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ダスキン、客よりも加盟店よりも保身

2002年6月4日
 「今日は、お祈りはいたしません。経営理念の唱和のみを行います」――。

 “祈りの経営”を掲げるダスキンで、お祈りをせずに公式の会議が始まったのは、恐らく今回が初めてだろう。ダスキンの幹部社員も、今がブランド失墜の緊急事態だという認識だけはあるようだ。

 5月24日午後1時、大阪府吹田市にあるダスキンの研修センターに「ミスタードーナツ」のフランチャイズチェーン(FC)店の幹部オーナー約30人が招集され、「ミスタードーナツ共同体理事会」の緊急理事会が始まった。ダスキン側からは上田武社長以下、ミスタードーナツカンパニー社長の一丸直人氏など、幹部社員約20人が出席。議題はもちろん、同社が起こした「大肉まん」不祥事についてである。

 もともとミスタードーナツのFCシステムは、加盟店への手厚い保護で知られる。「100円セール」の実施時には、加盟店に対する原材料の納入価格を引き下げるなど、販売支援策にもぬかりはなく、ほかのFCに比べ、本部に協力的なオーナーが多い。

 だが、さすがに今回は別。この理事会の席上、ダスキンの幹部が経過説明を始めると、それを遮って「経過なら報道で知っている。これからどうするかを聞きたいんだ」と詰め寄るオーナーが出たという。ほかにも、本部の危機管理対応の甘さなどを指摘する声が噴出。結局、終了は午後7時を過ぎる、異例のロングラン理事会となった。

 加盟店の怒りが収まらないのも無理はない。長く低迷を続けていた売上高が、4月は全国平均で前年同月比で11.7%増と好転した矢先のことだったからだ。5月も事件発覚前の19日までは前年同月比で27%増。それが大肉まん事件で一転した。同社は5月21日の事件発覚後、店舗売り上げが20日以前に比べて10〜15%減少したと発表したが、「前年同時期と比べ20%以上減っている」(首都圏のオーナー)と実際の傷はもっと深い。

 理事会の席上、上田社長は「(一連の不祥事は)すべて私たちが悪いんです」と、オーナーに陳謝したという。事の経緯を整理しよう。

 問題の大肉まんはダスキンが外部に生産を委託し、中国の工場で製造。半年間のテスト販売を経て、2000年10月からミスタードーナツの飲茶ブランドである「ミスター飲茶」で販売を開始した。同11月末、この商品に食品衛生法で認めていない酸化防止剤であるt-ブチルヒドロキノン(TBHQ)が含まれていることを、別の外部業者が指摘する。

 ところが、ダスキンはこの事実を隠蔽し、発覚以降も生産済みの国内在庫約300万個分を売り続けた。累計の販売個数は約1300万個に上る。さらにTBHQの使用を指摘した業者に対し、ダスキンが6300万円を支払っていたことも発覚している。

●チェック機能そのものが不在

 今回、ダスキンは、大きく分けて2つの過ちを犯した。品質管理と事後対応である。そもそもの原因は、外部に生産委託した商品の安全性を、ダスキンが自社でチェックする体制を持たなかったことにある。

 ダスキンが大肉まんにTBHQが含まれていることに気づいたのは、販売開始から1カ月以上も経ってからだった。しかも、自社の検査ではなく、外部からの指摘でそれを知った。

 TBHQは、主に油脂に使う酸化防止剤。ダスキンが生産委託していた業者は、大肉まんの製造過程でTBHQを単独で添加している。仕様書がダスキンの手元にあれば、それが法律で認可されていない添加物だと認識することは十分に可能だった。

 もっとも、新メニューの開発では、事前に仕様書を定めていても、発売直前になって原料の一部を変えることはある。ある食品業界の関係者は「ダスキンは、仕様変更で更新された仕様書の原料について、報告を受けていなかったのではないか」と推察する。

