中国調査業界裏話 第7回〜日系企業が語る「中国のニセモノに立ち向かうワケ」
連載の第6回で中国での知的財産権侵害について取り上げたところ好評でしたので、今回は更に一歩踏み込んで、ニセモノ対策に取り組む企業の考え方、中国政府の考え方、各企業の対応について書こうと思います。
ニセモノ対策が必要な3つの理由
第6回では、ニセモノの取り締まりがいたちごっこの様相を呈していることや、市場がニセモノを欲しているという面もあることに触れました。しかし、改めて考えてみると「いたちごっこであるならば、対策をとっても無駄ではないか」とか「市場が成熟するのを待った方が得策なのでは」とも(私の素人考えではありますが)思ってしまいます。そこで、当社のクライアントである日系メーカー数社の知財部門の方を訪問した折に、素直に聞いてみました。「なぜ企業はニセモノ対策を行うのか?」と。
各メーカーの知財担当者が語る、ニセモノ対策を行う理由は、大きく3つありました。すなわち、(1)市場機会を失わないようにする、(2)ニセモノに起因するPL(product liability=製造物責任)問題で企業イメージが低下するのを防ぐ、(3)ニセモノに対し断固として戦う姿勢を示し、ニセモノ製造者をけん制する、というものです。
まずは第1の「市場機会を失わないため」についてです。多くの外国企業は中国市場において、ニセモノの出現に苦慮しているという背景があります。中国では地元資本のメーカーが外国メーカーの製品をそっくりそのまま真似たものを作ることが多々あるのです。そうした製品のほとんどは、真正品より安く販売されています。
日本にある部品メーカーA社は、同じく日本にある機器メーカーB社に対し、自社製の部品を納品しています。日本国内では、A社とB社は長年の取引関係にあるわけです。日本で取引があるから中国でも…となりそうですが、中国市場においてA社はB社と取引できずにいます。中国の現地メーカーC社がA社の製品をそっくり真似た製品を製造し、B社の中国法人はこのC社の部品を購入しているためです。中国では製品の価格競争が激しく、メーカーは競って低価格で部品を仕入れようとしています。このため、このような事件が発生するのだと思います。
賠償は回避できても、ブランドは傷つく
次に2番目の「ニセモノのPL問題発生により企業イメージが低下するのを防ぐため」についてです。少々古い例ですが、2001年ころに話題となった三菱自動車の「パジェロ」にまつわる事件を取り上げます。中国でパジェロを運転していた方が、車両の欠陥に起因する事故に遭いました。この方は事故の後遺症で身体に障害が残り、「車両の品質の問題が重大事故を引き起こした」として、三菱自動車を相手取り訴訟を起こしました。
被告が日系企業ということもあり、中国の報道機関はこの訴訟を大きく取り上げました。ところがその後、事故を起こした車両は「部品を輸入して勝手に中国で組み立てられたニセモノ」であることが判明しました。それ以来、この問題が報道で取り上げられることはなくなっています。
ニセモノ製品にPL問題が発生した場合、その製品がニセモノであるということが証明できれば、真正品のメーカーが直接的な責任を負う必要はありません。しかしこのケースの場合、ニセモノだということが判明する前の段階で、大きく品質問題が取り上げられています。結果的に責任を回避できたといっても、それまでに会社が受けたブランドへの打撃は、完全には回復できません。
このケースはたまたま訴訟になった例ですが、訴えられなければ良いかというと、そうでもありません。ニセモノ製品に品質上の欠陥があって、それが真正品と誤認されていたならば、真正品のブランドに対する評判が落ちることが十分考えられます。それゆえ自社のブランド価値を守るため、ニセモノ対策は必須であると考える企業は多いようです。
そして3番目の「ニセモノに対し断固として戦う姿勢を示すため」についてです。現在のところ、外資系企業の製品のニセモノに対する取り締まりは、その製品のメーカー自らのアピールにより始まることがほとんどです。真正品メーカー自らがニセモノを発見し、ニセモノの存在と取り締まりの必要性を政府の関係部門に報告し、それにより初めて中国政府が取り締まりに動くというプロセスを経ています。
ある企業の知財担当者は「ニセモノ対策は、確かにいたちごっこの部分もある。しかし何もやらないよりは、ずっとましだ」と語っていました。裏を返せば、「企業が自ら対策に動かない限り、ニセモノは完全に野放しの状態にあり、いたちごっこすら始まらない」ということ、「たとえいたちごっこであっても、取り締まりを繰り返すことによって、少しずつ効果が上がってきている」ということを示すものといえます。いくつかの企業では、「ニセモノに対し断固として戦う姿勢を示すため」、更に積極的に裁判を起こしたり、新聞などに反ニセモノを訴える広告を載せるなどの試みをしています。
「健康を損なわない、社会に害を与えないニセモノ」は後回し?
