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トップページ > AGING INNOVATOR 超高齢社会対応の先駆者たち > 言語の獲得は脳の発達と共に始まる 乳幼児への早期人工内耳手術を 第1回

プロフィール

静岡県立総合病院副院長
高木明(たかぎ あきら)氏
1952年生まれ。
1978年京都大学医学部医学科卒業。
1979年兵庫県立尼崎病院耳鼻咽喉科医員を経て、
1984年11月、京都大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手。
1985年8月~1988年1月、米国ピッツバ-グ大学耳鼻咽喉科研究員。
1990年京都大学医学部講師。
1992年静岡県立総合病院耳鼻咽喉科医長。
2003年同病院診療部長。同年10月京都大学医学部臨床教授。
2009年より現職。
専門は聴力改善手術、神経耳科学、人工内耳、頭頸部外科、側頭骨病理及び解剖
●資格・公職
日本耳鼻咽喉科学会専門医 日本耳科学会代議員 日本耳鼻咽喉科学会代議員 日本気管食道科学会認定気管食道科専門医 日本耳鼻咽喉科学会静岡県地方部会福祉医療委員会理事(乳幼児医療担当)
●受賞
2013年第41回医療功労賞(都道府県)受賞
Good Doctor NET メンタルヘルスとリワーク
 

言語の獲得は脳の発達と共に始まる
乳幼児への早期人工内耳手術を

第1回(2回連載)

構成:21世紀医療フォーラム取材班 但本結子
文責:日経BP社 21世紀医療フォーラム事務局長 阪田英也
2014/07/17

先天聾の人が成人してから人工内耳をつけても効果がないということですね。

高木 雑音にしか聞こえません。繰り返しますが、脳の役割は極めて大きく、言語獲得期には意味のある音のみを抽出して聴こうとして言語野が作られていきます。ですから、特に子どもの場合は親とのことばのやり取りが極めて重要です。学習期に良いことばの刺激が入ってこなければ聴覚野は伸ばせません。

例えば、両親とも先天聾で会話が手話の場合、音声言語を聞く環境にないため、子どもが人工内耳をつけても普通に話せるようになるのが難しくなるのでしょうか。

高木 後から詳しくお話しますが、そうしたケースの場合、適応を厳しく考えることが必要です。図11はヒトの視覚野のシナプス密度とシナプス数の年齢変化ですが、1歳以降でシナプスの刈り込みが起こります。

刈り込みとはどういう意味でしょうか。

高木 生後8カ月でシナプスの数は最も増えますが、使わなければどんどん減っていきます。目も生後数カ月、眼帯をしていたら取り返しのつかない弱視となります。脳は非常にエコにできていて、余分なシナプスは刈り込んでいきます。生まれてから2~4カ月で一気に増えて、8カ月頃までにピークを迎えます。その後、使わなければ5歳を過ぎたら大人と一緒になります。

図11

そうであれば、赤ちゃんにはどんどん話しかけることが大切ですね。

高木 そうです。乳児は反応しなくても実は聞いています。見えないところで伸びていますから。これに関連して図12を見てください。日本と米国の乳児のRとLの弁別を比較したものです。6カ月や8カ月では、日本人も米国人もRとLの区別は同じようなものです。ところが環境が違うと、3カ月後の1歳頃には米国の乳児が一層区別できるようになるのに対して、日本人は区別できなくなります。

図12

高木 感覚が一番伸びるのが3カ月で、言語力は1歳前後で生まれ、初期の聴覚障害がその後の音声言語認知につながっていきます。これは聴覚だけでなく、感覚器全てにおいて言えることで、だからこそ人工内耳の手術は早ければ早いほどよいのです。

しかし、生後すぐの手術は難しいのではないですか。

高木 ドイツでは生後数カ月の手術例もありますが、やはり骨が薄いこともあり、デバイスを埋める際などに注意しているようです。私は1歳で良いと思っています。

成長によって人工内耳を取り換える必要はありますか。

高木 ありません。内耳の大きさは生まれたときから成人とほぼ同じ大きさのため、挿入された電極部分はそのままで良いのです。大きくなるのは外耳道や周囲の骨で、その部分は成長したときのために人工内耳のケーブルをたるませておきます。

その後のケアはどうなっていますか。

高木 各電極の刺激の強さなどを調整します。子どもで3~6カ月に1回、大人になれば年1回程度、病院で経過を確認します。

デバイスが古くなって交換が必要となることはないのですか。

高木 日本での歴史は20年に満たないため、本当に一生使えると言い切ることは難しいですが、現時点では永久に使えるとされています。ただし、一定の割合でデバイスの不具合が生じることがあるため、稀ですが、その場合は取り替え手術が必要となります。問題は、このような優れたデバイスを活用すれば、将来、子どもの障害が軽減されて社会参加も容易になるのに、それが日本では十分受け入れられていないことです。

第1回終わり(第2回に続く)

(構成:21世紀医療フォーラム取材班 但本結子 
文責:日経BP社 21世紀医療フォーラム事務局長 阪田英也)

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