ソフトウエアの著作権はどこまで保護されるのか
2002年10月22日
この訴えに対して東京地裁民事第46部(三村量一裁判長)は2002年9月5日、サイボウズの訴えを全面的に棄却する判決を言い渡した。
●著作権法を厳密に解釈し、侵害ではないと判断
この判決で記者が注目したのは、両社のソフトに類似点があることは認めながらも、著作権侵害ではないとの判断をしめしたところだ。両ソフトが類似している点は、ソフトウエアの機能を追求した結果必然的に出てきたものか、あるいは一般的な掲示板やシステム手帳、同種のソフトウエアなどでありふれているとし、「これらの点には表現上の創作性が認められない」とする。つまりソフトの画面表示が似ているからといって、サイボウズのソフトをネオジャパンが複製あるいは翻案したとは言えない、というのである。そして、著作権法に照らして考えると、創作性が認められない物を著作物として扱うことはできない。つまり、今回のケースでは、画面表示が似ていたとしても著作権侵害には当たらない、と断じたのである。
言い方を変えると、東京地裁は「“表現が似ている”だけでは著作権侵害を主張できない」という判断を示したのだ。サイボウズとネオジャパンのソフトの類似点に創作性が認められるか否かについて、記者個人としては判断できない。しかし、ソフトウエアの画面についてそれらに類似性を認めつつも、著作権法を厳密に解釈して類似する個所は著作権の保護対象外とした東京地裁の判決は、著作権の及ぶ範囲についての判断を示した点が重要だと記者は考える。
判決でも述べられていたシステム手帳を例にとって“類似点”について見てみよう。たいていのシステム手帳は、年間カレンダー、月間スケジュール表、週間スケジュール表、メモ欄、住所録などを備えている。例えば、月間スケジュール表の日付の配列や表現方法は、メーカーが違っても、概ねよく似ているのが普通だ。システム手帳としての機能性を追求していくと、どうしても似てしまう---その結果、異なるメーカーの競合製品であっても類似した部分が出てきてしまうのだ。例えば、一般的ではない、あまりに独創的な配列のスケジュール表では、使いにくい手帳になるだろう。
ソフトウエア製品でも、特にビジネス・ソフトやグループウエアのような、機能がある程度共通するものは、どうしても表示が似てしまう部分が生じるのは仕方のないところだろう。まして今回の訴訟の対象となったソフトのように、ブラウザーをクライアントとして使うとなると、図形などの描画方法や画面の制御にはブラウザーの機能に依存する部分が大きくなり、ソフトウエアを作る際に使える表現方法は限られたものになってしまう。
もちろん東京地裁は、相当厳密に両社ソフトの類似性と、そこに創作性があるか---つまり著作権法で保護されるべき範囲かどうか---を検討している。それこそアイコンの形や位置まで、徹底的に調べ尽くしていると言ってもよさそうだ。
●どこまで著作物性があるとするか、それが問題だ
この判決に対し、ネオジャパンの大坪慶穰専務は「当社の主張が全面的に認められた、歓迎すべき判決」とコメントしている。「そもそも我々は、アプリケーション全体では、まったく異なったものであるとしてきた。それが公正に判断された」(大坪専務)。またネオジャパン側代理人の松本直樹弁護士は「両社のソフトに類似点が全然ないわけではない。ただし両社で類似するところは著作物としての特性が見られないところだ。この判決では、どこまでを著作物性があるとするのか、その適切なガイドラインを示したと言えよう」と話しており、この判決を評価している。
一方、サイボウズの高須賀宣社長は「ワープロや表計算などのソフトと違って、グループウエアの場合、画面構成そのものも相当に創意工夫し、考え抜いて作成している。これが著作物として認められなかったのは非常に残念」と述べている。「画面表示ひとつをとっても、業務プロセスを徹底的に分析して策定している。今回の判決は、そうしたソフト開発者の意欲を削ぐような判決だ」(高須賀社長)。またサイボウズ側代理人の平出晋一弁護士はさらに手厳しい。「この判決は、ビジネス・ソフトの画面など、デッドコピーでもしない限り保護しないと言っているに等しい。画面表示のパーツはありふれていても、それを組み合わせてひとつの画面を作るところに著作物性があるのだ。今回の判決では、そうした点をまったく無視している」(平出弁護士)。サイボウズは東京地裁判決を不服として、9月18日に控訴した。
サイボウズが控訴したことで判決は地裁で確定せず、裁判の土俵は東京高裁に移った。さて東京高裁は、どのような判断を下すのか、非常に興味のあるところだ。はたして東京高裁は、東京地裁と同じように両社ソフトの“類似点”を著作権法の保護の対象外とするのか、あるいはまったく別の判断を示すのか、だとしたらその根拠を何に求めるのか。当分はこの裁判から目を離すことはできそうもない。また、この問題は、ソフトウエア業界や法曹界全体で、さらに多くの例を取り上げ、幅広く議論すべきだろう。ソフトウエアで著作権法により保護されるべきポイント、すなわち創作性が発揮されている部分をどのように見定めるのか、その方法を明確にしていくことが必要だ。(田中 一実=BizTech副編集長)
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