現代リスクの基礎知識 第78回〜ドン・キホーテ放火事件
(林 志行=国際戦略デザイン研究所)
冒頭、ちょっと早いが、年末年始のご挨拶をさせていただく。本コラムも連載開始から2年弱、78回目を数えた。まだまだ、「これぞ」というスタイルを確立しているわけではないが、皆さんからの声援にこたえる形で、コミュニティの形成を目指し、リスクマネジメントに関する議論を共に深めていきたいと考えている。
年内は今回でひとまず終了とし、年始は1月13日(木曜日)からの再開を予定している。リスクマネジメントに関する突発的な事象が発生した場合には、筆者の個人ブログ「e戦略の視点2」にて適時取り上げる予定だ。なお、気がついた点などは他のカテゴリーとともに、ブログに随時書き込みをしているので、ご確認いただければ幸いである。
●ドン・キホーテ放火事件
今回は、ドン・キホーテ放火事件を取り上げる。実に痛ましい事件であり、顧客誘導に全力を尽くされ、会社ならびに店舗を守ろうとの一心で犠牲になられた方々のご冥福をお祈りする。
筆者が注目し、トレースするリスクケースの一つが、ある「キーワード」によって、そのリスクが波及し、拡散する事例である。
本来は被害者のはずだったのに、別のキーワードでは加害者として見られる。傍観していた同業他社や類似するビジネスモデルを有する企業は、同じリスクを持ち合わせており、いずれ顕在化するかもしれない。そうした目線で事件・事故を検証することが重要だ。
・背景
ドン・キホーテ。「激安の殿堂」を看板に、首都圏を中心に全国に約100店舗を構え、2000年には東証第一部上場を果たしている。年間売り上げは1900億円。最近では、テレビ電話を通じた医薬品販売などで注目を集め、いわば、規制改革の騎士、ドン・キホーテでもあった。
店舗内をジャングル探検に見立てた購買スタイルが若い顧客層を中心に受け大きく飛躍。その商品ディスプレイ方法は「圧縮陳列」と呼ばれ、格安製品の仕入れ方式とともに、マスメディアで大きく取り上げられてきた。
一方、深夜営業を巡り近隣住民との間で出店トラブルは絶えず、営業時間の短縮に応じたり、消防法違反などで過去に指導を受けたりもしている。
今回、12月13日夜に起きた事件については、短い時間内に2店舗で火の手が上がるなど、発生当初から放火という認識がなされていた。その後、15日午後に起きた火事では、別の容疑で逮捕された人物が事件に関係している可能性があるとされている。現場からは、ガソリンや灯油を染み込ませたティッシュやタオルなどが見つかり、出火原因は放火との見方が支配的だ。
一連の事件では、放火という卑劣な行為によって従業員3人が犠牲となり、本来は被害者として同情される立場にある現場ならびに経営者が、記者会見での文言を巡り、メディアと対立している。監督官庁からは、消防法や建築基準法違反などを指摘されて、ドン・キホーテの株価は一時急落した。
今後同社の売りであった「ビジネスモデル」を変更するのか、経営トップがいつの時点で体制を建て直し、そして責任を取るのか。いろいろな角度からの検証が必要となる。
・注目ポイント
(1)初期対応
ドン・キホーテでは、12月13日の放火事件発生後、翌14日には、「事故対策本部の編成」、「臨時休業による自主点検(14日午前中に全店一斉実施)」、「記者会見(14日夕刻)」がセッティングされ、事後の初期段階での迅速な対応が際立った。
ところが、記者会見で、安田社長が、「安全体制の確立、被害者についての対応を済ませた後、私なりの責任をとる」と説明したため、翌15日、一部メディアが辞任表明と報じた。ドン・キホーテは、「お詫び(15日付)」とは別に16日にはIR情報として、株主、投資家、市場関係者各位に向けた「連続放火事件を受けての今後の対応について」を発表した。
要点は四つ。「現時点での社長辞任はない」、「圧縮陳列のコンセプトを変えることはない」、「避難通路は従来から法定基準以上の幅員を確保している」、「延べ床面積2000平方メートル以上の店舗について、今期中(つまりは2005年6月まで)にスプリンクラーを設置する」とある。誤解を受けたくない部分については下線を引き、意志を表明している。
