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マクドナルド、史上最安値59円ハンバーガーの衝撃

2002年7月23日
 「価格に対する要望は依然として強く、80円では支持を得られない」(八木康行社長)――。日本マクドナルドが8月5日から、全国約3900店舗の「マクドナルド」で、ハンバーガーの価格を59円に下げる。3カ月単位で価格を見直すとは言うものの、今年2月に「安さだけでは消費者が動かなくなっている」と、藤田田会長がデフレ終焉を宣言。「平日半額」と題した65円での販売を打ち切り、80円に値上げしてから、わずか半年での軌道修正だ。

 この発表に株式市場の反応は冷たい。再値下げ発表翌日の7月10日、同社の株価は前日比80円安の2920円。週明けの15日にも下がって2890円をつけた。平日半額の打ち切り以降、既存店売上高が2ケタのマイナス続きだっただけに、市場には「景気を読み違えた」「対応が後手に回っている」「59円で収益を確保できるのか」など、否定的なコメントが飛び交う。

「再値下げは既定路線だった」

 そんな中、外食業界の見方は少し異なる。競合関係にあるファストフードチェーンの幹部が言う。

 「消費動向を見誤ったことは事実だが、それと、史上最安値の59円を打ち出せるかどうかは別の話。藤田会長が2月に『安いだけではダメ』と発言したのは、65円で販売する前提のいくつかが崩れただけのこと。マックはこの半年間も、低価格での販売に向けた準備を進め、実行に移す機会を狙っていた。その条件が整うのが8月だ」

 マックがハンバーガーを65円で販売していた当時の推定原価は約40円。原価率は60%と、飲食店の標準原価率の2倍になる。人件費など、他の経費を含めると赤字だ。そこで、65円バーガーの実現には「3倍の販売数量、セット買い、円高」という、3つの前提条件が存在していた。このうちどれが欠けても65円は実現できない。

 第1の条件が、仕入れのスケールメリットを生かすために、ハンバーガーの販売個数が65円での販売前に比べて3倍以上あること。

 実際、2000年2月に65円での販売を始めた直後に販売数は3倍を超え、2001年5月のピーク時には、8倍を記録した。その後、販売個数が下がり、2001年12月に3倍に近づいたことで、2002年2月に65円を打ち切った。

 2つ目の条件は、バーガー類に飲料とフライドポテトを組み合わせた「バリューセット」による注文比率が、ハンバーガーの注文客の7割を超えることだ。

 炭酸飲料やポテトは、いずれも推定原価が15円前後で、単品販売時の原価率は10%台。原価の高いハンバーガーと組み合わせても、セット全体の原価率は20%台を維持できる。ハンバーガー単品買いの客が3割までなら、最終的な原価率が30%以内に収まる計算だ。このセット比率は、65円終了時まで落ちなかった。

 最後の条件が為替だ。主原料を輸入に頼るマックは円安に弱く、採算ラインは1ドル135円。65円での販売開始以降、円相場は1ドル105〜125円の円高だったが、2001年12月には131円台の円安になり採算ラインに近づいたことで打ち切りを決めた。

 ところが、最近の円高傾向で、再び値下げができる環境が整い始めた。

 まず、為替が1ドル115円〜120円台と、円高に戻りつつある点が大きい。マックは既に、2002年中に発生するドル建て決済の25%を120円未満で為替予約済み。万が一、これから円安に向かった場合の対策も打っている。一方、ハンバーガーのパティ(成形した肉)に使う豪州産牛肉の相場は軟調。これも、原価低減の追い風だ。

 残るは販売量の問題。価格インパクトが薄れた65円のままでは、かつての「3倍」はクリアできないため、「消費者調査の結果、80%の顧客が『満足』と答えた価格」(八木社長)の59円へと値下げ幅を拡大した。この価格なら、65円での販売時と同等以上の数量を販売できるとの読みだ。

利益源のマックトーキョー

 そして、59円での販売を可能にしたのが、既存メニューに7種類のサイドメニューを加え、「マックトーキョー」と名づけた、新しい店舗スタイルだ。既存メニューに、2種類のスープ(各220円)、2種類のサラダ(各240円)、パンケーキなど3種類の焼き菓子(各150円)で構成するサイドメニューを追加した店舗にマックトーキョーという名称を与え、新たな顧客獲得を目指す。東京都内で先行導入した後、今年6月中旬、全国で約2800店舗へと拡大させた。

 マックトーキョーは、健康志向への対応と、喫茶需要を掘り起こして利用者数を拡大するのが主目的だが、追加した新メニューは、バリューセットに匹敵する収益力を持つ。

 例えば、プチパンケーキの原価率は10%台とされる。「サラダを除けば、いずれもポテトと炭酸飲料に匹敵する高収益メニュー。新メニューでの運営に店舗が慣れた8月上旬に、59円のハンバーガーで仕掛ける作戦だろう」と前出のチェーン幹部は分析する。

 マックの関係者も、「従来の品揃えだけだったら、ハンバーガーの59円は実現できなかった」と、マックトーキョーの収益性の高さを認める。

 同社はさらに、今年5月からメニュー開発担当者を18人へ倍増させ、新メニュー開発に力を入れ始めた。八木社長は「秋には新メニューを追加する」と言う。果たしてマックの再攻勢がなるか、バーガー夏の陣は熱くなりそうだ。(田中 成省)
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