それなら、中国政府は何をやっているんだ、と思われる読者の方もおられることでしょう。北京に進出している日系企業で組織する中国日本商会(在中国日本商工会議所)の知的財産問題グループ(IPG)は2002年に、中国政府部門のニセモノ取り締まり部門の方を招き、会合を開きました。私もこの会合に出席していたのですが、その際に中国政府の担当者の方が話していたことが、今でも印象に残っています。
「現状として、中国にはニセモノがあふれている。消費者の健康を損ない、社会に害を与えるような深刻なニセモノ事件も発生しており、まずはこうした事件を第一に取り締まらなければならない。今まではこれら対応で手一杯だったが、今後は外資企業からの要請を受けたこともあり、外資の知財保護にも力を入れていく――」。
当時のニセモノをめぐる状況と中国政府の考え方は、この言葉に如実に表れていると私は考えています。つまり、日系企業の製品にまつわるニセモノの多くは、最近まで「消費者の健康を損ない、社会に害を与える」ことがないニセモノに分類され、放置されてきたという一面があったのではないでしょうか。中国では今もニセモノがあふれています。取り締まりを担当する政府部門の人数も不足しているのが現状です。あくまで私見ですが、そうした状況下では深刻な事件に的を絞って取り締まるのも致し方がないかも知れません。
実演テストで強力にアピールする企業も
中国政府が重点的に取り締まるニセモノには、ほかに「中国の国益に関わるニセモノ」があるとの見方もあります。2005年2月末には、ニセモノのたばこに対する中国政府の徹底的な取り締まりが報道されました。昔の日本と同様、中国においてたばこは国家の専売品として指定されています。
とはいえ中国政府も、日系企業から要請があればニセモノ取り締まりのために行動を起こしてくれます。ニセモノ市場の取り壊しや、ニセブランド製品の一斉取り締まりといったパフォーマンスを積極的に報道することで、社会の反ニセモノ意識を高めるよう努力しています。こうした点は評価すべきだとも思います。
多くの企業にとって、ニセモノ対策を進めるには中国政府の協力が必要不可欠です。そこで、ニセモノ対策に積極的な一部の外資系企業は、中国政府の協力を得るべく積極的なアピールをしています。中国政府の担当者を会社に招き、目の前でニセモノと真正品に対する商品テストを行うのです。
例えばタイヤや自動車部品などは、ニセモノと真正品では安全性に歴然とした差が現れます。品質の違いを明確に示すことで、政府部門に取り締まりの必要性を理解してもらうのです。製品の輸出入を監視する税関職員を招き、本物とニセモノの判別方法を紹介することで、ニセモノが中国から外国に拡散するのを未然に防ごうとする企業もあります。現在の中国政府が「消費者の健康を害し、社会に害を与えるニセモノ」に対し一番神経を尖らせていることに注目した例といえます。
ニセモノに値下げで対抗する真正品もあるが…
中国で安全に自社製品を販売するには、ニセモノ対策が不可欠です。そしてニセモノ対策を行うには、中国政府の協力を得て取り締まりや宣伝活動を行うのが、今のところ最も現実的な対応だと思います。政府の力を頼りにせず、自力で解決を試みる企業もありますが、成否はまちまちです。
日本の機械メーカーD社では、かつて中国企業E社に大型機械を販売しましたが、E社が2台目の機械として、D社の機械をそっくり真似た機械を使用しているのに気付きました。D社はE社に対する特許訴訟を検討しましたが、提訴した場合の時間と費用を考え断念しました。
代わりにD社は、中国企業へ機械を販売する際に別の方法を選択するようになりました。すなわち、機械のみを単独で売ることをやめ、大型機械を使用するプロジェクトに投資という形で参入するのです。これにより、機械のメンテナンスを含めた管理に積極的に関与して、機械の納入先が模倣品の製造に手を貸すのを防ごうとする取り組みです。
