稲盛流「4割出資」の再編、京セラ・米カーライルのDDIポケット買収
米投資ファンドのカーライル・グループと京セラは、PHS(簡易型携帯電話)最大手、DDIポケットを買収することで親会社のKDDIと合意した。買収額は2200億円。10月に発足する新会社はカーライルが6割出資して傘下に収めるものの、交渉の過程で終始、主導権を握ったのは、京セラだった。
「買収は現経営陣の続投を前提としており、(中略)現従業員の方々についてもいわゆる雇用調整は一切想定しておらず…」。今回の発表文にこんなくだりがある。
「外資に全部売るのはだめ」
「複数の候補の打診を検討したが、カーライルは短期的売買でない点を評価した」。交渉の表舞台に立ったのは、こう話すKDDIの小野寺正社長だが、頻繁に相談を受けていたのは、KDDIの筆頭株主である京セラの稲盛和夫名誉会長だ。稲盛氏は人員削減せず、安易な事業売却も好まない経営哲学を持つ。しかもKDDIの前身のDDI(第二電電)とDDIポケットは自ら育てた事業で思い入れが強い、とされる。現に京セラのある幹部もこう話す。「外資に全部売るのはだめだ、と言われた」。
携帯電話事業への集中を決めたKDDIは3年前にもPHS事業の売却を検討した。その際に買収に意欲を示したのが米投資ファンドのリップルウッド・ホールディングスと、カーライルだったが、金額など条件が折り合わなかっただけでなく、特にリップルに対しては「転売目的だからか、最初から嫌っていた」(金融業界関係者)という。
買収後の新会社には京セラが3割、KDDIも1割出資する。京セラは「中国など海外で基地局や端末を販売できる」(西口泰夫社長)と話すが、ある関係者は「カーライルはもっと出資比率を高めたかったが、日本勢が合計40%の出資にこだわった」と明かす。確かにこれにより株主総会で重要事項に関しては拒否権を発動できる。
一方のカーライルの狙いは明快だ。DDIポケットの年間400億円のキャッシュフローのうち100億〜200億円を設備投資に回し、残りを借入金返済に充てたうえで、「法人向けデータ通信サービスを強化する」と安達保・日本代表は言う。3〜5年で株式公開し、同社の世界実績で平均25〜30%と見られる運用収益を得る考えだ。
DDIポケットの足元の状況は良い。データ通信サービス「エアーエッジ」はカード型のPHSをノートパソコンに差し込むことで、最高毎秒128キロビットの高速通信が可能。定額制導入で人気が高まり、加入者数は約291万人に達した。電力系のアステルグループが実質的に撤退、NTTドコモが大幅赤字に苦しむ中、PHSで「独り勝ち」の状況だ。
さらに年内に毎秒256キロビットの高速データ通信サービスを始める予定。来年には音声通話のネットワークもNTTのISDN(総合デジタル通信網)から低コストのIP(インターネット・プロトコル)網に切り替えることで、「定額制」に近いサービスを始めることを検討している。
問題は、リストラなき成長持続と株式公開という最終目標に向かって、和洋折衷とも言える経営がうまく軌道に乗るかだ。
意思決定はカーライルが主導
DDIポケットは10月以降、取締役と執行役に役割を分ける。カーライルは非常勤ながら5人程度の取締役を派遣する方針。通信業界に詳しいジム・アットウッド氏や元米通信大手ネクステル・コミュニケーションズCEO(最高経営責任者)のダン・アカーソン氏らが候補とされる。DDIポケットの現会長・社長らは取締役に就くが、最終権限は事実上、カーライルが持つため、売却まで日本側主導で描けたシナリオが徐々に変化する可能性はある。
携帯電話サービスが高度化する中、PHS事業が果たして今後どれほど潜在成長力を持つのか。育成型投資ファンドの成否が問われる今回の再編劇は、日本発の技術が世界でどこまで存在感を示せるかの試金石ともなる。(宮東 治彦、瀧本 大輔)
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