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アートゲノム第19回〜「真似」は本当にいけないことなのか?

2004年8月27日

模写は楽しい! 一筆ずつ描き加えるにつれ、先達の天才が創造したとびきりの図柄が、自分の手で姿を露わにしていく。目と鼻と歯の大胆な描写が「神」をひょうきんな存在にし、筋肉の一筋が平面的な絵にリアルさを与えていく――。



俵屋宗達が描いた『風神雷神図屏風』を模写する尾形光琳。多少でもその心境に近づけないものかと想像してみた。そこには優れた先達の秘密を垣間見る喜びと熱中心、そして達成感があったに違いない。光琳の『風神雷神図屏風』は、現在、東京・竹橋の東京国立近代美術館で開かれている「琳派 RIMPA」展で見ることができる。



「琳派 RIMPA」展会場より 尾形光琳『風神雷神図屏風』:宗達の原画を光琳が模写したもの。同じ図柄を江戸琳派の鈴木其一(きいつ)も、襖絵として描いている。独創性が加味されるが、画題としては、明治以降も今村紫紅、安田靫彦らがこのモチーフを手がけている



光琳をはじめとする江戸時代の優秀な画家たちの幾人かは、宗達らの先達に私淑し、ある時は模写をし、ある時には同じモチーフを画面に再現した。そして、多くの場合、師弟関係が存在しなかったにもかかわらず、「派」という名前で括られるほど作風に共通性を持つ潮流を紡ぎ出した。何しろ、同じ京都を活動の舞台とした宗達と光琳、光琳と江戸で活躍した酒井抱一(ほういつ)の間には、それぞれ1世紀程度の時差がある。私たちはそれらをひっくるめて「琳派」と呼んでいるのだ。



真似と独創性の境界線とは?



しかし、不思議である。現代の美術の世界では、「真似」は疎んじられる行為である。他人の作風を真似した作品は亜流と呼ばれ、生命感がないだの何だのと、こきおろされるのが常だし、そもそも相手にされないはずのものである。江戸時代の狩野派は、粉本というお手本帖で師匠筋の作風を真似し続けたからダメになったと言われている。だが、光琳が行った「真似」に関しては、非難されるのを聞いたことがない。



もちろん、作品の模写と作風の真似は違う。近代以降の画家でも、例えば菱田春草や横山大観は東京美術学校(現・東京芸術大学)の学生だった時代に、何枚もの古画を模写していた。表面的な技術習得に堕すことのないよう、模写にかかる前に何日も模写する対象の作品を見続けることを基本としていたというから、形だけの模写には終わらなかった。実際、絵の具の剥落まで写し取った春草の『普賢延命菩薩図』などは、本物と見紛うばかりの出来栄えで、見事の一言につきる。ただし、これはあくまでも模写であり、春草のオリジナル作品とは言えない。



光琳の『風神雷神図』の場合も、明らかに模写である。しかし、一度模写をした作品をさらにアレンジしたものも、光琳にはある。「琳派 RIMPA」展で出品されている『松島図屏風』(ボストン美術館蔵)である。この作品の元になる『松島図屏風』を描いたのも、やはり宗達だ。宗達の作品があまりに素晴らしいから模写をする。しかし、模写した時点で、光琳はその作風を自分のものにしてしまう。アレンジも自在だ。写しだからといって作品から精気が失せることもないのは、やはり光琳の並外れた感性と技術によるものなのだろうか。そもそも光琳に、技術習得という目的があったとも思えない。ただただ、大いなる喜びを持って模写する光琳の姿が目に浮かぶ。



そう考えると、真似と独創性の境界線すら、怪しくなってくる。著作権が確立し、芸術という言葉が定着した今の時代、光琳の『風神雷神図』のような作品が、正々堂々と登場することは考えにくい。「琳派 RIMPA」展では、近代の『風神雷神図』として、今村紫紅の作品が展示されているが、宗達や光琳の作品からさらにデフォルメが進み、独創性が主張されている。それは当たり前のことである。また、もはや日本という枠組みだけで物事を捉えることはできないので、著作権という概念はあってしかるべきものだ。



「琳派 RIMPA」展会場より 本阿弥光悦、俵屋宗達『鶴下絵三十六歌仙和歌巻』(部分):鶴が動画のように描かれているのに装飾的で美しい画面構成である


「琳派 RIMPA」展会場より 加山又造『千羽鶴』:近代以降も、琳派を研究し自分の画風に取り入れる画家は多い



だからと言って、琳派の作家たちに見られるような、美の継承のあり方が否定されるべきものではないだろう。もちろん、光琳は『紅白梅図屏風』(MOA美術館蔵)などの名品で、独創性という点でも揺るぎない評価を受けている。ただ、その独創性を支えた「真似び」(真似ることによって学ぶこと)を考え直してみるのもまた、美のDNAを継承する、という視点で見ると、意義があるのではないか。(小川 敦生=編集委員室編集委員)



関連リンク】

・東京国立近代美術館のHP http://www.momat.go.jp/


■小川敦生(おがわ・あつお)

美術ジャーナリスト。1988年日経BP社入社、「日経エンタテインメント」記者としてクラシック音楽分野を担当。その後、「日経アート」記者(美術市場全般を担当)を経て同誌編集長に。2000年から「日経アート・オークション・データ」を毎年刊行。2002年から編集委員室編集委員。東京大学文学部美術史学科卒業。


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