ニセモノ問題に正面から取り組んでいる例として、映像ソフト業界や音楽業界があります。中国では5元(1元=約12.5円)程度の海賊版DVDやCDが、繁華街の片隅やバスロータリー、露天などで売られています。正規盤のDVD、CDの定価は60元程度であり、海賊盤の安さは圧倒的でした。これが大量に出回ったため、正規盤がほとんど売れなくなってしまいました。
海賊盤のDVDやCDは、典型的な「健康や社会に害を及ぼしにくいニセモノ」です。中国政府は時折、海賊盤に対する取り締まりを行っていますが、撲滅には至っておりません。海賊盤の量があまりに多いのと、取り締まり自体パフォーマンス的な要素が強いためです。しかしレコード会社も最近、中国政府などの手を借りずに自社でニセモノ対策に取り組み始めました。正規盤の価格を引き下げ、5元〜15元と海賊盤の価格帯に近付けたのです。
加えてレコード会社は歌手と共同で、年に何度か海賊版撲滅のためのチャリティ・コンサートを開催しています。こうした取り組みが継続され、ニュースや新聞などで報道されています。その効果でしょうか、「値段がそれほど変わらないならば、アーティストを支持することに繋がる正規盤の方がいい」と考える消費者が出始めています。海賊盤は今も広く出回っていますが、少なくとも「海賊盤が市場を席巻」という状態は改善されつつあるようです。
ただこれについて、他の業界にも積極的に勧めるわけにはいきません。採算を度外視して正規盤を値下げするというリスクを負う上、必ず効果が上がるという保証はないため、危険な賭けになる側面があるからです。映像ソフト業界や音楽業界の場合は、海賊盤の品質が現在では正規盤とほとんど変わらなくなっているため、自らの事業モデルを損ねるリスクを承知で、こうした賭けに出ざるを得なかったというのが本音だと思います。
映像や音楽に比較的近いと思われるパソコン・ソフトの分野で苦戦している例もあります。米Microsoftの中国法人は、あふれるソフトウエアの海賊盤に対抗するため、正規盤の販売価格を半値程度に引き下げました。しかし今のところ、同社が予想したほどの効果は上がっていないようです。従来「Windows 2000」の正規盤は2000元前後でした。値下げを断行し、半値の1000元前後で販売したのですが、海賊盤は10元程度。両者の価格には依然として大きな格差があり、消費者はやはり海賊盤を選んでしまうのです。
連想集団公司など中国の大手パソコン・メーカーが販売するパソコンの中には、敢えてWindowsをプリインストールしない製品もあります。海賊盤のソフトが当たり前になっている中、正規盤のWindowsを添付すると、ユーザーに割高感を与えてしまい、商品の人気がなくなってしまうためと言われています。
ニセモノ対策については、中国政府の力を借りる、自らニセモノや模倣品が出回らないように措置をするなど、様々な方法があります。多くの企業はニセモノ対策に苦心しながらも対策を継続して行うよう努力しています。その結果、少しずつとはいえ効果が現れていることが、各社の取り組みから実感できるようになっています。
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■原奈緒氏のプロフィール
北京衆邦創業投資顧問事務所日本企業担当。慶応義塾大学文学研究科修士課程終了後、食品会社中国駐在員、弁護士事務所翻訳兼秘書を経て現職。2004年10月中国永住権(グリーンカード)取得。永住権取得は北京の日本人として3人目。
■北京衆邦創業投資顧問事務所(http://www.cyswgw.com.cn/)
中国国家統計局認可の渉外社会調査資格を持つ中国の調査専門会社。主に企業信用調査、産業別調査、個別調査を行う。
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