携帯電話「即解約」の波紋、奨励金頼みの業界揺るがす
2004年3月9日
●カメラ付きの普及逆手に
携帯電話のカメラ機能は、今やデジカメと比べても遜色ない。カード型メモリーの差し込み口がある機種も増えており、撮影した画像をパソコンに移すのも容易だ。さらに携帯電話は、電卓や簡単なスケジュール管理、メモ帳などの機能を標準装備。通信機能を使わないゲームソフトを事前に保存しておけば、解約後はゲームも楽しめる“多機能デジカメ”になる。通信機能など必要ない、というわけだ。
こうした高機能な端末は、店舗によって異なるが、100万画素級のデジカメ付きなら1万円台、200万画素級なら2万円台で購入できる。旧型になれば、店頭価格が1万円を大幅に割り込むことも多いので、加入時に支払う3000円前後の事務手数料や1カ月分の基本料を考慮しても、手に入れる価値がある、と考えるユーザーがいてもおかしくはない。実際、NTTドコモやKDDI、ボーダフォンといった携帯電話各社の関係者も、「特殊ではあるが、そういう事例があるとは聞いている」と、否定はしない。
携帯電話会社や販売店にとっては、これが広がっては困る事情がある。店頭に並ぶ携帯電話の価格は、そもそも製造原価を適切に反映したものではない。携帯電話会社が販売店に対して、販売奨励金(インセンティブ)という名目で、値引きの原資を払っているため、時には1円やゼロ円という破格の値段でも販売店は利益を出せる。販売奨励金は3万円台が相場なので、店頭販売価格が1万円程度ならば、本来は4万〜5万円で売られるはずの製品ということになる。
携帯電話会社が迷惑を被るのは、この販売奨励金の原資が、ユーザーが支払う通信料から捻出されていることに起因する。販売店がユーザーに対して、契約から最低6〜7カ月間は解約しないように依頼しているのは、この期間に携帯電話会社が“元を取る”仕組みになっているからだ。
仮にユーザーが短期間で解約すると、「携帯電話会社が販売店に奨励金を支払わなかったり、違約金を科したりするケースもある」(関係者)。すると販売店は、せっかく顧客を獲得しても赤字を出す結果になる。ある携帯電話会社の社員は、「ペナルティーを非公式に科さないと、奨励金を支払うばかりになってしまう」とこぼす。
●高機能化で深まるジレンマ
こうした問題は、携帯電話の高機能・多機能化が進めば進むほど、一段と顕在化する可能性が高い。例えば端末が旧型になれば、携帯電話会社は販売奨励金を積み増して在庫を処分することがある。メーカーが製造した端末を、携帯電話会社が一括して大量に買い取るシステムになっているからだ。
すると、かつて最新機種だった製品が格安で店頭に並ぶ。端末の性能が高いほど、実勢価格と本体の価値とは乖離してしまう。極端な話、200万画素のデジカメ機能と高解像度のカラー液晶を搭載して、ゲームもできる端末が、いずれ数千円で手に入るようになったとしても不思議ではない。
かといって、販売奨励金を減らせば、ユーザーは安価な端末を求めて他社へ流れてしまう。携帯電話の普及期に市場拡大を後押しした販売奨励金制度は、通話や通信以外の機能が付加価値として重視される現在、むしろ足を引っ張りかねない。
折しも2005年には、携帯端末向けの地上デジタルテレビ放送が開始される見込みだ。ある携帯電話メーカーの幹部は、「1万円程度で携帯型テレビを買うより、テレビとデジカメがついた携帯電話を1円で購入して、すぐ解約した方が得になっては困る。しかし、多機能化を進めないと携帯電話会社は契約者をつなぎ留められない」とジレンマに頭を悩ませる。携帯電話会社が、こうした悪循環を断ち切る決断を迫られる時が、近いうちに来るかもしれない。(瀧本 大輔、大竹 剛)
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