この発表を受け、マスメディアはさらに「圧縮陳列、見直さない(朝日新聞)」、「圧縮陳列を一部見直し(読売新聞)」と報道。表現が微妙にずれている。
(2)社長反論
一連のメディアとのあつれきから、12月17日に「弊社店舗の連続放火事件報道に関して」と題する、メディアバッシングへの社長反論を発表した。
「亡くなった3人は、顧客の避難誘導後に再突入して犠牲になったこと」、「防災に関しては、消防局の指導を仰ぎ作成した厳格なマニュアルに基づいていること」、「11月16日には、(犠牲者の出た)浦和花月店でも消防訓練を実施していること」、「事件発生当時は25人前後ではなく、100人以上の客がいたこと」、「冷静沈着に行動し、多数の顧客の安全を確保した従業員を誇りに思うこと」、「従業員3人は殉職であり、責任は経営者(署名している安田社長本人)にあること」。
こうしたことを冒頭で述べた上で、さらに反論は続く。「これは殺人事件であり、ドン・キホーテは直接的被害者であること」、「事件の本質への言及がなされず、圧縮陳列やジャングル売場が火災の遠因であるかのような報道は甚だ心外であるということ」。「過去の店舗出店に対する住民反対運動や放火とはまったく関係ない公取委立入調査の件(*注)などを蒸し返し、バッシングされていること」、「命がけで顧客の安全確保に徹した従業員の気持ちは報われないこと」。
*注:公取委立入検査の件とは、ドン・キホーテが納入業者に従業員の派遣や協賛金の支払いを強要していた疑いが強まったとして、11月5日に、公正取引委員会が、独占禁止法違反(不公正な取引方法)の疑いで東京都江戸川区の同社本社と首都圏の店舗など計数カ所を立ち入り検査したことを指す。
社長は、まるで「人民裁判」のような報道と批判した。
(3)過去の経緯
そうした一連の経緯でどうしても気になるのは、以前にも放火などが起きていることだ。
横浜市の「新横浜店」では2000年4月に連続不審火が発生した。最初に1階のワイシャツ売場で出火。10日後には同じく1階の女性肌着売場にあるTシャツ約30枚が焼けている。
埼玉県内では2002年10月、「蕨店」で午前2時過ぎに火災が発生している。店内奥にある衣料品コーナーで火が出て、シャツや下着50点などが燃えた。
東京都内では、2003年2月から2004年3月にかけて計7件の不審火が起きている。東京消防庁によると、不審火があったのは、京王堀之内店(八王子市)、練馬店(練馬区)、渋谷店(渋谷区)など7店。いずれも、陳列された商品や段ボール箱などが燃えたボヤで、火の気のないところから出火していた。
今回、火災現場となった浦和花月店は2004年6月、さいたま市消防局の立ち入り調査で、避難路の幅を確保するよう改善指導を受けており、指導に従って同月中に改善計画を提出し、9月には改善報告を出していた。
(4)混乱する従業員
避難誘導した従業員の一人は、「煙に巻かれ、商品がうずたかく積まれた店内には客の悲鳴や怒号が響き、自分もパニック状態だった」と話している。
3人の犠牲者以外に8人の負傷者が同時に出ているのも事実だ(「消防庁・災害情報」に、「ドンキホーテ浦和花月店火災の概要(第8報)04年12月21日10時00分現在」(PDF)」)。
亡くなった社員3人のうち2人は、ブランド品コーナーを担当。客が避難した後に、消火活動などで再び火元に近づき犠牲になった。
もう一つは、事後対応する中で、さいたま市消防局主催の記者会見に身分を隠して出席した社員がいたことが会見後に発覚した。メモした内容は市職員の求めに応じて提出、録音内容も消去した。社員独自の判断で行ったこととして、事態は収束している。
(5)キーワード連鎖
「放火」が一つのキーワードとなって、模倣犯が登場している。13日以降、さいたま市では浦和区や大宮区のスーパーの女子トイレで不審火が3件相次いでいる
ドン・キホーテで放火事件が起きた13日夜、「北浦和サティ」(浦和区常盤)では1階と2階それぞれの女子トイレで、ボヤがあった。さらに15日午後6時50分ごろには、同じ店舗の1階の女子トイレで、トイレットペーパーを丸めたようなものが燃えているのを客が見つけ、同店の薬剤師が消し止めた。この店は同じ日、放火事件があったドン・キホーテ大宮大和田店から約5.5キロの距離にある。
