大企業には就職したくなかった〜ソフトブレーン会長 宋 文洲 氏(その1)
(三浦 優子=フリーライター)
営業支援ソフトなどを販売するソフトブレーン会長の宋文洲氏。最近は、経営者としての仕事に加え、著述業でも活躍。「ニッポン型上司が会社を滅ぼす!」(サンマーク出版)や「やっぱり変だよ日本の営業」(日経BP企画)などの著作をものし、好評を博している。著書を基にした講演では、従来型の日本の経営、従業員の業務スタイルに異議を唱え、大きな注目を集めている。
国費留学生として中国から日本にやってきた宋氏にとって、日本は、勉学を修め、いずれ後にする場所のはずだった。しかし、実際はそうならなかった。中国で天安門事件が起こり、帰れなくなってしまったからだ。日本で働くことになった宋氏は、「大企業には就職したくない」と考えた。なぜ、宋氏は大企業に就職したくなかったのだろうか。
どうしようもない変化が起こると何かに頼らなくなる
−−宋さんは、中国の国費留学生として1985年に日本に来たんですね。
宋 そうです。自分の意志ではなく、国から自動的に行き先を決められた。僕の場合は、北海道大学の大学院に行くと決められていたので、日本にやってきました。
−−現在は日本で、ソフトブレーンという会社の代表取締役会長として、事業をされています。しかし、日本以外の国に留学していたら、全然違う状況になっていたかもしれませんね。
宋 そうですね。しかし、それは想像することしかできません。
−−初めて来た国、日本はどうでしたか? 最初から、本で書いているように、「おかしい!」と思っていたんでしょうか。
宋 おかしいと思いましたよ。最初から違和感がありました。「なんでこんなに平和なんだろう?」と思っていました。

ソフトブレーン会長 宋文洲氏
例えば、同級生と話すと、「自分は大企業にしか就職したくない」と言うんです。「小さい会社に就職して、倒産したらどうするんだ」と。
「一生会社に使われて、サラリーマンとして生きていくので満足なのか?」と尋ねても、それでいいと答える。「危ないことなんかしたくない。一生安定しているところがいい」って言うんですから。30代、40代の人ならともかく、20代前半の若者がですよ!
なぜ、日本人はそんなに安定志向なのか。「日本人だから」とか、人種による根本的な違いではないと思います。それよりも、大きな変化を経験したかどうかに違いがあるのではないでしょうか? 私が生まれ育った中国は、動乱の国で変化が激しい。最近起こった大きな変化だけでも、天安門事件、文化大革命などがあります。いっぽう、日本は第二次世界大戦が終わって以降、それほど大きな変化を体験していない。
大きな変化を体験した人間は、「どんな状況でも変化は起こり得る」と嫌でも認識せざるを得ない。どれだけリスクヘッジを考えていたとしても、自分では防ぎようのない事態が起こり得るんです。私だって、「天安門事件」という思ってもみなかった変化が起こったために、留学が終わっても中国へ帰ることができなくなってしまったんですから。
日本人はそういう経験がないから、「自分はずっと変わらないままやっていけるんだ」と思いこんでしまっている。
自分で生きる力を持つ自立こそ本当の安心
−−でも、現実は、日本にも大きな変化が起こっています。入社したときは「終身雇用だ」と言われ真面目に働いてきたサラリーマンが、50歳にして突如、リストラされるということが起こり得る。
宋 会社は安心できるところだ、と思うのが間違いなんですよ。本当の安心というのは、どんな場面になっても自分自身で生きていく力を持っていること。そう思いませんか?
男性だけじゃなく、女性だって同じです。結婚したら安心というのも間違いですよ。これだけ離婚が増えているんだから。離婚しないまでも、旦那さんが突然リストラされて収入がなくなる可能性だってある。
だれかに頼って安心するのではなく、自分で生きていく力を身につけること、自立することがいちばん大切なんですよ。
会社の実態を把握せず働くのは「社員の怠慢」
宋 日本で仕事をすることになった私は、大企業で働くのは嫌だと思っていました。

−−なぜですか。
宋 大きな会社に入ると、会社の実態が分かりませんから。実態を自分で把握できない会社で働くのは、怠慢じゃないですか。
−−「会社の実態を把握せず働く」とはどういう意味ですか?
宋 例えば、自動車会社でリコール隠しが発覚する大事件がありました。きっとその会社の大半の社員は、そういう事実があることを知らずに働いていたんだと思います。もし、社員一人ひとりが事実を把握していたら、「それはまずい」と思って、そういう事実をなくすために行動するでしょう。そうすれば、自浄作用が働いて、問題は起きなかったはずです。企業が起こす不祥事の多くが、社員に事実が知らされていないために起こるのだと思います。
ただ、会社がすべて悪いわけではないんです。何も知らないという社員にも問題がある。「自分は会社のすべてを知らなくとも、だれかがどうにかしてくれる」と思っているのは、あまりに人任せな言い訳です。会社の実態が分からない状況に満足して働くのは、その人の怠慢だと思います。
だから、僕は大きな会社で働くのは嫌だった。ソフトを開発する小さな会社を自分で見つけて、そこに就職することにしたんです。大学の教授には怒られてしまいましたが。
−−なぜ、怒られてしまったんですか。
宋 大学院にいる学生の就職先は、教授が決めることになっていたんです。私の就職先も、東京にある大会社に決まっていたようなんです。それにもかかわらず、私が自分で就職するところを見つけてしまったので、教授は怒ったんです。
私が見つけた就職先は、社員数が100人くらいのソフト開発の会社でした。仕事は大手企業の下請けの下請け。いわゆる「孫請け」をしている会社でした。そのため独自技術といったものは全くなかった。
−−その会社で働こうと思った理由は何ですか?
宋 その会社の社長が、「独自技術を持ちたい。そのために、あなた中心で技術開発を進めていいから」と言ってくれたからです。
−−それでは、宋さんを特別待遇で雇ってくれるということだったんですね。
宋 そうです。「会社の状況も明らかにするから」ということで入社したんです。ところが、入社して3カ月でその会社が潰れてしまうんですよ。
■インタビューは全3回。今回は第1回です。
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