視点:「日本メーカはビジネスを判断できない」インテル去る傳田氏語る
2002年4月24日
傳田氏は、米Intelが日本でオフィスを開設した1971年に入社、1976年のインテル ジャパン設立時に移籍し、マーケティング本部長、営業本部長、副社長、社長、会長を歴任した。2001年には非常勤顧問に就任したが、今回の顧問退任でインテルの業務から100%離れ、コンサルティング業に力を注ぐという。(聞き手は神保 進一=海外版編集部編集委員)
問:インテル在職中で最も印象に残ったのは何か?
傳田:たくさんあるけど、日本が米Intelの成長を助けたということかな。IntelのCPUのうち4ビット、8ビット、16ビットはすべて日本メーカが最初のユーザだった。4ビットの「4004」はビジコンの電卓に、8ビットの「8008」は精工舎のデスクトップ・コンピュータに、16ビットの「8086」はファナックのNC(Numerical Control:数値制御)工作機械に採用された。8086を作り始めたときは、生産ラインの立ち上げに苦労し、納期を心配したほどだった。しかし、その苦労も今では楽しい思い出だ。問:486は初期製造段階でトラブルがあったが、8086も問題があったのか?
傳田:8086が登場した当時は、日本の顧客が要求する品質と、Intelが考える品質に大きなギャップがあった。Intelは、出荷製品にはある確率で不良品が混じることは当然という考え方だった。一方、日本の顧客は受け入れ時に不良品が混じる確率は限りなく"0%"であるべきと考えていた。
そこで最初のうちは、日本メーカに出荷する製品だけ"日本出荷用品質"という特別な検査を工場に認めさせた。80年代後半からは実際に日本のクライアントが実施している品質管理手法を工場の担当者に勉強させ、Intel製品の不良が実際の製品に与える影響を理解するという方法を採用した。ビデオを製作して日本から送ったり、Intelの工場で働いている人たちを役員が日本に引率して来て研修させるといった「ジャパン・フォーカス・プログラム」を実施した。この結果、日本の高い品質基準要求がIntelに根付き、高品質の製品を世界に出荷できるようになった。
問:日本に工場を設置する計画はなかったのか?
傳田:具体的な話まで進んでいた。ある会社の九州工場を買収する計画も検討した。私は上司の承認を取り付けたが、米Intel側の最終的な経営判断で実現しなかった。頓挫した理由はコストが高いこと。人件費が高いこともあるが、工場進出に対する政府や自治体の優遇処置が乏しかった面もある。そこで、最終的には優遇処置が豊富だったアイルランドに工場を設置した。
工場は設置できなかったが、米Intelは大量の半導体製造装置を日本企業から買っている。毎年の購入額は、日本でのインテルの年間売上額に匹敵するほどだ。そのほか、組み立てを委託したり、パッケージ技術の開発などで日本メーカと協力している。
問:80286登場以降、日本のPCメーカとの関係は変わったか?
傳田:286登場以降インテルのビジネスは、米国が主導権を握ったパソコン分野が中心になった。パソコン市場は競合が激しく、営業体制に問題が噴出した。営業部員が米Intelの方針に反する営業活動をしたこともあり、パソコン・メーカなどからのクレームも相次いだ。具体的な内容は今も明らかにできないが、米Intel本社に直接クレームを届けた顧客がでてきた。
これをきっかけに私はインテルの営業責任者に再度就任し、Intelの方針に沿わない営業部員には退職してもらった。正直言って、顧客と営業的な折衝を重ねることよりは、インテルに在籍していた30年間の前半20年間、つまり4〜16ビットの時代、顧客と一緒にマイクロプロセサの市場を開拓したときの方が楽しかった。
問:今後はどんな活動をするのか?
傳田:1年前に非常勤となってから、IT関連ベンチャーに対するコンサルティング業を始めている。ITバブル崩壊で、金融機関や企業はIT関連ベンチャーへの投資に慎重になっている。このため、しっかりした技術を持ちながら資金調達に困っているベンチャーも多い。私は直接これらの経営者と会い、技術の評価、ビジネス・モデルの検証、経営者としての人柄---を見る。技術が優れているだけではダメだ。経営者としての器や信用がない人には交代してもらうこともある。コンサルタントとして経営に参画するほか、出資に値すると判断したら個人的な資金を投入している。
問:日本の半導体メーカにアドバイスはあるか。
傳田:今、日本のベンチャーへのコンサルティングのほかに、外資系ベンチャー企業の日本進出へのお手伝いもしている。その中にシリコン・サファイア技術を持った半導体メーカがあり、日本メーカとの提携を望んでおり半導体関係各社を回った。しかしその対応には失望した。具体的には、「今、その計画はない」と反応が画一的だったこと。中には「社長に提携の意味を説得できない」と断られたケースもあって、"日本メーカは自らビジネスを選択・決定できない状況にある"との印象を持った。一方、米Intelの意思決定は迅速で、このベンチャーへの投資を決めた。
日本の半導体メーカは、これまでのような半導体総合デパートではなく、得意な製品を絞り込み、資源の集中が必要だ。ところが、各社が同じことを考えていては戦略転換はうまくいかないのではないだろうか。例えば通信に強いNECは通信用半導体に、メインフレームに強い富士通はコンピュータ用半導体に、家電に強い東芝はコンシューマ・エレクトロニクス用半導体に製品ラインアップを絞り、それぞれ自社が所有する知的所有権を半導体チップに組み込む、というようになれば各社の強みを生かすことができるだろう。
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