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「20代で教授職相当に抜擢、体内時計研究で先頭走る」、理研の上田泰己氏

2004年8月25日

時差ボケの解明に取り組む新進気鋭の研究者に、世界の視線が集まっている。日本を代表する研究機関である理化学研究所のチームリーダー、上田泰己氏(28歳)がその人だ。


昼間活動し、夜眠る人間のリズムは脳の中心部にある器官で刻まれている。その体内時計の動きに狂いが生じると様々な問題が起こる。例えば、朝になっても体がまだ夜の状態だと登校拒否症の一因となり、痴呆患者の夜間徘徊はその逆だ。うつ病もリズム障害が原因の1つとなる。上田氏が中心となり、そんな外からは見えない体内時計のズレを簡単に測定する方法を初めて開発し、成果をまとめた論文が7月下旬、著名な学術誌に掲載された。


「現代の医学に失望した」


「遺伝子を時計の針に見立てれば、体内時計の動きは簡単に分かります」。こうさらりと話す上田氏は、3月に東京大学の博士課程を修了したばかり。理研が神戸市に設置した発生・再生科学総合研究センターで、バイオテクノロジーとIT(情報技術)の融合領域を研究している。研究室の責任者であるチームリーダーとなって2年目。11人の部下がいるが、半数以上は年上だ。


理研のチームリーダーは大学の教授職に相当する。一流大学で教授になる場合、40代前半でも早いと言われるが、理研でも20代のチームリーダーは例がない。ましてや就任時に学生だ。竹市雅俊センター長も異例の抜擢人事に抵抗感はあったが、同時に「早くツバをつけておかないとほかに取られてしまう」と思ったほどの逸材だった。


東大医学部に現役合格しながら、医師の道には進まなかった。「根本的な治療法が確立していない病気があまりに多く、現代の医学に失望した」と上田氏は言う。転機は大学3年生になった1996年に訪れた。酵母と呼ばれる微生物のゲノム(全遺伝情報)がすべて解読されたことだ。当時、人のゲノムの解読プロジェクトも世界中で進められていた。「ゲノムが分かれば生物全体を1つのシステムと捉えることが可能になる」。そう考え、病気の原因やその根本的な治療法を開発する研究者になろうと決意した。


医学で味わった無力感が逆にバネになったのだろうか。そこから、研究の道にのめり込む。3年生の夏から1年でバイオテクノロジーの実験手法を習得した。翌年、人工知能の研究で有名なソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明氏を訪ね、これも1年でプログラミング手法を身につけた。


バイオとITの両方を駆け足で学んだのは、「将来、強力なパワーとなる2大技術を若いうちに会得しておきたかった」からだ。実際にそれが自身の強みとなっていった。医学部5年生の時、外部研究者として上田氏を迎えた山之内製薬の橋本誠一主席研究員は、「バイオとITの両方に精通した最も優れた研究者だった」と証言する。


「分子時刻法」という、体内時刻の測定法の開発にも生きている。上田氏は、1日の中で規則的に量が変化する遺伝子に注目した。そこで、1万個以上の遺伝子の濃度を網羅的に解析できるDNAチップという機器を使い、体内リズムの周期に沿って量が変わる遺伝子を160個以上見つけ出した。まるで、大きなパズルを解くような作業だが、そのうちの数十個の遺伝子の濃度が分かれば、体内の時刻を1時間程度の誤差で計れることを突き止めた。


体内時刻分かれば医療変わる


生活スタイルが多様化した現代社会で、2〜3割の人が体内リズムに何らかの障害を持っているとの推定がある。体内時計に従い、体温や血圧、それに分泌されるホルモンの量も変わるため、体内の時刻が把握できれば、それに合わせて薬を投与するタイミングや量を決められる。一部の抗ガン剤は、患者の体内リズムを基に投与量を調整することで副作用が減らせる。医学への貢献は決して小さくない。


従来の体内時計を知る方法だと、特定の体内物質を4時間おきに48時間連続して測定する必要があり、患者の負担が大きかった。1回の測定で可能にする上田氏らの研究は、何より、医療の現場が強く求めていたものだ。


病気のメカニズムを解明し、新薬を見いだす──。上田氏はその新たな手法の開発に動き始めている。いったんは医学に失望した俊英が、そこにどんな革命をもたらすか、脂が乗ってくるこれからが注目だ。(坂田 亮太郎)

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