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日銀の銀行保有株買い取り、危険な賭けの成否は?

2002年10月2日
 日本銀行は今年10月、開業から120周年を迎える。歴史の節目を目の前にした9月18日、その日銀がついに「ルビコン川を渡った」(有力OB)。

 銀行が保有する株式を直接買い取るという、前例のない領域に足を踏み入れる決断をした。金融システム安定に向けた政府の道具立てが揃わない中での、いわば見切り発車。日銀の決断が吉と出るか凶と出るか、答えの見通せない危険な賭けでもある。

10年債の入札未達が発生

 日銀が株式の買い取りを決めた2日後、金融市場で「異変」が起きた。財務省が実施した10年国債の価格競争入札で応募額が入札枠に届かない未達が発生。国債の指標銘柄である10年債の入札未達は初めての出来事だっただけに、市場関係者に衝撃を与えた。

 国債の買い手が引っ込んだことは、日銀の決定が一因になった。国債一辺倒だった銀行の投資行動が変化を迫られるとの観測が一部で浮上したからだ。速水優・日銀総裁は「(株式買い上げが原因とは)見ていない」と語るが、日銀が国債(の買い切り増額)より株式(の買い取り)を選んだ余波と言えなくもない。

 速水総裁は「(長期金利が)1%台にまで低下したところの調整局面にあり、多少不安定な動きをするのはやむを得ない」とも話す。その言葉からは市場の異変への驚きは伝わってこない。外国為替市場では一時円安が進むなど、日銀の株買い取りの「ショック」は市場の不安定さをさらけ出した。

 日銀の構想は確かに大胆な内容だ。「あらゆる可能性を検討した」(政策委員会メンバー)と言うだけに、身を削る覚悟で中央銀行の禁を破った。

 日銀は既に株式を買い取るルール作りに着手。幹部は「コマーシャルペーパー(CP)買いオペなどでの銘柄の適格性は当てはめない方向で検討する」と話す。日銀は株式買い取りを金融調節の枠外と位置づけることで、「原理原則」の枠も外そうとしている。

 買い取った株式の価格下落リスクに備える価格変動準備金も手厚く確保する見通しだ。50%近い準備金を積み立てる案も浮上。この場合、日銀の資産に組み込まれた株式が半値に落ち込んでも対応できる。間口を広げるほどに抱えるリスクは大きくなる。それを承知の態勢整備と読むこともできる。

 日銀の決意を知ってか知らずか、銀行は歓迎ムードだ。大手銀行の株式担当者は「日銀は有力な売却先になる」と期待を込める。銀行は株価が低調で身動きが取れないばかりか、政府の銀行等保有株式取得機構も拠出金負担の重さなどから利用が進んでいない。取得機構は現在、第2期の募集をしているが、ある大手行はわずか1銘柄しか売却していない。

 日銀が買い取りを始めれば、相当程度の株式が集まる可能性が高い。しかし、金融システム安定のかけ声と裏腹にある日銀資産の健全性を忘れるわけにはいかない。日銀関係者は「約130兆円の日銀の資産から見れば、数兆円の株式は大海の一滴」と強調する。果たしてそう割り切っていいものか。

 日本銀行券の裏づけである日銀の資産は、まさに国(国民)の資産そのもの。金融システム安定のために、銀行の株価変動リスクを最終的には国が面倒を見るという構図に等しい。

副作用を心配する声も

 元日銀理事の若月三喜雄・日本総合研究所シニアフェローは、日銀の決定について「副作用が相当ある」と見る。円の信認に疑問符がつきかねないことに加え、金融システム問題の深刻さを露呈する恐れがある、というのがその理由だ。実際、市場は円安・債券安という形で少なからず動揺を見せた。市場関係者は「政府の対策が分からないこともあり警戒感を強めている」(債券ストラテジスト)と指摘する。

 日銀の異例の措置は、政府の抜本的な不良債権処理を引き出すことで初めて効力を発揮する。前日銀審議委員の武富将・第一生命経済研究所特別顧問は「政府・日銀・金融機関の3者が総合的に問題解決に取り組むべきだ」と話す。だが、政府側は煮え切らない。

 金融問題も議題になった9月20日の経済財政諮問会議。柳澤伯夫・金融担当相は「内閣全体のタイミングに合わせて施策を取りまとめたい」と述べるにとどめた。諮問会議の民間議員は「日銀がフライング気味に飛び出した以上、公的資金の投入も含めて検討を急ぐ必要がある」と注文をつける。

 小泉純一郎首相は10月に不良債権処理策を取りまとめる意向だが、ここで日銀に続く「二の矢」を放てないようだと、株式買い取りが引き起こす副作用が、円安の加速と長期金利の上昇といった「日本売り」に拍車をかけかねない。(渡辺 康仁)
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