犬の7割が飼い主の低血糖に反応
2002年9月6日
低血糖は、インスリン治療の重大な副作用の一つ。ごく軽い低血糖なら補食で元に戻るが、特に高齢者では、低血糖状態に本人が気付かないケースがしばしばみられ、臨床上の大きな問題となっている。
Stocks氏は2000年の暮れ、British Medical Journal(BMJ)誌に掲載されていた、「低血糖を知らせて飼い主の命を救った犬」の話に目を引かれた。その号はクリスマス特集号で、心温まる話やユーモラスなエピソードが掲載されている。そんなこともあるのかと、しばらくは気にもとめなかったが、たまたま来院した患者にふとその話をすると、「私の飼っている犬も、低血糖になっていることを教えてくれたことがある」との返事。
俄然興味を抱いたStocks氏は、同氏のクリニックの受診患者462人を対象に、犬を飼っているかや、低血糖発作を起こした時に側に犬がいたか、その時に犬は普段と違う行動を示したかを尋ねるアンケートを行った。
受診患者のうち、犬を飼っていたのは304人(65.8%)。4割弱の人は、低血糖発作を起こした時に犬が側にいたことがあり、うち67.9%が、「犬が普段とは違う行動を起こした」と回答した。
犬の起こした行動で最も多かったのが、服のすそを引っ張る、他の家族を患者のところにつれてくるなどの「注意を引こうとする行動」。鼻を擦り付ける、なめる、落ち着かずうろうろする、吠えるなどの行動も多かった。こうした反応を示した犬に、性別や犬種、純血かどうか、家の中で飼っているか否かなどの差はなく、「低血糖に反応するという行動は、犬にごく普遍的な現象」(Stocks氏)であることがわかった。
家の中で飼い主が低血糖発作を起こしたのを、家の外にいた犬が吠えて知らせたとの事例もあることから、Stocks氏は「犬は飼い主の異変を“見て”反応しているのではなく、他の手段で感知している」と推察。犬は嗅覚が特に鋭敏なので、汗のにおいを手掛りにしているのではと考えた。
そこでStocks氏は、患者に協力してもらい、普通に運動した時と、インスリン注射で低血糖にして運動した時との汗のサンプルを採取。研究機関に分析してもらったところ、低血糖状態の時の汗には、アドレナリンやドパミン、ノルアドレナリンなど各種のカテコラミンが含まれていることがわかった。含まれるカテコラミン量はごく微量だが、「犬にとってこのにおいはおそらく“恐怖のにおい”で、それに反応するのだろう」とStocks氏は考察した。
犬が反応するのが本当に汗に含まれるカテコラミンに対してなのかや、どのカテコラミンに反応しているのかなど、今後解き明かすべき課題は多い。しかし、Stocks氏の考察が正しければ、特定のカテコラミンのにおいに反応する「低血糖介助犬」を育成することも可能になる。実際、地震などの災害で生き埋めになった人を見つけ出す救助犬は、危機的状況に陥った人が放出するカテコラミンのにおいに反応するよう訓練されているという。
Stocks氏は最後に、低血糖を知らせる介助犬は、特に一人暮らしのお年寄りにとってまさに命綱となると強調。「解決すべき課題は多いが、こうした患者を救うために、我々はできることは何でもやるべきだ」と述べ、満場の喝采を浴びた。
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