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郵便振替口座は上限なしで元本保証

2001年11月13日
 金融機関が破綻した場合に預金などの払い戻し保証を一定額までとするペイオフが2002年4月に解禁される。これにより預金が全額保護される時代は終わる。解禁後に金融機関が破綻したら、元本1000万円までとその利息を超える分については、金融機関の残余財産に応じて支払われることになる。

 預金者が財産を守るためには、経営が健全な金融機関に預金を移したり、元本が保証される1000万円ずつ預金を分散するなどの対応が必要になる。そのためペイオフは経営が不安定な金融機関の淘汰を促す側面がある。

 こうした点を不安視する与党幹部から解禁延期を求める声が相次いでいる。解禁を5カ月後に控えた11月1日、福田康夫・官房長官は予定通りの解禁を表明したものの、延期論はくすぶっている。

 しかし、こうした議論を離れても、現在予定されているペイオフ解禁には大きな抜け穴がある。郵便貯金の振替口座の存在だ。

 郵便貯金は、住宅積立貯金や財形定額貯金などを除けば1000万円が預入限度額とされている。ところが、郵便振替口座に預入限度額はなく、しかも全額保護される。解禁後も振替口座は上限なしで元本保証される。

まるで“国営タンス預金”

 ただし、郵便振替口座は本来決済用であるために金利がつかない。経済ジャーナリストの荻原博子さんは、「デフレ下では元本が保証される意味が大きい」と指摘する。定期預金をしても金利が限りなくゼロに近いため、金融機関に現金を預けないタンス預金を選ぶ人もいる。自宅のタンスに置くよりも郵便局に預ける方が安全と考える向きには “国営タンス預金”とも言える、打ってつけの口座だ。

 まして、ペイオフ解禁で預金の元本保証が絶対ではなくなる時代に脚光を浴びてもおかしくない。金融広報中央委員会が実施したアンケートでは、3人に1人が元本保証を重視すると回答し、他の選択肢を大幅に上回る。利回りよりも元本保証が望まれる時代だからこそ、郵便振替口座の金融商品としての魅力は否定できない。

 郵便振替口座は企業だけでなく、個人も利用できる。通常貯金と振替口座からなる総合通帳「ぱ・る・る」を作れば、一定額以上の貯金は自動的に振替口座に移し替えられる。すべての現金を預けておけば、1000万円を超えた分には金利がつかない代わりにペイオフとは無縁になれる。

 郵便振替口座の存在は一般には知られていないため、ペイオフ対策のセミナーなどで取り上げられることはあまりない。しかし、数は少なくても、その存在を知った人は驚く。

 マンション管理大手、東急コミュニティーの受託管理部の宮内宏行・受託会計課長もその1人だ。マンションによっては修繕のための積立金を億単位で運用しているため、ペイオフは顧客の大きな関心事だった。

 「郵便振替口座はペイオフの穴」と宮内氏は言う。東急コミュニティーは、顧客向けに金融機関の格付けの見方や金融商品ごとのペイオフ解禁後の払い戻し保証について詳細な資料を用意した。しかし、面倒な検討をしなくても、「金利をあきらめて振替口座を利用すれば、対策は終わり」(宮内氏)だ。当然、同社の説明資料には顧客の選択肢として郵便振替口座を挙げている。

 当初は宮内氏も、郵便振替口座が上限なしで元本保証であることに半信半疑だった。そのため振替口座の説明に来た郵政省の職員に、「上限なしで元本保証である」ことを書面にするよう求めたくらいだ。結局、公的な書面は得られなかったものの、東急コミュニティーは振替口座の安全性を確信して顧客に案内することにした。

 宮内氏が信じられなかったのも、もっともなことだ。金融制度の大きな転換点となるペイオフにまさか抜け穴があるとは、普通は考えが及ばない。

民業圧迫の懸念もある

 ペイオフは、すべての金融機関で破綻した場合に間違いなく保護されるのは元本1000万円とその金利とされた点に意味がある。もともと郵便貯金は預入額の上限が1000万円であるため、ペイオフ対策にはならないと考えられていた。振替口座という例外があれば、元本保証を求める資金はそこに流れて、制度そのものに逃げ道ができる。

 ペイオフの解禁には、高額預金者の資金が債券や株式の市場に流れ、間接金融に偏った日本の金融市場の変化を促す期待もある。しかし、郵便振替口座に高額預金者の資金が流れれば、そうした期待も画餅に終わってしまう。

 振替口座がペイオフの抜け穴となることで民業圧迫の懸念もある。

 全国銀行協会は総務相の研究会「郵政事業の公社化に関する研究会」のヒアリングで、郵便振替口座の法人取引が拡大して法人決済にも広く利用される恐れを表明した。実際、1999年に日本商工会議所が会員企業を対象に実施したペイオフ対策に関するアンケートでも、決済口座に郵便振替など金融機関以外の資金決済方法を用意するという回答が約2%あった。

 しかし、郵便振替口座に見直しの機運はない。片山虎之助総務相は2月に国会で「振替口座は預貯金として扱われない。利子もつかない単なる決済手段」と答弁し、ペイオフ解禁にからめての議論を「不本意」と退けた。

 郵政事業庁も、郵便振替口座をペイオフ解禁後の目玉商品として扱うことに反発する。貯金部営業課の伊藤千代志・課長補佐は、「振替口座の本質を理解していない、ためにする議論」と言う。振替口座は決済のための口座であるため上限を設けては使い勝手が悪くなるというのが趣旨だ。多くの顧客から払い込みのある通信販売会社などの例を挙げ、上限額を1000万円と定めてしまうと成り立たないと説明した。

 当然、上限なしの元本保証というほかにないメリットを前面に押し出して口座獲得に邁進することもない。貯金部業務課の上田伸・課長補佐は、「解禁だからといってセールスなど考えていない。解禁をにらんで口座数や残高が急増する動きもない」と強調する。

専門家から疑問視する声も

 確かに郵便振替口座はこの数年間、口座数や残高が急増したわけではない。振替口座の口座数は97年度の7561万口座から2000年度の9376万口座、平均残高は8035億円から1兆1078億円に増えたが、伸びは近年になるほど小さくなっている。

 しかし、郵政事業庁がペイオフ対策としての利用に顔をしかめ、周知・宣伝の意思がないとしても、ほかにない上限なしの元本保証に魅力を感じる預金者が現れる可能性は否定できない。

 来年4月の解禁後も、普通預金や当座預金は2003年3月までの1年間全額保護されるため、一時的に資金が普通預金に流れる可能性は高い。日本銀行の資金循環統計によれば、2001年1〜6月に定期預金などの定期性預金残高は6兆円近く落ち込んだ一方で、普通預金などの流動性預金が10兆円以上増加した。郵便振替口座の上限なしの元本保証が輝くのは、2003年4月以降のことになる。

 もともと郵便振替口座を温存したままのペイオフ解禁には専門家から疑問視する声があった。慶応義塾大学商学部の深尾光洋教授は、「郵便振替口座は流動性預金と位置づけ、民間同様の措置を取るべきだ」と指摘する。抜け穴を放置したまま、ペイオフ解禁を迎えるのか。日本の金融市場の将来に大きく関わる問題だ。(廣松 隆志)
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