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東大がiMacを大量導入/アップル原田社長に聞く

2003年9月29日
 東京大学の大学院と学部の全学生約3万人と教職員などがキャンパス内で利用する共用のパソコンにアップルコンピュータのiMacが採用されることになった。9月24日、開札が行われ、NECリースが落札した。駒場第一と本郷、柏の3カ所のキャンパスを専用回線で結ぶ。65台のXserveが1149台のiMacにOSを送り込み(NetBoot)、利用者はどのiMacにログインしても常に同じ環境で作業を始めることができるようになる。

 世界的なPCマーケットでは教育分野に強いと言われるApple Computerだが、日本ではなかなか本格的な導入実績がなく、突破口が開けなかった。今回の東大の大量導入でその流れを大きく変えることができるのか?。アップルコンピュータ代表取締役社長の原田永幸氏に受注までの経緯、これを契機にどんなビジネス戦略を描いていくのかを聞いた。聞き手は日経BP社編集委員室 主席編集委員 林 伸夫。

―― 今回、東京大学の次期システムにiMac1149台、Xserve69台、うち4台はアプリケーション・サーバー用という大型案件がまとまりました。Windows環境がどうしても必要な講義用としてWindows 機が103台、CAD講義用として高解像度ディスプレイを装備した「高画質Windows端末」が124台という構成。要するに一般的な利用環境はMac OS Xとなる、極めて思い切った構成です。これだけの案件をまとめるのは大変だったのでないですか?。

■優秀なエンジニアをバックに、直販部隊が機動性発揮

原田 弊社の営業チームは優秀なエンジニアリングチームをバックに、思いきった仕事をしていますが、思ったほど苦労はしていないんじゃないでしょうか?。

 こう言うと、営業のチームや外で一緒に仕事をさせていただいている関係者の方に失礼かもしれませんが、Windowsと苛烈な競争をして負けた、ということはあまりないのです。お客様もMacのことをよく理解して、我々と一緒にシステムを組み上げていくというやり方をとっています。こうした取り組みがしっかりと機能しているということが言えるんだと思います。

 こんなふうに大々的に発表できる事例以外にもたくさん導入実績を積み上げてきていますが、皆さんMacの得意とする仕事は何か、Windowsが得意とする処理は何か、といったことをちゃんと理解していただいた上での判断ですから、決まるものはちゃんと、すんなり決まります。今回でも全部がMacというわけではありませんのでね。

―― 今回のシステム構成を見ますと、iMacはディスクレスで動かす、OSはXserveからNetBootで送り込む、しかもMac上でWindowsのアプリケーションも動かせるWindowsターミナルサーバーも組込まれている、あまりにも手際のいいマジックを見ているような気分にさせられます。

原田 やはりそうした素晴らしく独創的なアイデアは東京大学情報基盤センターの先生方が出していただいたからこそ実現したと言えると思います。しかし、そうしたアイデアに対してそのニーズを理解して「それは実現可能」と答えられるエンジニアがアップルにいるということが、大きな強みとなりましたし、最終決定していただく決め手になったと思っています。

 東大の先生方にアップルのエンジニアを高く評価していただき、信頼してお付き合いいただいたのは大きいと思います。遠く離れたキャンパスをネットワークで結び、Mac OS X Serverの機能であるNetBootでユーザごとの独自環境をデスクトップに引き出す。しかも、それが1149台に及ぶ規模ですからちゃんとできるかどうか、技術的裏付けをお見せしなければならない。そんなときに、頼りになるエンジニアが控えているというわけです。

―― iMacはディスクレスで使う、という形式ですが、そうなりますと、ディスクの入っていないMacを特別価格で提供するということになるのでしょうか?。

原田 NetBootはディスクレスで起動しますが、マシン自体には、本来の形のままディスクが入ったものを納品します。その記憶領域をユーザの方が自由に使っていただくことはできるようになっています。データの保管などで必要な場面はたくさんあります。したがって、特別仕様で特別価格を設定しているわけではありません。

■システムインテグレーションはNECが担当

―― 来年(2004年)2月ぐらいから約1カ月で現端末を撤去し、本格稼働に持っていかなければなりませんが、こうしたインテグレーションもアップルがやるのですか?。

原田 残念ながら、アップルにはそうした組織も体力もありません。実際の導入、運用はNECさんにやっていただきます。Windowsサーバー(NEC  Express 5800 14台)などもありますし、この部分はNECさんにお願いするのがベストです。NetBootやX windowなどの技術的情報は我々の方から十分にお出しする準備ができています。

―― 今回の導入の決め手は、Mac OSがUNIXベースのシステムだったことが大きいと伺っています。これまで、マルチプラットフォームでビジネスを展開しようにもMac OS ではなかなかスムーズに融合できなかったのですが、Mac OS Xになってから途端につなぎやすくなるとともに、豊富なUNIXアプリケーションが使えるようになりました。そういう意味で、広くパートナーシップを築いていく基盤が整ってきたわけですね。