また、15日午後5時45分ごろ、「イトーヨーカドー大宮店」(大宮区吉敷町)の1階女子トイレ付近の火災報知機が鳴り、丸められたトイレットペーパーが燃えているのを店員が発見、水をかけて消し止めた。
このほか、16日午後5時半ごろ、「ドン・キホーテ千葉中央店」(千葉市中央区)のトイレでも「トイレットペーパーが燃えている」との119番通報があった。
こうしたことを受け、近隣の大手スーパーなどでは、模倣犯、愉快犯の防止を目的とした訓練、巡回を強化している。
・リスクマネジメント上の評価
(1)行政の監視と規制の強化
今回のケースでは、総務省消防庁が14日、消防法の観点から、全国の量販店について立ち入り検査を求めた。もちろん過去の違反の改善確認なども視野に入れている。これまでの措置が場当たり的なものに終わっていないか、店側の対応の可否が問われてこよう。
国土交通省も16日、建築基準法の立場から、都道府県の出先機関、各市に対し、ドン・キホーテと系列店への立ち入り検査を要請した。埼玉県では、全焼した浦和花月店以外の系列7店舗を対象に立ち入り検査を行った結果、すべての店舗で排煙などの不備が見つかっている。
経済産業省は、深夜営業を行う大規模小売店に対する騒音対策や防犯対策の強化を大規模小売店舗立地法の指針に盛り込む予定にしている。最近増えている24時間営業のスーパーなどが、周辺の住環境を乱さないようにすることが狙いとみられる。
これらとは別に、総務省消防庁と警視庁が17日に、今井総務副大臣を本部長とする「警察・消防放火等治安対策連携本部」を設け、初会合を開いている。単独の事件のために連携本部を設置することは珍しいようだが、事態を重く見ていることの表れであり、顕在化する社会不安を、初期段階で抑える役割が期待される。
(2)企業の社会的責任(CSR)
さて、そうした行政の出動により、今後、該当企業が取ることのできる行動は限られてくる。従来からリスクマネジメント上重要と指摘している予防措置は、事件の拡大やリスクの拡散を未然に防ぐために普段(平常時)から取っている企業行動、あるいは対策を万全にしていることを示す書類ないし行動記録を残すことである。これは、発生直後の迅速な対応と同様に重要なことである。
また、今回の場合、社長がマスメディアに反論する形でコメントを発表しなければならないことこそが、同社の抱える根本的なビジネスリスクであるという認識が必要になってくる。実は、過去の地域住民とのあつれきの有無、法令違反などの再発件数、再発防止への改善策などがマスメディアに監視され、暴かれ、やがては行政を突き動かす。それが筆者が一貫して主張するリスクマネジメントとして抑えるべき部分であるといえる。
もうかればよいというビジネスモデルがそろそろ後退し、過度の規制緩和への反発、地域コンセンサスの醸成などが求められる時代が到来している。
こうした企業の社会的責任(CSR)ともいえる一連の部分が、90年代以降、企業に強く問われている。あわせてインターネットの飛躍的進化と普及により、CSRの比重がますます大きくなっていることに留意すべきなのである。
・関連リンク集
(1)インターネットIR
インターネットIRでは、ドン・キホーテの「プレスリリース」にて、「『社長辞任表明』報道について(04.12.15)」、「連続放火事件を受けての今後の対応について(04.12.16)」、「連続放火事件をふまえた当社業績予想に係るお知らせ(04.12.16)」を掲載。
(2)違反是正支援センター
「一般の方々へ」において、「知っておきたい暫定適マーク制度」、「自主点検報告表示制度」、「ビル火災!もしもの時に備えましょう」、「こんなビルは危ない!防災注意力テスト」を掲載。
(3)日本防炎協会
一般向けコンテンツを2004年11月15日に公開。
・東京消防庁
「火災予防上の命令を受けている対象物一覧表」を公表(PDFファイル)
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