻した。最後の仕上げはOmegaによる4428ccの直列6気筒エンジンのリビルドだ。
巨大な鋳造鉄のブロックを見ると、このエンジンのストロークの長さに驚いてしまう。このため5000回転までしか回せない。出力は280HPである。このGPカーのディテールには驚くべきものがるが、それは文章ではなく写真にまかせることにする。

Talbot Grand Prix T26C (c)Dino Dalle Carbonare

非常に特徴的なTalbotのフロント (c)Dino Dalle Carbonare

Talbotのインパネ (c)Dino Dalle Carbonare

リビルドを待つTalbotの直列6気筒エンジン (c)Dino Dalle Carbonare
私の目を奪った車は、Ferrari 166MMの隣にあった。やや暗めのFerrari Redの塗装を施されたこのFerrari 375 Mille Migliaは、現存する2台のうちの1台である。1954年にPininfarinaがデザインしたもので、速度とパワーのために、贅沢な装備や快適さを諦めた一切の無駄をそぎ落としたレーシング・カーである。この車のオーナー英国の著名人だそうだ。
きついカーブで形付けられた375のリアーは、当時考えられていた空力デザインの代表的なものである。エンジンは、輝かしい4523cc V12で300HP以上を発生する。ボンネット中央にある空気取入れ口はラム・エアー効果を発生し、キャブレターに空気を強制的に供給する。何日も、この車に座っていても飽きることはないだろう。

1954年 Ferrari 375 Mille Miglia 現存する2台のうちの1台 (c)Dino Dalle Carbonare

1954年 Ferrari 375 Mille Miglia ボンネットに開けられた巨大なエアーインテイク。ラム・エアー効果を発生し、キャブレターに空気を強制的に供給する (c)Dino Dalle Carbonare

1954年 Ferrari 375 Mille Miglia サイド・ビュー (c)Dino Dalle Carbonare

1954年 Ferrari 375 Mille Miglia 4523cc V12で300HP以上を発生する (c)Dino Dalle Carbonare

1954年 Ferrari 375 Mille Miglia リア・ビュー (c)Dino Dalle Carbonare

1954年 Ferrari 375 Mille Miglia 速度とパワーのために、贅沢な装備や快適さを諦めた一切の無駄をそぎ落としたレーシング・カー (c)Dino Dalle Carbonare
もう1台の私の好きな車は、黒いFerrari 250GT SWB(Short Wheelbase Berlinetta)である。この車も一切の無駄を取り去ったレーシング・カーで、Enzo Ferrariのお気に入りのひとつだった。Enzo自身もMaranelloの周辺で自分のパーソナル・カーとして何年も運転した車だ。

Ferrari 250GT SWB
もう1つの宝石は、1968年から72年まで製造された黄色いFerrari 365GTB/4 Daytonaだ。最高速280km/hを誇ったDaytonaは当時、世界最速の量産車であった。

Ferrari 365GTB/4 Daytona 黄色い車 (c)Dino Dalle Carbonare
クリーンでシンプルなラインを持つ275GTBが、工房の中央に置かれており、最もすばらしい250GTOとの神秘的な類似点と、その美しさを賞賛せざるを得なかった。

Ferrari 275GTB (c)Dino Dalle Carbonare
Autofficina Omegaへの訪問は、エンジン、ドライブトレイン、チャシー部品などのパーツ倉庫を手早く見ることで終わった。貴重な時間を割いて工房を案内していただいたPatella氏に感謝したい。
■Autofficina Omega s.n.c. の連絡先
Via Summano 45, 36010 ZanE, (Vicenza) Italy
Tel:+39-045-319-700 Fax:+39-045-315-349
■「L'angolo dell'intenditore 趣味の博物誌」の過去記事一覧はこちら
■著者:Dino Dalle Carbonare (ディーノ・ダーレ・カルボナーレ)
日本で活躍中のモータリング・ジャーナリスト。北イタリアのVicenza出身。3歳の時に父親がヒル・クライム・レースやラリーに連れて行き、その時以来車に興味を持った。日本には1993年から住んでいて、日本製の車、特にスカイライン GT-Rが好きである。クラシック・カーやエンジンと車輪が付いたものは何でも好きだそうだ。
■その他のコラムはこちら
過去アーカイブ 最新記事 画面先頭に戻る
- 「今までにないタイプのSQLインジェクション」、ゴルフダイジェストへの不正アクセス (17:28)
- 4月改編の反動か!秋の新バラエティで同時多発的に起った異変 (17:26)
- BMWJ、最新ナビと新iDriveを全モデル標準装備した「ニュー BMW 3シリーズ」 (17:26)
- TGS2008特報:今年のスクエニブースは、マイクロソフトブースとの連携に注目 (17:24)
- 本気で持ち歩く人のためのミニノート「FMV-BIBLO LOOX U/B50」 (17:24)
- TGS2008特報:FF20年の集大成、『ディシディア ファイナルファンタジー』 (17:23)
- TGS2008特報:女性からマニアまで楽しめる『シドとチョコボの…』ほか (17:23)
- トマム「山頂駅の雲海」事件 第1幕 (17:07)
- 松本引越センターが破産手続きへ、事業継続を断念 (15:47)
- 森永卓郎:今まさに瓦解する市場原理主義 (15:35)

