総会屋事件で露呈した神戸製鋼の“慢性疾患”
1999年11月23日
大阪府警は11月9日、1997年に神戸製鋼から計3000万円を受け取った商法違反の疑いで、総会屋の奥田一男容疑者を逮捕した。奥田容疑者は97年3月に2000万円、同年12月に1000万円を受領したとされる。2000万円は、同年6月の株主総会に他の総会屋が出席しないようにするための工作資金で、1000万円は改正商法施行を機に関係を絶つための「手切れ金」だったという。96年以前については時効(3年)のため立件されないが、利益供与は10年以上も続いていたといわれる。
神鋼は9日夜、水越社長が緊急会見し、府警から取り調べを受けていた梶原廣専務と執行役員の即日辞任を発表。当時の会長だった亀高素吉相談役も12月に辞任するという。併せて熊本昌弘会長、水越社長の報酬を6カ月間ゼロにするなどの役員処分と、再発防止策を明らかにした。だが、これが経営トップ層にふさわしい責任の取り方だったのか。
水越社長は会見で、「奥田という人とは面識もないし、名前すら知らなかった。寝耳に水だ」と述べた。しかし、神鋼は熊本、亀高両氏が奥田容疑者を知っていたかどうかは明らかにしていない。これがまず釈然としない。
空疎だった「絶縁宣言」の取締役会
更に利益供与のあった97年を振り返ると、神鋼は12月19日に取締役会を開いて、総会屋との絶縁を確認している。当時は野村など4大証券会社や第一勧銀などの利益供与事件が相次いで表面化。6月には東京地検の事情聴取を受けていた第一勧銀の元会長、宮崎邦次氏が自殺するという悲劇も起こっている。企業と闇社会の関係に世間の目が集まっていた。また、同年12月23日に改正商法施行で罰則規定が強化される直前でもあった。
当時、神鋼の総務担当常務は、今回辞任した梶原元専務。そして総務を総括する副社長だったのが水越社長だ。社長、会長はそれぞれ熊本氏、亀高氏で、ともに総務部長や総務担当役員などの経験があった。
この時点で経営トップ層3人の誰も奥田容疑者を知らなかったのか。知らなかったとしても、当時の状況を考えれば、担当役員らに対し、「これまで総会屋との関係はどうなっていたのか」と、厳しく問い質して当然だったはずだ。それでも報告が得られなかったとすれば、企業風土に問題があったとも考えられる。「総会屋問題の全責任は総務部門にあり、対外的に『経営トップは関わっていない』ことにする」といった不文律があったのではないか。
企業と総会屋の癒着を題材にした『金融腐蝕列島Ⅱ・呪縛』の著者である高杉良氏は「トップが知らなかったというのは説得力がない。知らなかったとしても責任は重大であり、辞任してけじめをつけるのが当然だ。神鋼の反省は不十分で、11人もの逮捕者を出した第一勧銀のケースと比べ落差がありすぎる」と話す。
奥田容疑者は「関西の大物総会屋」とされるが、神鋼はこれまで、別の大物総会屋との関係も噂されてきた。
ロッキード事件の故児玉誉士夫元被告の側近といわれた故木島力也・元出版社社長との関わりだ。90年4月には、神鋼社員だった木島元社長の長男の結婚式に、社長だった亀高相談役が出席している。木島元社長は、神鋼が尼崎製鉄を吸収合併した65年以降、経営陣の人事抗争に介入したとされる。
その木島元社長の勢力を利用したといわれるのが、4大証券や第一勧銀の利益供与事件で逮捕された小池隆一・元総会屋グループ代表だ。小池元代表は関東を主な地盤とし、先の奥田容疑者と「『東の小池、西の奥田』と恐れられた」(総会屋事情に詳しい弁護士)。
奥田容疑者を知る大企業の元総務担当者は、奥田容疑者と小池元代表の関係について、「直接的なつながりはなかったはず。だが、多くの企業が、有力総会屋である両者とそれぞれ付き合っていた」と話す。
これらの情報の真偽を明らかにするためにも、前々社長の亀高氏や前社長の熊本氏は、在任時の状況を説明すべきだろう。総会屋との関係は神鋼だけの問題ではないが、トップが毅然として対応しないという点で、古い日本企業の体質を象徴しているように見える。水越社長も利益供与のための裏金作りの方法や、裏金作りに絡んで約20億円の申告漏れがあったとされる点について「捜査が進行中」であるとして、コメントを避けている。
捜査途上のため、警察の心証に悪影響を与えたくない、という思惑があるのだろう。しかし、歴代トップが疑惑に対して説明する責任を放棄したままでは、社会や株主の信用を回復することは難しい。事件の発覚を受けて、既に神戸市や明石市が2カ月間の指名停止を発表しており、官公需の売り上げ減少が懸念される。株価も11月15日終値で73円まで下落した。
水越社長は10月、全社員に対するメッセージで、「当社の多角化経営が投資家に十分把握されていないことが、株価低迷の一因ではないか。市場は判然としない事象をマイナス側に評価するきらいがある」と述べ、投資家に対する広報活動の重要性を強調した。今回の事件で、歴代トップの責任が判然としないことも、例外ではないだろう。(塩田 宏之=編集委員)
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