 本来は、こうした仕様変更を別の角度から把握することが可能なはずだ。例えば、日本マクドナルドの場合、新商品の製造や新工場での立ち上げ時には、同社の社員が工場で生産に立ち会う。この段階で仕様書と異なった材料を使っていれば、工場側が故意に材料を隠さない限り、指摘は可能だ。加えて、「海外で製造した原料は、現地でのロットごとの検査のほかに、日本への通関時に、製品検査を行う。その中には酸化防止剤の検査項目も含まれる」(山下安信・品質管理部統括マネージャー)という。

 では、ダスキンはどのような品質管理体制を取っていたのか。

 この点について同社に問い合わせたが、消費者との窓口であるお客様相談室の返答は「よく分かりません」。広報に確認すると、「今後、調査します」と答えるのみ。昨年8月に社内の調査委員会を発足させ、3カ月かけて一連の経緯を調査しているはずなのに、である。その報告が出ている現在ですら、「結果的に、品質管理体制が機能していなかった」(広報)とコメントするのが精いっぱいで、日常的な検査の内容すら答えられない。

 それどころか、肉まん以外の飲茶商品については、「飲茶全商品を公的検査機関に持ち込み、確認中です」と発表する始末。「ほかの商品は安全です」と、消費者に断言できるデータを5月27日の時点で持ち合わせていない。

●「飲茶だから、言えなかった」

 もっとも、外部に指摘される前にTBHQの混入を見抜けたとしても、2000年末の時点で、ダスキンがその事実を自主的に公表したとは考えにくい。上田社長は5月23日の謝罪会見で、「公にするタイミングを計りかねていた」と隠蔽の理由を語ったが、これには、公表を躊躇する、内部事情がいくつも存在したのだ。

 まず、2000年11月末は、不祥事の公表には最悪のタイミングだった。当時は、2000年2月から始まった「マクドナルド」の「平日半額」プロモーションが外食業界を席巻し、他チェーンはその影響をモロに受けていた時期。「既存店売り上げは、前年をキープするどころか、90%を割る月もあった」(関西地方のオーナー)。その様子は、2001年に入って、本部が資金繰りが悪化した加盟店に対し、加盟時保証金を担保にした低利融資の斡旋を行ったことでも分かる。

 また、経営陣に保身の意識が働いたことも想像に難くない。ミスタードーナツの飲茶ブランドであるミスター飲茶は、1992年から導入が始まった。ただ、既存のミスタードーナツとは設備が違い、蒸し器などの追加投資が1200万円必要だったことから、加盟店の多くが導入を渋った。

 これに対し、「売り上げが30%アップし、ミスタードーナツの向こう10年間の発展を盤石なものにする」という“公約”を掲げ、加盟店に飲茶導入を迫ったのが、当時は副社長だった千葉弘二氏だ。その千葉氏が、ダスキン社内で大肉まん問題が発覚した2000年11月時点での社長を務めていた。さらにこの時、ミスタードーナツ事業本部本部長として、加盟店を説得したのが、現社長の上田氏である。

 飲茶は、2人の肝いりで導入した事業。それが、全体の売り上げを30%押し上げるどころか、導入から10年経っても、飲茶の売上構成比は10〜15%。既存店売り上げもマイナスと、公約は果たせぬままだ。「大見得を切って多額の投資をさせて結果が出ていないのに、その飲茶で不始末を起こしたとなれば、『そら見たことか』と社内外で不満が出るのは確実。だから死んでも公表できなかった」(ダスキン関係者)。

 ダスキンは6月2日、今度は約140人いる加盟店の全オーナーを集めて説明会を実施する。その席では加盟店に対して、加盟保証金(現在は400万円)の全額返還も発表すると噂されている。不祥事で業績が悪化した加盟店への配慮だという。

 運命共同体として、加盟店を大切にするのは良いことだ。だが、客商売である以上、品質管理の体制を含め、安全性に対する消費者の疑問に明確に答えられる仕組みを作る方が、優先順位は高いはずだ。(田中 成省)
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