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“売る”という職人芸を社員と顧客に捧げる ジャパネットたかた社長 高田明〜その1

2005年3月24日

ジャパネットたかた社長 高田 明。通販番組に自ら登場し、年商700億円を稼ぎ出す。だが、成り上がりの欲望は微塵も感じさせない。



誰をも惹き付ける熱のこもった語り口上は社員、そして顧客の明日のために捧げられる。





2004年の春、ジャパネットたかたは企業の根幹を揺るがされるような大事件に遭遇した。約51万人分もの顧客情報が流出し、名簿業者に売られていたのである。同社はこの事件で50日間にわたってテレビ・ラジオの通販番組を自粛し、その影響は約150億円もの減収につながった。



事件が発覚した時、社長、高田明の妻で同社の副社長も務める恵子は、激しく動揺した。



「一体、誰がこんなことしたの?」――。



だが、高田は言葉少なに、「これからどうするかを考えるのが先決だ」と語るだけだった。



3カ月後、同社の元社員2人が逮捕された。ダイレクトメールの担当だった彼らが現役社員だった頃、名簿を光磁気ディスクにコピーし、外部に持ち出していたのである。



半年後、逮捕された元社員らの公判が始まった。夫婦が「事件を見届けたい」と足を運んだ法廷で、元社員は情報流出への関与を否認した。閉廷後、報道陣に囲まれ、高田はぽつりと語った。



「本当のことを言っていないですよね……」



この事件を振り返る時、高田は今も悔しさで胸が一杯になる。そして5年前のある出来事を思い出す。



その元社員の一人が、99年に退職した時のことだ。朗らかで、笑顔を絶やさない青年だった。彼は退職に当たって、「社長にぜひ色紙を書いてほしいんです。一生の記念にします」とせがんだ。日頃はめったにサインや色紙には応じない高田だが、その時だけは自らこう書いて渡した。



「人は人のために生きてこそ人」



人のために――その言葉には、高田の人生が凝縮されている。恵子は、「これほどまでに人に裏切られたのは、私達にとって初めての経験でした」と胸の内を明かした。



番組制作に妥協は無い



JR佐世保線早岐(はいき)駅から小さな商店街を抜けると、すぐに道は早岐瀬戸の細い海に沿って走り始める。両側には山が迫り、奥の深い自然の中へと吸い込まれていく。やがて道は海から離れ、高台へと駆け上がる。そして、突如として道は開け、明るい日宇(ひう)の街が姿を表す。遠く、明るいグレーの建物が陽射しを浴びている。ジャパネットたかたの本社である。



ジャパネットたかた社長 高田 明氏



中では、約300人の社員が働いている。ビルの7階には立派な社長室が用意されているが、高田はほとんど利用しない。社員のいる3階フロアの一角に机を置いて陣取り、オフィスの中を常に歩き回る。



「子供はどうしてる?」「風邪は治ったか?」――高田は社員達に話し掛けては倦(う)むことがない。



テレビ制作部チーフの中島一成は、言う。



「入社して間もない頃、遅くまで残業していたら、遠くから『どうだあ?』と声を掛け、ミカンをバンバン社員達に投げながら歩いてくる人がいた。それが高田社長だったんです」



社員と共にいる時の高田はオフィスの光景に溶け込み、強烈な存在感はない。お馴染みの甲高い長崎弁はテレビの時だけで、日頃の声は低く穏やかだ。



毎週火曜日には、本社から車で数分の自社スタジオに入る。



取材で訪れた日、収録していたのはマイク型のパーソナルカラオケだった。音程の採点機能が付いたこの製品の紹介を、高田は何度も撮り直す。牧村三枝子の「みちづれ」を自ら歌ってみせるのだが、上手過ぎる高田は音程が外れず、機能をうまくアピールできない。一つのテイクが終わる度に高田は顔をしかめ、最終的に10回近くも撮り直した。



見ていて気付くのは、高田が決して映像としての完成度を求めているのではないということだ。完璧と見えたテイクでも、高田からダメ出しがある。逆に途中、言葉に詰まったり、言い間違いをしても気にしないこともある。不思議に思って尋ねると、こんな答が返ってきた。



「要は視聴者へのメッセージの伝わり方なんです。カメラワークで商品にズームで寄っていった時の速さを例に挙げれば、1秒、2秒の差でイメージが全然違ってくる。その微妙な部分を変えていくことで、売り上げが3倍に跳ね上がったりするんです」



高田が求めるメッセージの伝わり方の完璧性は、本人にしか理解できない“職人技”だ。



テレビ制作部リーダーの塚本慎太郎はこう話す。



「高田社長は時にはわざと訛ったり、言葉を間違えている時もあるのではないかと思う。それが地なのか演技なのか、いまだに分からない」



収録の途中、高田はあの甲高い特徴的な声でハイテンションに語り続ける。スタジオの中で、そこだけが熱を帯びている。だが、撮影が終わると、高田の存在感はすっと薄れ、穏やかになる。その変わりようは鮮やかだ。



普段の穏やかな経営者の顔、収録中の職人然とした姿、画面から伝わるどこか土着的なイメージ。高田の内面を形作る重層構造は、どのようにして形成されたのだろうか――。



番組はすべて自社スタッフの手によって制作される。高田が納得いくまで何回も撮り直す


その2/その3


取材・文◎佐々木俊尚
写真◎的野弘路


※この記事は日経ベンチャー2005年1月号に掲載されたものです。その時点での取材内容となります。


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