原田 弊社が持っていないノウハウ、ソリューションを組み合わせることで、より素晴らしいITシステムを提供できます。各社さんにはそういう立場で、1社だけでのソリューションを提案するのではなくマルチプラットフォームでお客様に本当に喜んでいただけるものを作っていきましょうとお話をしています。

 このようにして作り上げた企業システムが実はたくさんあるのです。なかなか公共の場所でお話できなくて、もどかしいのですが、銀行や一般企業、放送局などに大規模システムが導入され始めています。そのような場合、アップルの直販部隊がお客様のところにお話を聞きに行って、それをそれそれの案件ごとに得意なSIさんと一緒に仕事をしていくという戦略でビジネスを描いています。

■UNIXに強いクパチーノの技術者にコロリ

―― 東大の案件の場合、いつごろからプロジェクトが進んでいたのでしょう。

原田 その辺りの詳しいことについては、実際に営業担当として案件を獲得してきた池田(昭雄法人営業部長)がお話したほうが良いでしょう。

池田 かなり長くかかりました。最初は2002年の7月ぐらいからですから丸1年。最初は東大の先生方が、次期候補として入れるか入れないかまず検討してみたいというところから始まったと聞いています。候補にするしないを考えるのに、まずアップルのコールセンターに電話してみようと。それで、そこの対応が良ければ検討項目に入れてみようじゃないかということだったと伺っています。コールセンターからすぐに私のところに情報が上がってきまして、直接ご説明に伺ったというわけです。

 とにかく難しいご注文でした。3万人の学生や教職員がいつでも健全な状態のシステムを動かせること、アプリケーションの配付などはネットワークで管理したい、情報科学教育のためにはJavaの環境、UNIXの環境が必須である、Windowsのアプリケーションも時には使えるように、といったお話でしたが、Mac OS Xはそれらの機能をほとんど標準で全て備えています。

 東大の情報基盤センターには田中哲朗先生をはじめ、UNIXの世界では権威の先生がたくさんいらっしゃって、そういう人のリクエストに応えられるか、ということが求められました。それに対して、アップルのエンジニアがこれほどの知識を持っているのか、と認めてくださった。当然、本格導入時期にはOSは次期OSであるPantherが出てくるわけで、NDA(秘密保持契約)を結んでいただいて、システム設計を検討していただきました。

 カリフォルニア・クパチーノの本社にも行ってもらって、弊社のデータセンターを見てもらいました。アップルは基幹システムとしてMacを活用していますが、じかにこのサポートエンジニアに話していただくチャンスも作りました。そういう活動を通じて、日本のエンジニアのバックにはこれほどの力量のあるエンジニアが控えているのだということを目の当たりにしてもらったわけです。これで十分な信頼感を感じてもらえたと思います。

原田 クパチーノのキャンパスの中にエグゼクティブ・ブリーフィング・センターという場所がありまして、そこでは来訪者のレベルや興味に合わせたプレゼンテーションができるようになっています。ここで、案件に応じて、技術的裏付けのあるお話ができる仕掛けです。使い勝手の良い情報システムを考えておられて、なかなか解決の糸口が見つからない、といったお客様がいらっしゃれば、ぜひ、声をかけていただきたいと思います。

■マルチメディア、教育、そして一般企業にも

――そのようにしてタネをまき、今後実ってきそうなフィールドはどんなところがあるでしょう。

原田 従来からアップルが強い分野では今後も興味を持っていただける案件が順次成立していくと思います。DTP、ビデオ、音楽、放送ですね。もちろん、今回の東大の案件に刺激されて、教育分野も成長が期待できます。

 教育分野では現在「エージェント」に対する取り組みを強化しています。学校に文房具などを納入している業者さんに、テレセールス、直接受発注などの道を開こうというものです。そういう業者様向けに定期的なセミナーも繰り返し行っています。

―― NetBootという仕組みを上手に使うと、企業向けシステムに最適なものが構築できます。ウイルスに対しても強い仕組みになりますし、社員が外から持ち込んだアプリケーションを勝手に使うといったことを防ぐこともできます。もっと積極的に企業に対するアプローチをしても良いのではと思いますが。

原田 今はまだ実績を一つ一つ積み上げていき、アップルの直販部隊がなかなか良い提案をするなあ、と分かっていただくための仕込みの時期だと思います。したがって、いろんなフィールドで事例を積み上げて行きたいと思っています。

 たとえば今回の東大の案件はアップルは全然もうからない。我々はiMacとXserveを納入しますが、インテグレーションはNECさんがやります。今のビジネスモデルだとアップルの直販部隊は全然もうからない訳ですが、直販部隊というものはその仕事ぶりを見てお客さんが選んでくれるものだと考え、このスタイルでのビジネスをしばらく続けるつもりです。直販部隊はナビゲータとして、さまざまなパートナーさんと一緒に仕事をしていく、こういうことではないでしょうか?(林 伸夫=日経BP社編集委員室 主席編集委員)
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